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小説「イメージ2」No:54

小説 イメージ No:54

「失礼します」
凛とした福賀の声が心地よく大浴場の露天風呂に広がった。
「どうぞ。お待ちしていました」
答えたのは30人中で一人、松竹梅子だった。
その声は湯気で湿った空気の中でも乾いて感じられた。
余程の緊張感に耐えながら必死で絞り出したに違いない。

 流しで片膝をついて掛け湯をする。
湯船を背に並んでいる女性たちには福賀は見えない。
ひたひたと静かな歩調であたかも能のシテのように湯船に近づいて
女性達が並ぶ湯船の縁まで来て手桶で軽く湯を掛けて湯船に入った。

 し~んと静まり返った雰囲気で時間が止まった空間が其処に在った。
福賀の咳払いが固まった空間を破って和らげた。
もう咲き誇って散ってしまった桜の花びらがはらはらと舞う中を躍動する龍に降り注ぐ。
産まれて初めて見る此の世のものとは思えない妖しい風景が位並ぶ女性
たちの前に展開した。

 あの時は前を向いていたから右肩だけだったが副総理に在る筈の無いモノがあって驚いた。
今は前側だが腰から上の身体全体がゆっくりと30人の目の前を横切っている。
初めて見る福賀の身体はギリシャ彫刻のダビデそのものを思わせるほど
切れのある筋肉には無駄な贅肉は見当たらない。

 福賀が微笑んで松竹を見据えて云った。
「一度イメージのワンステップのために総理になっても良いと思う。
龍が温泉を泳ぐなんて風景は皆さん初めてでしょう」
 皆んな無言で頷く。
「これから一緒に”よりよい環境づくり”を進めて行く同士として素の姿を見ていただきましょう。
それは龍が温泉を泳ぐ姿です。私が持つ秘密の共有としてよろしくお願いします」
と女性たちが姿勢を正した前を抜き手をゆっくり切って泳ぎはじめた。

 それは既に福賀にとって仲間とのコミュニケーションの儀式になりつつあった。
悲しくも運命的な出会いと絆と忌まわしくも裏社会との関わりから守られる魔除けになっている五代目彫辰の命の贈り物だ。
これが在るために福賀自身とその関わる者や組織いっさいに手出し無用となっている。

「では、お先に失礼して最上階の宴会場で待っています」
湯船のふちに置いた手ぬぐいを取って素のままの姿で此れが自然として
背筋を真っ直ぐに立てて悠々と歩を進め消えて行った。
既に宴会場には男性たちが福賀の帰りを待ちながら酒を飲み交わし合っって其の側には伊東の芸妓さんたちが静かに座を取り持っている。

 女性たちが顔を上気させながらやって来た。
あの偽りのない純な福賀の姿が浴衣の中にあるのを皆が意識している。
高さ50センチの檜造りの舞台に浴衣の尻をはしょって豆絞りの手拭いを捻り鉢巻にした福賀が上がると専属バンドのお囃子で芸妓さんたちが唄いだしテンポよく踊りが始まった。
その動きは剛に軟にと躍動感に溢れて流れていく。
カッポレだ。
そして奴さんへと続いていく。

 自分党を離党した30人とみんなの党幹部、そこに福賀と同じ理念を共有する各省庁の官僚や岩上内閣の女性大臣など20人程が加わって伊東温泉・山海ホテルに集結して新しい党の結成をしようとしている。
新党を決めて呼びかければ更に集まる数も増えるだろう。

 既に自分党の絶対多数は無くなったと云って良い状況になって来た。
TVで次の総理大臣は誰が良いか街頭で取材していた。
「そうですね。前総理の代理演説をした福賀前副総理が良いです」
「あれは凄かった。自分の言葉で語れる総理大臣は彼しかいません」
「やっぱり、福賀貴義前副総理でしょう」
圧倒的に次の総理は福賀だった。

 自民党の中では岩上内閣で副総理を務めた十和田を祭り上げようとしたが十和田は乗らなかった。
恐らく古株の利権+権力第一の議員が自分たちの云いなりになる議員を総裁にして来るだろう。
それは毒にも薬にもならない二世議員を意味する。

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 みんなの党の大海党首から提案があった。
「新党を結成する事に意義はございませんか?」
「意義なし」
集まった人たち全員から賛同の声が上がった。
「では、党の名前になりますが、福賀さんから[新党・和(わ)]は如何かと提言がありました。如何でしょうか?」
「賛成です」

 集まった人たち全員から賛成の声が上がった。
「党の名は[新党・和(わ)] に決定しました」
大きな拍手が其れに答えた。
「次に党の長を決めたいと思います」
「それは福賀さんでしょう」
これにも大きな拍手が沸いて意義なしで決定した。

「では、新党・和の長に決まった福賀さんからお話を伺いましょう」
またまた大きな拍手で迎えられた福賀が立ち上がった。
「皆さんの気持ちを受け止め”よりよい環境づくり”の政治を進めていきたいと思います。一緒に頑張りましょう」
更に大きな拍手が鳴りひびいた。

「今、大海さんから長と云われました。それで党長はどうかと私の提案
です。党長そして副党長その後の役職は皆さんが新しい役名を考えていただきたいと思っています。取り敢えず副党長を決めさせていただきます。女性の中で皆さんから信頼されている松竹梅子さんに副党長をお願いしたい。如何でしょう?」
「賛成です」
女性からも男性からも賛成の声が上がった。

「以前から福賀さんのお話を聞く機会がありまして、勉強をさせていただいていました。今回は福賀さんのイメージの中に入れていたく事になりました。よろしくお願いいたします」
またまたまた大きな拍手で迎えられた。

 そしてホテル内に設けられた研修室に分かれて今後の党の運営や選挙戦略について話し合いが行われた。
可なりの時間を費やして研鑽が行われたが明日に続きをと夫々指定されたホテルに送られて行った。

「どこかの党のように足の引っ張り合いなんて時代遅れな事はしない」 
「今までの幹部は只の党員になります」
「顧問もなし」
「係としては夫々今まで通りです」
「出来るだけ多くの立候補者を出します」
「立候補者は男性と女性を半々にします」

「党の思いを強く印象付けるために男性1と女性2の比率で行きたい」
「そうですね。思い切って行きましょう」
「賛成です」
「男性候補者に対して倍の女性候補者ですね」
「選考は厳しくしてください」
「そうです。数だけではなく、中身が大事です」
「飾りじゃないのよ女性は。ですね」
「そうです。即戦力でお願いします」

「選挙戦が始まったら入れない温泉に入りたい」
「良いでしょう。入ってください」
「やった~!」
何か福賀の癖が移ったみたいになって来た。
自然の恵みを味わうって決して悪いことではない。
どんどん福賀に染まってください。

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 つづく
 
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小説「イメージ2」No:53


小説 イメージ No:53

 共同メディア社に電話が掛かって来た。
「記者会見をしたいと思います。宜しかったら上野公園に来てください」
「どなたでしょうか?」
「前副総理の福賀貴義です。時間は午後2時ごろ広場に行きます。よろしく」 
マスコミが待ちに待った福賀の会見に各社は緊張して集まった。
指定された所はお花見で賑わう公園の広場だった。
会見は共同メディア社主導で行われる。
「間もなく福賀前副総理が此処にいらっしゃいます」

 マイクを手にした記者が各メディアに伝えている時、福賀は一人で記者たち
の後ろから野外ステージに向かって歩いて来た。
「福賀前副総理がお見えになりました。お久し振りです」
「 皆さんには 在任中大変御世話になりました。お礼申し上げなければなりま
せん。有難うございました」
「それは此方も同じです。私たちもお世話になりました。メディア側としても
お礼申し上げます。有難うございます」

 お互いが親しげに挨拶を交わし合っている。
それは福賀が在任中に福賀記者クラブを設けてオープンに情報を提供してた
経緯がある。
福賀が辞めることを告げてクラブは自動的に解散になっていた。

何の記者会見だろうと怪訝そうにお花見に来た人たちは立ち止まり集まりだし
て来た。

(誰の 記者会見かしら?)
(TVドラマの撮影かな?)

(あの人?福賀副総理じゃない?)
(そうだ。今は前副総理だけど)
(そうだわ。え~っ出て来たんだ)

(此れは見過ごす手はないぞ)
(良いお花見になりました) 
集まった大勢の人の顔には明るい陽が当たって輝いている。

「今日はお電話有難うございます。共同メディアの公園です。此処はコウエン
私はキミソノよろしくお願いいたします」
福賀も面白いけど此の記者も面白い。

「こちらこそ。突然お集まりいただき申し訳ありません。有難うございます」

「最近は偽物が横行して人の振りして稼いでいますので本物か本人確認をさせ
ていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「嫌ですね偽物は人を騙すのは良くないです。価値在るものは全て本物に限り
ます。ま、そんな事もあろうかと実証出来る様に軽装で来ましたから全く大丈
夫です。あの時と同じで良いですね」

「有難うございます。前副総理の実証からまいります。はい。お願いします」
春で寒くない季節柄Tシャツにジャケットから右肩の刺青部分を出して見せた。

「お~!初めて直にお目にかかりました。あの時のこれだけで十分過ぎます。
申し訳ありません。有難うございました」
記者が暑くもないのに大汗をかいて記者会見はスタートした。
奇しくも此の公園で五代目彫辰に見初められて命をかけて六代目を継がされた
因縁の場所で此処が福賀の出発点と云っても良い場所だ。

「まだまだ皆さん色々聞きたいでしょうからよろしくお願いします」
「 解りました。何でも聞いてください。出来るだけお答えしたいと思います」
「岩上総理の引退で党を離れ企業人に戻られて一年になりなすでしょうか?」
「そうですね。その位ですね」
「福賀さんが実業界に帰られている間に政界の方が色々変わりました。今まで
福賀前副総理の動向が解らずイライラしていた部分がありました」
「知っています。その変化は企業の仕事をしていても感じていました」
誰が記者会見をしているのか解ったので段々人の数が増えて来て既に黒山の人
集りになっている。

「それでは、今日ご連絡をいただきましたが何か仰りたい事があってと思いま
すが、どんな事でしょうか?」
「そうです。花が咲き孰れ散るだろう晴天下でお伝えしたい事が出来ましたの
でお忙しい中に敢えてお集まり願ったわけです。一度、岩上さんに頼まれて手
伝いました”よりよい環境づくり”をまだ残したままになっていましたので其の
続きをさせていただこうと思います」

「それは、政界に復帰を考えていらっしゃると伺ってよろしいでしょうか?」
「そうですね。これから色々準備しての事ですが、新たに挑戦したいと思って
います。孰れ新しい形で新しい風を政界に吹かせたいです」

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「どんな立場でいらっしゃるかお聞かせください」
「それは・・・」
と云って福賀は明るく微笑んだ。
それは今度の総選挙への挑戦だと受け取った黒山の人たちから暖かい歓声と
拍手が沸き起こった。

「有難う。それは此れからのお楽しみと云う事にしてください」
其の後、集まった記者たちから様々な質問が飛び交った。
福賀は丁寧に答えながら群衆の中をゆっくりと山を降りて行く。
聞くのを忘れていた事に気付き記者が追いかけて聞いて来た。
「福賀さん。此処の場所を会見場所に選ばれたのは何故ですか?」
「明るい場所で明るく自然な形でと思ったからです」
「有難うございます」

 ステージになっている場所から降りた福賀は群衆の中に入って行った。
ぞろぞろと一緒に皆んなと歩きながら福賀は先頭に立って歩き出した。
福賀が行く先に広場がある。
その中央に来ると福賀は芝生の上に座った。
自然とぞろぞろ一緒に付いて来た人たちも自然な感じに福賀を囲んで座り
込んだ。

 福賀は一緒に歩いた人たちと青空の下でゆったりと同じ空気を楽しんだ。
皆んな福賀を知っている。
どんな事をして来たかも知っている・
やり残している何かも知っている。
どの位の時間を共有し合っただろうか?
自然な感じで福賀はその場を離れて行った。

桜の花が咲き始めた野外での福賀貴義前副総理の政界復帰宣言記者会見はTV
から臨時ニュースで流された。

 岩上総理が残した会期が終わり、衆議院は国民の信を問う総選挙になる。
自分党も新しい総裁を決めて選挙体制に入った。
それは一つの行事の様に型に嵌める作業にすぎない自分党だ。
内容は兎も角として形作りは慣れている。
しかし、今回は今まで通りには行かない。
それが解っていない自分党の党員たち。

 自分党の逆戻りに反発して離党届をだした議員が出た。
其の数20人を越しただろう。
これは彼らの予定通りの戦略だった。
彼らは省庁の隠れた改革分子で福賀の塾生から立候補して当選した一年生議員
たち。
 
「今度は自分党の中堅と若手が離党したぞ」
「福賀前副総理はまだ捕まらないんか?」
「岩上前総理に当たってみたか?」
「当然です」
「ダメだったか?」
「ダメでした」
「そうだろうな」
「伊東の山海ホテルの方は?」
「ダメでした」

 何処を探しても福賀の姿を捉えることは出来ない。

「福賀さん何処にいらっしゃるのでしょう?」
「出て来てお話を聞かせてくださ~~~い」
新聞やTVで呼びかけても福賀は 宣言をして以来姿を消してしまった。
「それはそうだ出馬宣言以上は宣伝になってしまうもんな」
「自分党を離党した中堅と若手議員の数が30人になりました。
「先に離党した福賀塾出身の新人議員を合流することが解りました」

「福賀さんが関係している会社や団体に長期休暇願いが出されました」
「本当か?いや、それは当然のことだ。ほかには?」
「最大野党のみんなの党に動きがあります」
「どんな動きだ?」
「福賀さんと大海さんが接触してるようです」
「何!」

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 伊東の山海ホテルの方は大海のみんなの党の党員と福賀側の連中で大賑わい
だが女将が手際よく差配してくれている。
兎に角、先ずは福寿司恒例の貸切大浴場露天風呂から始まった。
「皆さんへお話がございます。男性と女性の大浴場露天風呂ですが福賀専務は
最初の時で今は前副総理ですが皆さん一緒に入りたいと望まれますが訳ありで
皆さんとご一緒出来ないので貸切にしました。なので男性と女性の大浴場を
夫々30分貸切にします。如何ですか?ご一緒したい方は申し出てください」

 男性議員と福寿司連は勿論だが、女性議員たちも一斉に貸切券を申し出た。
其の時間が来て女性たちは大浴場の湯船に浸かって福賀の来るのを待った。
既に衆議院本会議で闇雲元総理の汚職を暴いたあの瞬間を知っている議員達。

「失礼します」
凛とした福賀の声が心地よく大浴場に広がった。

福寿司の常連客でも初めての人が居る、
勿論みんなの党員も福賀側の議員も初めての経験になる。

 つづく

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小説「イメージ2」No:52


小説 イメージ No:52

「何しろ数では絶対なんだから」
「そうだ前総理に感謝だね」
自分本位の腐りきった体質は変わっていない。
暫定内閣は数で成立した。
そして残りの期間一年が過ぎた。
そして異変は起きた。
 
「福賀さん。これからどうしますか?」
「元に戻って留守をした会社で働きます」
福賀は雪月花の専務に戻り、東西観光の社長に帰り、フランス航空の副社長に
なった。
「岩上さん。また其の内伊東に行きましょう」
「そうだね。楽しみにしてるよ。ところで福賀さん幾つになりました?」
「33になりました」
「え~33歳?信じられない。本当に?」
「ほんとうです」

 4年ぶりだろうか、福賀は家にいて6時に起き基礎トレーニングをし終えて
ナミカと朝食をとっていた。
ほとんど精進料理に近い食事だ。
「ナミカ。点字の方はどう?」
「皆さんと一緒に先生にしごかれています」
「そうか。実際に使えるくらいになった?」

「実際に使いながら勉強してるけど裏で打って表で読むでしょう」
「そうだね。凄く難しいね。両方を覚えなければならないもんね」
「そうよ。目の不自由な人は覚えるのに凄く苦労すると思う」
「だから最近は点字離れって話も聞く」
「それでも、教科書はやっぱり点字や記号でしょう。覚えなければならない」
「教科書の点訳なんか大変でしょう」
「そう。大変で腱鞘炎を起こす人も沢山居るのよ」
「皆んな夫々助け合ってるんだな」
「そうね。ボランティアの力が凄く大事です」
「解る。凄く解る」

「手話の方は?」
「手話も難しいけど、何とか話せるようになって来たわ」
「僕も手話の方は先生と何とか話せるようになった」
「そうね。そんな感じだわ」
二人は手話で話し合っている。
「お疲れ様でした。少しは休めますか?」
「う~ん、どうかな?」
「その感じでは休めそうもないわね」
「何かスッキリしないんだよ」
「みたいね」

 パソコンが熱くなっている。
最近三原色(黄・緑・赤)の丸がくるくる回る事が多くなった。
動き出すと良いんだけどそれ迄が大変。
気長に画面が変わるのをじっくり待たないとやり直しをさせられる。


「今度でイメージを形にしたいと思ってる」
「どうぞ。共に白髪になるまで楽しみにしてるから思い切ってしてください」
「有難う。ナミカ」
「おじいさんとおばあさんで楽しく暮らしましょう」
「寿司と温泉だったから肉系を楽しみたいな」
「私はそうね。お寿司と温泉かな」
「良いところありますよ」

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 そんなところに又々電話が入る。
「福賀さん。みんなの党の大海です」
「どうしたんですか?」
「新しい党の事でお会いしたいと思っています」
「う~んと、そうですか。私が反自分党の連中と会ってる情報が入った?」
「はい。入りました。お願いします。お休みのところ申し訳ありますんが」

「休ませてもらえないみたいだ」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「解った。ナミカも気を付けて」
「葉山の父が身体に気を付けてと云っています」
「有難い。充分気を付けますと云っておいて」
また福賀は出掛けなければならない。

 どうしても密な話は信用ができる福寿司って事になってしまう。
「えらっしゃい」
「ご無沙汰。あと一人来るから」
「お疲れさま。また何か始まるのかな?」
「そうなるかな。大将。今日はちょっと相談事で此処を使わせてもらう」
「そうかい。どのくらいなんで?」
「対でだから1時間位かな」

「あいよ。其の後だね。行くのは?」
「そうですね。よろしく」
みんなの党の大海が入って来た。
「えらっしゃい」
「福賀さん。大海です。良いお店ですね」
「大将。ちょっと座敷を借りるね」
「どうぞ」

 此処から新党が動き出す最初の話し合い。
「福賀さん。貴方を中心に一つにまとまって事にあたるのが良いと思います」
「中の人たちの気持ちはどうなんですか?」
「今日こちらで福賀さんとお会いするのは中の気持ちを伝えるためでした」
みんなの党の総意は福賀前副総理の一派と一緒になって新しい党を作り福賀に
党首になってほしいと云う話だった。
「どうでしょう。新しい党を福賀さんのグループと私たちのグループを一つに
して自分たちの為ではない国民のための真の新党を作りませんか。福賀さん」

「大海さんとみんなの党の皆さんの気持ちが決まって居るのでしたら一緒に
やりましょう」
「其の時は福賀さんが党首になっていただく事になりますが」
「良いでしょう。なりましょう」
「では、これから私のグループが集まっている伊東のホテルに行きましょう」
「大将!」
「用意万端整ってるよ」
「女将!」
「OKですよ。もう直バスが来ますよ」

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 まだ宵の口で6時ちょっと過ぎ。
「福賀さん。これはどうなって居るんですか?」
「伊東の山海ホテルでしょう。そこは私の常宿で此処は其処に直通のルート
になってるお店なんです」
大将が福賀が来たら店の一泊温泉旅行で山海ホテルになってると説明する。
「え!じゃあ山海ホテルに誰が決めたんだろう?」
「誰か私のルートをしっている人が決めたんでしょう」
「誰か?」
「多分、松竹梅子さんだと思いますよ」

「そうか。そうでしたね。松竹が云っていました。福賀さんの戦略講座を
受けたと。なるほど。男女機会均等ですね」
「そうです。兎に角、絵に描いた餅ではなく実際に形にして行きましょう」
「それは当然な事ですが現実には大きなテーマになりますね」
「もたもたしていられません。時代的にかなり遅れています。イメージの
鮮度がどんどん落ちて行きます」
「そうですね。頑張りましょう」

 バスが来ました。
「いつも東西観光をご利用いただき有難うございます。お店のお客様から
乗ってください。おお社長もお友達とご一緒ですね。珍しい」
もちろん運転は車が担当で社長ゆずりの安全運転ガタともゴトとも云わない。
「福賀さん此のバスの乗り心地良いですね」
「有難うございます。これが我が社の売りでして社長のイメージです」
「なるほど福賀さんのイメージですね」
「日本もこんな素晴らしい運転で楽しく過ごせると良いですね」
「そこに来ましたか。って事はひょっとしてみんなの党の大海さん?」
「当たりです。よろしくお願いします」

 いつもの様にSAで休憩をとって伊東温泉・山海ホテルに到着。
「いらっしゃいませ。お疲れ様です。前副総理お久し振りです。こちら大海様
皆さんお待ちかねです。どうぞ先ずは大広間にご案内いたします」
「お世話になります。突然で申し訳ありません」
「いえ。もうかなり前にご予約をいただいたいます」
「ほんとうに?」
「はい。松竹さんからです」
「そうでしたか」
「福賀専務さんの方の皆さんも先ほどお着きになりました」
「そうですか。お世話になります」
「大変な数の皆さんですので此処だけでは足りません。他のホテルに頼んで
おきましたのでご安心ください」
「有難う」

 大海は松竹の手回しの良さに感心していた。
「福賀さん。驚きました。こんなに手際良くは私には出来ませんでした」
「出来る人がやれば良い事です」
「大海さんは私に会っていただく役割だったのでしょう」
「そうでしたね。これからが楽しみです」
「楽しみましょう」

 つづく

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小説「イメージ2」No:51

小説 イメージ No:51

 自然を破壊しても構わず突き進む愚か者。
自然は呆れ怒っている。

 人間は自然から生まれた生き物だから自然が大事と考えているのが福賀だ。

 縄文の神は愛の神。
しいて云えば福賀にとって神は生き物を生み出した自然。
自分たちは生き物としての人間、自然を敬い大事にする人間。

 自然は破壊してはならない。
活かす事が賢いあり方だと信じている。

 以前、何処かで地球上の人口を減らすために戦争をしていると聞いた事が
あって、なんて恐ろしい発想だろうと思った事がある。

 人口が多過ぎて自然破壊へ進むなら半分づつの冬眠はどうか?
福賀はこのイメージを科学者に伝えて研究プロジェクトを立ち上げていた。

 その研究の状況を今日聞けるかもしれないと楽しみにしてる。
今まで気になって聞いてみた事はあったが、進めていますと云われていた。

 福寿司の次男坊の料理がいくつものテーブルに並んだ。
「さ~ぁ皆さんお好きなものをどうぞ」
客が一斉に料理に向かった。
聞かれると丁寧に次男坊が説明している。

「んめぇ~」
日本から選ばれて冬眠研究チームに入った秋田の亜北が叫んだ。
福賀はそのチームの中に居た。
「で、進み方は?」
「可なり進みました」
「どの程度?」
「難病もモノによっては治癒します」
「冬眠で?」
「そうです」
「と云う事は?」
「既に冬眠は可能です」
「それは凄い。やったね。素晴らしい。次の段階は?」
「実現への準備では・・・」
福賀のパリのアトリエで行われたパーティは盛況のうちに無事終わった。 

「ちょっと出掛けて来ます」
福賀は周りの人にそう告げた。
顔には揉み上げから顎に掛けて密集した髭が生えている。
「年に一度顔を見せてくれと云われているので」
行き先はアラブ圏の王国に間違いない。

 健康上の不安で政界を引退した岩上前総理がテレビのインタービューを
受けている。
「今、福賀前副総理が次期総選挙に立候補するような感じですが?」
「知っていますよ」
「最近お会いになりましたか?」
「いや、あれ以来会っていないです」
「前総理がイメージされた”よりよい環境づくり”を引き継がれるような」
「いや、実はね”よりよい環境づっくり”は私の考えでもあるけれど彼の考え
でもあるのです」

「え!前総理だけのお考えではなかったのですか?」
「そうです。私の内閣のネーミングは彼がつけました」
「初めて伺いました」
「だから。私が緊急入院しても施政方針演説を彼が原稿無しで出来たのです」
「なるほど。あの原稿無し2時間前代未聞の演説の謎が解けました」
「私と同じ考えを持っていて感覚的に優れていて世界にも通じていたし、英語
もフランス語も堪能だったり情報は得ていましたから彼に手伝いを頼んだら副
総理でならと言われて党に了承させて彼に副総理で手伝いを頼みました」

「自分党で前総理の手伝いをした福賀さんが自分党を離れた事は?」
「それは、自分党で出来る事に限界を感じたからだと思う」
「どんな限界ですか?」
「それは此れからの福賀君の動きを見ていれば解る事でしょう。いや、今迄の
彼の仕事を確認したらイメージ出来るのでは・・・」

 空港に福賀が降り立ったのは未だ明るい時間だった。
迎えの車に乗り込み王宮に向かった。
向かい側に座って居るのは福賀より年下の王子たち。
「兄さん。メールでいろいろ有難う」
「いや~、大したこと出来なくてごめん」
「父も早く会いたくて昨日からソワソワしています」
福賀はここでは家族として迎えられて居る。

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「おお~息子よ。来てくれるのをどれほど待ったことか。よく来てくれた」
「お元気でなによりです。お父さん」
そうだ。
そう云えば福賀は両親を3歳で亡くした孤児だった。

 久しぶりの再会に国王と福賀は気持ちいっぱいのハグをした。
「君のアドバイスで思い切った環境づくりを進めている」
「そうですか。それは楽しみです」
「そうなんだ。私もワクワクしているし、息子たちも張り切ってやっている。
まさか明日帰るなんて事はないだろうな」
「明日って事はないです。三日ほど居させてください」
「三日だと。それは明日と変わりない。短すぎる」
国王の顔に寂しさが刻まれるのが解って心が痛い。
歓迎の晩さんは福賀には一年ぶりのご馳走だった。
それぞれ会えたことを喜び合って話を楽しみ時間を過ごして王宮の中の自分の
部屋に福賀は下がった。

 三人姉妹が部屋にやった来る。
「お兄様。お帰りなさい。
「君たちも帰っていたんだ」
「そうです」
彼女たちの声がハモって美しい。
三姉妹は三つ子だから凄く気が合って通じ合えるようだ。
吹き抜けになった天井の窓から月の光りが福賀の身体に降って来る。

「私が此処に帰るの解っていた訳じゃないよね?」
「解っていました」
「どうして解ったの?」
「何となく」
「三人とも?」
「そう三人とも」
「何か私に・・・?」
三人は顔を見合わせて一緒に云った。
「お兄様とお風呂に入りたいから」
「此処で?」
「いいえ。パリのお兄様のアトリエのお風呂で」

「お兄様。ここからパリに行かれるのでしょう?」
三人は三様に感がよく働く。
「私たちも一緒にパリに行きます。いいでしょう?」
三人の中で一番の姉になるイナが聞いて来る。
「パリで待っている人がいます」
「私を?」
「そうです」
「君たちと関係のある人?」
「そうです」
「誰かな?」
三人はお互いに顔を見合わせミステリアスに微笑んだ。

 福賀は一日延ばして四日目の夜の便でパリに戻った。
勿論三つ子の三姉妹も一緒だ。

「誰も待って居ないじゃないか?」
「今に来ます」
三姉妹はまたミステリアスに微笑み合う。
「イナ、ウナ、エナは幾つになったの?」
「22歳になりました」
「そう。大学を出たら何をしますか?」
「イナは父の元で手伝いをします」
「ウナはパリに残って文化的な分野で活動したいと思っています」
「エナは東洋の国に関心があるので出来たら日本に行って仕事をしたいと思っ
ています」

 福賀のアトリエには20人は入れる温泉露天風呂が付いている。
王女たちの希望で初めて福賀は一緒に入ることにした。
以前に王宮に行った時は国王が倒れて福賀が気功で一命を救った事があったが
その時は王女たちは居なかった。

 この王女たちの力でアラブも変わって行くのだろうと福賀は思いながら彼女
たちが並んで入っている湯船の中に入って行った。
湯面が揺れて三人の王女も揺れている。
揺らしたのは福賀。
三人の前を泳いでいる。
ローマ彫刻のような洗練されて筋肉質の身体とその背中に彫られた花びら散る
中を登って行く龍に彼女たちは息をのみ目を見開きながら眺め固まっている。

「何で私とお風呂に入りたかったの?」
「何でだか解らないけど何故かそう思いました」
「そうです」
「そうです」
「一緒に入って解りました。このエキサイティングなお兄様を知りたかったの
だと思います」
「そうです」
「そうです」
日本の刺青の話をして彫られた経緯を説明してどんな事でも命の尊さを彼女た
ちに話して聞かせた。
「お兄様。ハグしていいですか?」

 つづく

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小説「イメージ2」No:50


小説 イメージ No:50

 岩上総理を最上階の自分の部屋に案内をした。
「此処が私の秘密基地です。此処には温泉露天風呂も付いて居ます」
「ほ~これは驚いた。いつから此処に?」
「雪月花の専務になって間もないころでした。ふと海が見渡せる場所に行きた
くなって伊東に来ました。ちょっと山を登ったところに此のホテルが目に付い
たので来て見たら女将と気が合って色々アドバイスを求められて関わったので
其の代償と云ったら何ですがこの部屋を貰いました」

「なるほど。それでよく解りました。良い出会いだったのですね」
「そうなんです。此処でフランスの美術家たちと知り合い世界に広がって行き
ました」
「大体が大学時代から始まっている様ですね」
「私は3歳で両親を失って叔父に育てられましたが孤児です。財産は両親から
受け継いだ資質と可能性です。無形の財産の発掘に一生懸命に没頭して出来る
限り力を付けました.。色々ありましたが、化粧品の仕事を望んでいて雪月花
にスカウトされました。」

「貴方に興味を持つ様になったのは元旦に出た雪月花の新聞広告が其の始めだ
ったと思います。今までに誰からも受けたことのない衝撃でしたから。あれが
福賀貴義に関心を持たせてくれました。そして貴方のよりよい環境づくりです。
あらゆる事につながる広い意味をもった理念が私自身の考えとつながりました」

「このホテルに関わってフランスの美術家と知り合って行動範囲が欧州を始め
アラブ園にもつながり、それから中国の中枢につながりました」

「福賀さんにはタラレバが無いんですね」
「はい。それはしない事にしています」
「誰でも私でも、あれをしておいたら、あれをやっていればと後悔があります」
「そうですね。一介の孤児として其れはしないで生きようと決めました」
「だから精神的にも肉体的にも強い福賀貴義が存在している」
「まだまだですが後悔をしたくないです」
「年齢は関係なく福賀君ではなく福賀さんって呼ばせてもらいます」
「総理もかなり面白い人ですね」

「特別って良いとは思っていないのですが福賀さんの温泉露天風呂は特別です」
「入りましょう。岩上さんと裸の付き合いになります」
「そうですね。これからもよろしく」
「私の方もよろしくです」

「あの時は肩の部分だけでしたが全身を拝見して初めて刺青に神々しさを感じま
した。彫った五代目彫辰さんの魂が彫り込まれて。福賀さんに無理に頼んだ償い
に彫った気持ちが伝わって来ました」

「こんなの親が産んでくれた身体に彫りやがってって思いましたよ。でも、彼の
気持ちも解るんです。この世界は陰の世界で保存されています。戦後入って来た
タトゥーとは違う日本独特のモノで精神的な意味合いが強いです」

「日本の政治家でも彫り物を背負っていた人が居たと聞きます」
「そうですか。昔は表だったものが今は裏ってありますね」
「そうです。難しいところです」

「ある以上。ある事を不思議な世界として密かに楽しんでもらおうかと思って
福寿司の温泉一泊旅行で一緒した人たちと此処の女将さんに頼んで貸切にして
もらって入っています」
「そうでしたか」

「失礼します」
「貴方は?」
「はい、バスの添乗員山谷です。福賀副総理にお願いして参りました」
「福賀副総理と入ったことあるの?」
「はい。福賀専務さんの時になんどもご一緒させていただきました。それ以外
では岩上総理が初めてです」

「え~そうだったの?」
「はい」
「他にもいるのかな?」
「福賀専務さんとこうした裸の付き合いをされた方ですか?」
「そう」
「いらっしゃると思います。限られた信頼出来る人たちが・・・」
「福賀さんどうなの?」
「山谷の云う通りですよ。此処には少ない限られた人。貸切にして大浴場では
可なり多くの人たち」

「今日は福賀さんのお誕生日でしたがお祝いもしてなくて申し訳ありますん」
「そうだった。いつも頼みごとばかりで慌ただしくて申し訳ない。改めてお誕
生日おめでとう」
「私もあわただしくて・・・お誕生日おめでとうございます」
「君もか?」
「はい」

「あの~総理。龍が温泉を泳ぐの見たことあります?」
「ない」
「見たいですか?」
「見たいね」
「総理が見たいそうです」
「山谷。君は気が利きすぎですよ。ではお祝いに龍を泳がせて見ましょうか」
自分でお祝いにっておかしいでしょう。
空の月もリクエストをするように輝きを増したようだ。
程よく温まった福賀の背中は桜の花びらがほんのり薄桃色に染まっている。

 IMG_20230822_154100_791.jpg

 パリのポンピドー美術館で「自然らしい自然」をテーマにした福賀の世界展
が開かれた。
美術館の壁面には「自然らしい自然」を描いた福賀の作品が飾られている。
部屋の空間には巨大な毒キノコをイメージする物体が置かれている。
これも福賀の作品。

 その又別の空間をねって阿波おどり連が部屋から部屋を渡りながら踊っている
強烈な太鼓の音が消えると越中八尾のおわら風の盆を踊る会が現れて胡弓の音色
が後を追う。
夜になるとバリ島のバリ舞踊のサダ・ブダラ・ラティ・ヤマサリなどの舞踏団が
ケチャの中央で踊る。
美術館のいくつもの部屋を使って福賀の作品と音楽と踊りのコラボレーションが
1ヶ月続いた。

 その間の夜には福賀のアトリエでパーティが行われている。
そこには様々な個性が集まってくる。
此処の建物のオーナーでアラブ圏の王子もその姉妹三人も参加して福賀に怪しい
視線を送っているし、国連事務総長のカタル女史も福賀にサインを送っている。

 パリで日本料理店を開いている福寿司の次男坊がやって来た。
「福賀前副総理お久し振りです。今日は目一杯楽しんでいただこうと店を閉めて
やって来ました。後ほど料理を並べたいと思います」
「よろしく。厨房は解っていますね」

 次々と色々な人たちが集まって来た。
パリ航空の社長もやって来た。
「よろしく」
フランス美術連盟の会長が、フランス政府高官が、アラブ圏の大使が、中国の
高官が、イギリスの大使がなどなど。
そして
「福賀さん。お久し振り・・・」
パリ画廊のオーナーが・・・。
「お待ちしていました」

「おお!キキいつも有難う」
キキはパリ航空の社員で美術連盟の人たちを日本美術ツアーのコンダクター
として伊東温泉・山海ホテルに来た時に偶然居合わせた福賀と会ってお互いに
協力いあっているエスパーの一人だ。
このパーティも福賀のために仕組んでいた。

 そして福賀が待っていたグループがやってきた。
今日来ている各国高官の国から選ばれた極めて優秀な科学者たちだ。
「福賀さん。良い知らせがあります」
「そう。それは嬉しい」
「後で話します。楽しみにしてください」

 つづく

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小説「イメージ2」No:49


イメージ No:49

 その 緊急の電話は総理の部屋からだった。
総理室に続くドアを開けて入って行くと岩上総理が絨毯の上に寝かされていた。
側にもう一人のf副総理十和田と秘書が付いていた。
緊急のサインは十和田から発信されたものだった。
「以前と同じ心筋梗塞と思われる」
「緊急の対応は?」
「した」

福賀は以前のように医師が来る前に出来るだけの事をしなければと動いた。
「少し離れていてください」
と十和田に云って岩上にまたがった。
静かだった部屋の空気が床から天井に沸き上がって渦を巻いた。
此処の部屋は3階にある。
そこまで地中の気が上がってきた。

 福賀は懸命に気を吸い上げて集め岩上の心臓をマッサージしている。
こうした状況はこれで2度目だ。
これが最期だと福賀は感じていた。
それだけに何としても助けたい。
「ふ~ぅ」
「ふ・く~」
「ふ・く・が~~」
止まっていた心臓が機能し始めて来たようだ。
その瞬間に福賀は絨毯の上に音を立てて仰向けに倒れた。
意識はあるが呼吸は荒い。
殆どの気を注ぎ込んでしまったらしい。
福賀は目を閉じて動かない。

 医師が着いた感じを霧の中で感じていたように福賀は思ったらしい。
気がついた時には岩上と並んで福賀は一番嫌いな点滴をされていた。
前の時は病気の事を福賀に替えて逃れたが今度はそう云う訳にはいかない。

 一命を取り留めた岩上は自宅にいた。
「福賀さん、有難うございます。2度まであの人の命を救っていただき何と
お礼申し上げて良いか」
「奥さま。ご心配だったでしょう。岩上総理は日本を背負っていらっしゃった
のですから、その責任は計りしれないくらい重いはずです。とっても真面目な
方だから精神的な負担が溜まったのでしょう」

「福賀さん。うちの人にこれ以上の働きは無理のように思うので私も云っている
のですが大丈夫と云って聞いてくれません。福賀さんから岩上にもう十分だから
辞める様に云っていただけませんか?」
「そうですね。私も十分過ぎると思います。私からお願いしましょう」
福賀は意を決して岩上の部屋に入って行った。

「総理。ご家族が心配していらっしゃいます。これ以上無理をなさっても良い結
果は得られにと思います。心臓に疾患がある事は国民の知るところとなりました
ので引退なさるのが最善かと思います」

「そうか。福賀君がそう云うなら間違いないな。私は私の事を解っっていないの
かも知れない。君が云う通りだ。そうしよう」

「お疲れ様でした総理」
「いや、君には無理なお願いをして申し訳なかった。でも、君に手伝いを頼んだ
のは正解だった」
「有難うございます」
「で、どうしたら良い?」
「総理は党から離れ、政界から引退された方が良いです」
「君は?」
「私は岩上さんから手伝いを頼まれたから居る人間ですから、依頼主が居なく
なったら居る必要がなくなります。私は自由にさせていただきます」

「自由か。そうだね。長い間しばっていて申し訳ない。お世話になりました。
本当に有難う」

 岩上は党に心臓に疾患がある事を理由に離党届を出し、総理を辞任すると
心に決めた。
福賀も自分党を離党し副総理を辞して自由になると心に決めた。

「総理お疲れ様でした。リフレッシュに温泉でも行きますか」
「良いね福賀君。どこか良い温泉あるんかい?」
「ありますよ。お任せください。では、私について来てください」
「あぁ、ついていきましょう」

 黒いポルシェに岩上を乗せて取り敢えず銀座の福寿司へ走らせた。
「う~ん流石だな~。福賀君いつも私の仕事を手伝ってくれてる時とは感じが
ちがうね。颯爽としてる」
「でも、仕事で駆け回る時はこうしていました」
「よくやってくれました」
「此処に留めます」
そこは銀座の駐車場。
「少し歩きます」
着いたのは福寿司。
のれんを割って福賀が先に入る。
 
「えらっしゃい」
いつも変わらない大将の威勢のいい声が気持ちいい。
「おお!足がちゃんと付いてるじゃねえか!生きてたんだね」 
「生きてて悪かったね」
「悪かったさ(笑)おや?一人じゃないんだ」
「そうだよ。よろしく」

 そんな嬉しくてたまんない大将とのやりとりを伺いながら女将がのれんを仕舞
いに動く。
そして、例の2箇所に電話を入れる。
岩上は初めて福賀の別の顔を見るように目を丸くしている。
「福さんのお知り合い?」
「そうです。私が大変お世話になった方で」

「そうですか。福賀のお世話は大変だったでしょう。ま、ここは自分の実家と
思って気楽にやったくださいって云っても此れからの事で、今日はちょっと~
忙しいですが・・・」
「女将~?」
「OKですよ」

 今日はいつもより時間が早い。
「この方は病み上がりだから・・・お茶にして」
「お茶?」
「福さんは?」
「私はあの日本酒」
「いいのかね?」
「いいんです」

 そんな打ち解けた雰囲気で寿司を楽しんで居ると。
「バスが来ました」
女将がしらせる。
「ってことで、お客さん。例の福寿司一泊温泉旅行だから、行く人は家に連絡
入れてね。行かれないお客さんは気をつけて帰ってまた来てね」
岩上が怪訝そうに福賀の顔を伺っている。

 まだ総理と副総理だがそれがどうって事ないんだけど福寿司の世界では。
そうは云っても並みの二人じゃないのは誰もがよく知っている。
片や自分党をひっくり返した岩上、片や原稿無しで代理の所信表明演説をした
福賀なんだから其れは誰だって興味津々でしょう。

「って事で此れから伊東温泉に行きます」
「え~~~っ」
岩上は思いもしなかった展開にびっくりだ。

「さあ。慌てず急がずバスに乗ってください。何だか知らないけど其処の二人
勿体ぶらないで乗って。みんな乗れずに困っています。全く世話がやけるった
らありゃしない(笑)」
「勿体ぶったりしてませんが(笑)」
「冗談もわかんねえ。いいから乗って乗ってください」
他の客がどっと笑う。

「参ったな~ぁ」
「やられっぱなしで・・・どう返していいか解りません」
「庶民と離れて居たって感じしませんか?」
と福賀。
「そうだね。確かに」
「こっちもどう面倒みたらいいか解りません」(笑)
久しぶりの山谷が凄く嬉しくてはしゃいでいるって誰にも感じられている。

 岩上に続いて福賀が乗り込むと福寿司のお客が次々に乗り、福寿司の連中が
乗り込んで最後に添乗員の山谷が乗り込んでバスは出発。
「本日は東西観光をご利用いただきまして有難うございます。これから福寿司
さんご常例の伊東温泉一泊旅行で山海ホテルに向かいます。ちょと其処のそう
其処の大きなおじさん」

 しょっぱなから添乗員に声を掛けられ総理、またビックリ。
「私かい?」
「そうです。どっかで見た覚えがあるんだけど。あなた俳優さん?」
「俳優?私が?」
「そう。悪役じゃあなくて良いもんの二枚目俳優さんじゃないの?」
「私が良いもんの二枚目俳優?冗談でしょう」
「ほんとイケメンだもん。その隣に座ってる貴方だれ?」
福賀がいつもと違って本気になる。
「馬鹿なこと言ってんじゃない。良い加減にしなさい」
「あれ~あんたは人に指図するほど偉いんか?」
しまった。
やっちまった。

 山谷に乗せられたと福賀は思った。
「あ~申し訳ない貴方のジョークに気付かずマジに乗っちゃってお恥ずかしい」
「さすが福賀さん」
乗務員の顔がニコニコ嬉しそうに微笑んだ。
「発声練習はこの位にいたしまして、今日は特別ゲストと云って良いでしょう。
岩上総理と福賀副総理をお迎え出来て大変嬉しく思っております。多分皆さんも
私と同じ気持ちでいらっしゃるのではないでしょうか」
大きな拍手がそれに答えた。

「運転手も緊張しているでしょう。運転は当社の取締役車。添乗させていただく
私も当社取締役山谷です。明日まで皆さんとご一緒させていただきます。どうぞ
よろしくお願いいたします」

 いつもの様にサービスエリアで休憩をとって後半も車の安全運転で無事に山海
ホテルに到着した。

「ようこそ山海ホテルへお越しくださいました。福寿司御一行様。そしてお客の
皆様。そして特別ゲストのお二人様お疲れ様でございました」

 もう、全て連絡済みで此れからの手筈は整っている。
何故か福賀が温泉に入りたくなって此処に来ると空には月が煌々と輝き、一つの
雲が側に付き添っている。

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 つづく

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小説「イメージ2」No:48

小説 イメージ No:48

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第455号「上手ってなんだ!」2023-08-23
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イメージ No:48

「戦略は?」
「其れを云っては戦略になりません」
「そうですか。副総理はなかなかの戦略家って感じがしますが」
「さ~どうでしょう。私の戦略はイメージでして」
「福賀副総理が基本としているものは?」
「私が 基本としていものは自然と人間・生き物を基本に考えています」
「自然に対しての心は如何?」
「謙虚でありたいですね」
「政治的には?」
「自然を生かす方向で関わりたいです」
「自然を汚したら?」
「自然が汚れたら生き物は滅びます」

「自然を汚す事は?」
「生き物を殺す事です」
「空気も水も海水もですね」
「そうです」
「生き物は自然次第ですね」
「海水を汚せば魚は死にます」
「毒された魚を食べたら?」
「人間が侵されます」
「自然を汚す人間を自然はどう見てますか?」
「愚と見てるでしょう」
「なかなか自然に 賢いと思われそうにないですね」
「そうですね」
「放射能で汚れた水はどうされますか?」
「 海に汚れた水は流しません。浄化して処理します」
「有難うございました」 

 IMG_20230822_154006_250.jpg

「パソコンが中々思うように動かなくなったのでネット契約元にお助けの電話
をしようとしたら急に動き出しました。解ったんですかね」
「解ったのでしょう」
「人間も機械も 心があるんですね」
「さ~それはどうか解りません」

 一般には健康な肉体と健全な精神と云われているが福賀は健全な精神と健康な
肉体と思っている。
身体は大事だが精神の方が先ず先行して大事だと思っている。
要するに全て精神(メンタル)によるところが大きいと考えている。
技術は大事だが愛がもっと大事。
そういう人なのだ。

 福賀は武道から精神の重要さを学んでいる。
彼のブレーンには様子を見て精神領域に入り込んでメンタルの強化を図っている。
勿論、本人承知の上でだが・・・。

 今、福賀は女性経営者の集まりに呼ばれて其の中に居て誰とも視線を合わさず
に話をいている。
此処で何を話しているのか。
それは「プラスになる戦略」についてだ。

「なかなかイメージは思い通りにはいきません」
「そうですね。そうだと思います」
「でも、諦めずに戦略を練る練習を重ね失敗をしながら経験を積んでいく事が大
事です」

「先づはイメージを描くことからですね」
「どんなイメージを描くか?」
「そうです。そこに考え方や発想が必要になります」
「プラスを創る」
「何が何にプラスか?」
「そうです」
「それは人間が人間に対して?」
「それは自然に対しても・・・」
「一番大切な事ですね」
「我々は生物ですから」

「戦略は今まで男性のモノかと思っていました」
「そんな感じもありますね」
「戦略って云うと何か悪い企みのようなニュアンスがありました」
「そうですね」
「でも、プラスになる何かをしたいとイメージして、そのイメージを形にする
ために必要な方法を考えれば、其処に戦略が生まれます」
「何をどうして、それからどうしてと考えていく其のために必要なもの、それが
戦略ではないですか?」

「そうです。云い換えれば戦略はイメージを形にする下描きです」
「そして戦略をねって形を作っていく」
「それも、国内だけではなく世界の中で・・・」
「思い通りにいったら面白くないでしょう」
「たまには思い通りにいってほしいです」
「それはそうだけど・・・」
「いかないものですね。思い通りには」
「そうですね」
「そこで必要なのが戦略です」

 少し、いや大分年齢を重ねたパソコンを此処のところ酷使した感があります。
赤・黄・緑が入った可愛い円がくるくる回る事が多くなり具合よくないです。
今日はこの辺で止めときます。

 つづく

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小説「イメージ2」No:47


No:47

 選挙運動の期間は秋口でちょうど祭りが行われている最中だった。
北海道から青森そして岩手と宮城へ新潟に飛んで富山はおわら風の盆おどり
に参加する事で夫々の土地の人たちに溶け込んで行った福賀だった。
一度も宣伝カーには乗っていない。

 選挙運動は岩上総裁と当の幹部が真摯に国民の安全と国の平和を訴えてる
誠実さが国民に認められて自分党の単独過半数獲得に繋がって岩上総理大臣
が新しく誕生した。

 自分党の大勝利は福賀の力によるところ大である事は周知の事実。しかし
福賀は何処でも誰にも岩上総理の理念と働きと人徳と云っている。
「これで岩上総理への手伝いも出来た。でも、自分党で出来る事もそろそろ
限界かも知れないな」
選挙が終わり「嫌われない日本」と「よりよい環境づくり」として基地なし
「日本完全独立」を進めている福賀だった。
「そろそろ1年になりますか」

 外では花火大会の大輪の花火が打ち上げられていた。
近年、浴衣が好かれて男性も着るようになったりして女性にならって良い。
祭りも自分の街だけではなく全国の県は世界の国々との連帯が盛んになった。
福賀は副総理室の窓からイメージして其れ等の情景を楽しんでいた。
岩上総理の部屋から緊急のベルが鳴ったのは其の時だった。

 総理室への連絡ドアを開けると総理が胸に手を置いて床に倒れていた。
秘書官が総理は執務をしていて急に倒れたと福賀に告げた。
「十和田副総理に連絡は?」
「しました」
隣の部屋から十和田が入って来た。

「十和田さん、総理は心筋梗塞です。救急車を内密で呼ばなければ」
「そうだな。知られてはまずい」
救急車が呼ばれた。
既に其の間に福賀は総理の身体にまたがって気を送り続けていた。
5分ほど送り続けると総理が’ふぁ~と息をはいた。
「総理。解りますか?福賀です」
「あ~福賀君か」

 岩上の意識が戻ったようだ。
それでも福賀は岩上の胸のあたりから頭部に掛けて気を送っている。
「私を引っ張ったのは君だったか」
「そうですよ。よく帰っていらっしゃいました」
「極彩色の光が私を呼んでいた。もう少しで吸い込まれるところだった」
「大変ですがこっちに帰っていただかないと困ります」
「ハハハそうか。そうだったね」

 総理が倒れたとなっては具合が悪い。
「総理は少し休まれたら大丈夫でしょう。私が過労で倒れた事にしましょう」
総理と十和田副総理が顔を見合って頷きあった。
「そうしてくれるか」
この件は極秘にされて福賀は部屋から救急隊員に運ばれて病院に搬送されて
行った。

 空には秋を知らせる雲がいっぱいに散らばっていた。
岩上総理は総理官邸に帰り、医師と看護師に診察を受け披露回復の点滴を受け
る事になった。
福賀は検査を受けて少し風邪気味のようだと診断されて薬を出してもらい帰る。

 福賀副総理が救急車で運ばれ入院と外部にもれ(意図的に漏らす)記者たちが
押し寄せて来た。
「先ほど帰えられました」
と病院側のコメントで記者たちは・・・。
「どちらに?」
と聞くが其れはまた愚問だった。
「解りません。福賀副総理にお聞きください」

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 其の頃すでに愛車が眠っている駐車場から福賀を乗せた黒のポルシェが静かに
滑り出していた。
家には帰らず今日は自分の秘密基地に向かっている。
途中のSAで必要な連絡をとり、後でメールしてほしいと頼み、車は伊東温泉・
山海ホテルに向かって走って行く。

 山海ホテルに着き地下の駐車場から直接最上階の自分の部屋の入った福賀は
女将に直通の電話を入れた。
「はい。直ぐ伺います」
福賀は取り敢えず部屋付きの露天風呂の入る。
暗い海に向かって大きく手を広げ空を仰いだ。

「失礼します」
女将がワゴンに冷やされたワインと洒落た肴を乗せて入って来た。
「有難う」
福賀は湯船から上がり其のまま3台のPCに向かって行き夫々のPCを開く。
メールボックスに入っている何通ものメールを確認する。
女将がシルバーグレーのバスロープを福賀に。
「有難う」
「お疲れ様です。私もお湯に浸かりたくなりました」
女将の身体が福賀の背に触れて来る。
「どうぞ。女将もお疲れ様」

 向き直った福賀は其の時初めて女将と目を合わせた。
福賀の目が女将を吸い込み始め、サイコダイビングに入った。
「私の方の事は思ってくれていれば感じられるから思ってください」
「解りました」
「パリ航空のキキも同じだから思うだけで大丈夫。通じます」
「はい」
「気持ちで連絡を取り合いましょう」
「了解です」
何の事か解らない会話だけれどお互いエスパー同士なんだね。

「してみますか?」
「はい」
女将は福賀がメールの返事を書いて送っている間に湯に入る支度をしていた。
福賀が仕事の用事が済むのを待って湯に浸かりに行く。
「そう。こう云うこと」
二人は背中を流し合って肴つまみワインを楽しんだ。
「今度いつ此処へ?」
「う~んです」
「そうですか」
「元に戻るか、先に進むか」

「其れはそうと、女将大分気を使っているようだね」
「以前のように専務さんって呼ばせてください。私は何も隠せませんね」
「少しい良いですか。横になって」
「はい。こうですか?」
「そう。其れで良いです。気を送ります」
福賀の例の気の注入が始まる。
おいおい岩上総理にして来たばかりじゃないか。
まず頭の両端から、そして胸は離れた上から次は腰これは骨盤辺りを斜め上
から手を離し気味に気を注いでいった。

 アラブ圏の国王がそして岩上総理が心筋梗塞で倒れた時に三途の川の手前
から福賀が強い超人的な力で連れ戻したあの気を初めて女将に注いだ。
湯上りの身体に生気が蘇ったように薄い桜色が浮き上がって来た。
「有難うございます専務さん。長年の気疲れが取り去られた感じです」
「良かった。女将には色々お世話になりっぱなしだから」
「そんな事云わないでください。専務さんのお陰の方が遥かに大きいです」

 そう云えばこの山海ホテルは福賀が関わって今の姿になった訳だからね。
女将の気持ちは勿論それだけではなさそうだけど。

 としても人間も動物も植物も全て生あるものは持ちつ持たれつですね。
岩上に頼まれた手伝いは十分に果たして自分党の改革出来て総理大臣に出来た。
もう少し頼むと云われ手伝う事にした。
今までの政府のあり方と官僚のあり方検証して改め始めた。
官界の方は民間人で構成した監査機関を設けて不正があったら洗い出して
告発すろ。

 政府を構成する与党の派閥にもメスをいれ、政治を私物化している権力者を
告発して潰していって国民と懸け離れた状況を直している。
其の一つが自分党の最大派閥闇雲派の会長の告発だった。
その後、自分党の中も利権目当て議員とそうでない議員に色分けされていった。
岩上総理の健康状態も気になる。
早々に引退を考えてもらった方が良いのではないかと福賀は思い始めた。

 定例の記者会見に福賀が出ている。
「常に良い環境を求めています」
「悪い環境を是正いてからですね」
「そうです。私は絵そ描くので、キャンバスに向かってイメージを形にして行き
ます。画面の中でイメージの環境を出来るだけ良い感じにしていかないと気持ち
良く進められません」
「良くない感じになったら?」

「思い切って描き直します」
「経営にしても云えますね」
「政治の世界でも同じですね」
「そう。描いたものが必ずしも良いとは限りません」
「折角描いたのに?」
「そう。折角って無いのです。求めるものと違えば其れを大事にして何とかしよ
うとしても良くなりません。描き直す思い切りが大事です」

「勿体ないとは?」
「そんな事は思いません。折角だから何とかしようとしても、方向が違えば悪い
方向にどんどん行ってしまうでしょう。描き直す、何度でも描き直す。その積み
重ねが大事だと思います」
「官僚の環境も描き変えを?」
「そうですね。意識改革を始めています」

「福賀副総理の分子が可なり居たりして?」
「戦略は言葉ではなく事実を作りながら進めて行くと良いですね」
「特権意識は?」
「そうです。特別な権力を持っているって意識を直さなければいけないでしょう。
人間形成の敵である優越感は良くないですね。同じ人間同士で人を見下げる意識の
働きですから良くないです」
「それが福賀さんの意識改革ですね」
「そうです」
「それは?」
「今まで院外で話し合って来ました」
「何人の官僚と?」
「何人もの官僚とです」
「今の官界は壊れますか?」
「壊れるでしょう」
「いつ頃?」
「近いうちに」
「戦略は?」

 つづく


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小説「イメージ2」No:46

小説 イメージ
No:46

 福賀はヨーロッパ諸国・中近東諸国・東洋圏の諸国の首脳と会っている。
「では、不戦条約と相互安全保証条約の締結をよろしくお願いいたします」
それぞれの国と条約を締結の事務手続きを進められるようにして福賀は日本へ
帰って来た。

「こうして世界の各国と平和を共有する条約を結べばアメリカの軍事基地を
持つ意味が双方になくなり、日本はアメリカの支配から完全に開放され本当の
意味で独立出来る」

 国連では今だに日本に駐留軍を置いて植民地にしている状況に疑問の声が
あがると西欧や中近東など多くの国から非難の声が上がり始めた。
「いや、アメリカは日本と安全保障条約を交わし日本を守るために軍事基地を
置いている。日米同意の上である」
そのアメリカの弁明と取れる答えには他の国の感触は良くなかった。
「アメリカは第二次世界大戦終了後残定処理として駐留したが其れは日本が
戦争放棄による無戦国として独立を見届けるためではなかったか。その役割は
充分果たしながら今だに駐留し多くの基地を存続させ又しても統合を理由に
100年も活動できる大基地を日本に押し付けようとしているではないか」

「アメリカは基地で日本を支配して完全な独立をさせないでいるのでは」
「日米同盟とは云ってもアメリカ上位の同盟であって、同等ではないように伺
えるが如何か」
「日本の国民の多くは日本はアメリカの州ではないか、アメリカの子分ではな
いかと思っていると聞いている」
「日本を豊かにさせない策を色々な面で行なっているのではないか」
「終戦後何年も乗用車を作らせなかったり、飛行機の生産を許さなかったりと
強い抑止力で抑えていたのではないか」
「其のために生産技術が発達できなかったり、経済的にも発展できずに来た」
「其の反面余ったウランを使うように仕向けて原子力発電を開発させたりした」

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「資金面でも同等とは思えない負担を日本に掛けていないか」
「米軍基地に掛かる日本側の負担は可なりアメリカ側を上回っていると思われ
アメリカの国債購入額も相当なものと聞き及んでいて、その影響は国内の国債の
購入に委ねて国家予算を組み立てている状況は異常としか言いようがない」

 こうした日本の現状に対する世界各國の認識も福賀の相手を知って嫌われない
日本外交推進の影響が出て来たと云っていいだろう。
こうして国際的に理解され真の独立国日本へと福賀のよりよい環境づくりは進め
られている。

 次はアメリカの基地のない沖縄の独立ではないか。
そしてアメリカの基地のない日本の完全独立国。
政・官・財の関係改善。
おぼろ月夜の露天風呂で福賀はイメージしていた。

 贈収賄容疑で闇雲議員と派閥の議員数人・官僚数人・企業側の役員が警視庁の
特捜2課に呼ばれた。
それぞれの家宅捜査が行われ証拠書類が押収された。
それらの行動は以前から内偵が行われて国会の質問の応酬中に一挙に行われた。

 国内の「よりよい環境づくり」は政・官・財の特権意識と利権の悪用を改める
事に目的があった。
「総理であろうと大臣であろうと、高級官僚であろうと社長であろうと其れは
組織の[役]にすぎない。主役だからと云って偉いわけではない」
これが福賀の認識なのだ。
福賀は人間が人間を支配することを嫌った。
威張る人間は大嫌いだ。
久し振りで福賀の足は銀座に向かっていた。

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「えらっしゃい」
相変わらず福寿司の大将は威勢がいい。

「ご無沙汰だったじゃないか。死んじゃったかと思ったぜ」
「おいおい。そう簡単に死なさないでよ」
あうんの呼吸で女将がのれんを片付ける。
「やったね。福さん」
「やっちまった」
と福賀。
パチパチと客席から拍手が起きる。
「すかっとしたぜ。良かった良かった本当に良かった」

「次は何をやらかしてくれるんだい。おいら楽しみしてるんで」
「次ね。云わぬが花。花より寿司」
「女将!福さんが寿司だとよ」
「あいよ」
女将がお茶と日本酒を持って来る。
「女将どうした」
「OKですって。聞くだけ野暮だよ」
「ちげえねえ」
「福さん。何から行く?」
「バスが来るまでだから車庫から光り物いこうか」
「よしきた」
久しぶりで福寿司一泊温泉旅行になるようだ。

 そろそろ総理の任期が終わり衆議院は解散して総選挙に向かう。
「次の政権が決まるまでは副総理だからね。福賀さん」
それまで副総理として手伝ってほしい意味で岩上は福賀に告げた。
「ま、仕方ないでしょう総理」
大きな祭りが福賀を呼んでいた。
街全体が祭りになって屋台が広がっている。
市役所を起点に合計15基の山車が引かれて街を練っている。
所は埼玉県川越市の「川越まつり」だ。
祭りは世界の文化だ。
お囃子と笛と太鼓でワクワクする堪らないね祭りは。
他にも色々あって、例えば富山は八尾のおわら風の盆が福賀は好きだ。

「そうだね。まだまだだ。そして党としては今まで出来なかった企業献金の廃
止が出来た。君が「週刊じぶん」の市販を考え作ってくれたから出来た。
あれが育ったから企業献金廃止が出来た。省庁に監査機関を純民間メンバーで
構成して、従来の仕事をチェック出来て不正やミスを見つけられた。
官僚の優越感と特権意識を弱める事に成功した。国民と正解の距離は君がTVに
積極的に出て縮めてくれたから「自分党」も「内閣」も高い支持をいただいて
いる。
それは今までの不信感が強すぎたからで喜んでばかりではいられないと思わな
ければいけない。まだまだこれから」

「そうですね」
「もう一度、途中からではなく初めから総理を務めさせてほしいんだ」
「解りました」
公認立候補者の決定など選挙に向けての仕事が続く。
「ちょっと軽い食事を・・・」
「そうですね。忘れていました。何か食べましょう」

「今の体制ではかなりの選挙資金がいるでしょう?」
福賀は岩上に聞く。
「そうだね。出来れば金の掛らない選挙でありたいのだが」
福賀は現状では選挙に資金がいるのも仕方がないと解っている。
金のかからない選挙がこれからの課題になる。

「私が出来る範囲で党に献金しましょう」
福賀は手伝いを頼まれた時点で其のことは覚悟していた事の一つだった。
「それは有難いが、そうした負担は君に掛けたくない」
「私の推薦した候補者も何人か居ることですし、だから一時自分党に入ります」
「入党してくれるのか?」
「其の方が良いのでは?」
「それは、そうしてくれたら私は心強い」
「では、入党の手続きをして選挙資金の準備を・・・」
そう云うと福賀は宵闇の中に消えて行った。

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「嫌われない日本をイメージした外交も歓迎されている。政・官・財の関係の
環境改善は企業献金の全廃と省庁職員の天下り禁止で進んでいる。政治家は
自己の利益を求めてはいけない。国民と国の利益のために命をかけて働く事が
政治家の使命である。選挙では真摯な気持ちで国民の皆さんに信を問わなければ
ならない。正しく裏表の無い心で国民の皆さんの信頼を得てほしい。不正を行う
候補者は即日公認を取り消し党を除名する。国民の皆さんの平和と安全のために
働く政治家を充分に自覚して選挙に当たってほしい。各自、党の資金を当てにせ
ず自己資金を元にして出来る限りの努力をするように。以上です」

 この総理の通達を見て候補者たちは今までに無い緊張感に包まれた。
「総理。この選挙は最後の選挙になるかも知れないですね」
と福賀は云う。
「多分そうなるだろう」
と岩上が受けた。

「いいんでないかい」
福賀はいつも反対ばかりしている「ともだちの党」の幹部と満月を見ながら
北海道の或る所の温泉旅館で露天風呂に入っている。
周りの岩には昨日降った雪が積もっている。
其の雪を月の光りが煌々と照らして明るい。

 福賀が野党の人たちと会うのは今日が初めてではない。
「みんなの党」の人たちとも「ともだちの党」の人たちともこうして会って
情報や意見を交換している。

「いいでないかい。コラボレーションさ」
異質な者同士が集まって一つのものを作るコラボレーションだ。

野党の連中とだけじゃない。
この後に右翼と言われている人たちとも会う事になっている。

 また、全く違う分野にイメージを広げている。
人間も動物のように冬眠出来たら荒れ果てた自然の回復が可能になる。
世界の人間が半分づつ順番に冬眠して交代しながら順繰りに生活を行えば自然
を戻すのも夢ではない。
既に或るところで密かに研究チームを作って福賀のイメージが膨らんでいる。
いずれ良い報告が来るだろう。

 つづく

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小説「イメージ2」No:45

小説 イメージ No:45

 福賀は気配を消しながら街に出て歩いていると男が一人気配をけして後を
付けて来ていた。
その後を付けて来る男も気配を消して少し間隔を開けながら付いて来る。
福賀は後の男の正体を透視して人気のない場所へ誘うように入って行った。
そして福賀の後ろを付けて来る男の後ろに二つの影が追っている。

 全身黒づくめの福賀を付けて来た男は自分党幹部から刺殺を以来された
スナイパーか殺人請負人に違いない。
恐らく他にも隠れて福賀の様子を伺っている気配を福賀は感知している。
程よい距離間隔をとって林の中に入って行った。
男がサイコダイビングを仕掛けてくる気配を福賀が感じた直後だった。
男は凍りついたように固まってしまった。
闇の中から現れた二つの影が固まった男を挟むようにして連れ去っていった。
恐らく闇の世界の人間か、ひょっとするとCIAだったりするかも知れない。
福賀は其の気配を背中に感じながら街の灯りの中に消えた。

 いよいよ福賀の周りで色々な力が働き始め、魑魅魍魎の世界と其処から抜け
出そうとする人達の熾烈な戦いになってきた。
自分党の旧体制下の連中は外から来た福賀に良いところを持って行かれほぞを
噛んでいながら自分たちの欲望を形にしようと躍起になっている。
「闇雲会長。何か仕掛けませんか。刺客も用をなしませんでした」
「そうか。彼を何処かに誘い出し不正な行動を掴めるような仕掛けを考えろ」
「解りました。やって見ます」
「みんなの党が福賀に接近している情報が入りました」
「自分党を解体する気かも知れない」
「自分党がなくなったら我々はどうなります?」

「無くなる事はないが今みたいな力は無くなる」
「それは我々の存在価値が無くなるって訳でですね」
「そうだな」
「それはいけません。次も無くなります」
「そうだな」
「何としても福賀を追い出して闇雲会長に返り咲いていただかねば」
「だから云ってるだろう。彼を失脚させるんだ」
「何がなんでも」
「そうだ」

 すでに現実ではあり得ない妄想になっている事とも知らず党内では魑魅魍魎
感覚が息づいているのだから国民と如何に離れているか。
だから永田町の常識は非常識と国民から思われている。
福賀をおとしいれる策略はすでに実行に移されていた。

「福賀副総理にお出でいただき恐縮です」
「いや、京都は古都と云われるだけに趣きの品格が高く感じられます」
「恐れ入ります。今夜はごゆっくり京都を楽しんでいただきたいと思います」
「有難う。あまり気を使わないでください。疲れますから。お互いに」
「おいでやす。おおきに福賀副総理さん」
「お世話になります」
「お世話になるのはこちらどすえ」
「あ~そうだったね。参ったな~」

 こんな事を福賀がしたり云ったりしませんね。
誰だって福賀を知る人なら直ぐ解ってしまうのだが闇雲派のやる事はこの程度。
これは或る商社の接待を装って賄賂を渡そうとする安っぽい企てなのだが。
これが福賀に裏を書かれて大失敗に終わる。

 その同じ頃に東京は赤坂の中華料理店では闇雲前総理がゼネコンの社長と蜜
談の最中でおまけに何やら沢山の札束が入った紙袋を渡されて店を出て来た。
秘書らしき共を連れているが紙袋は闇雲がしっかり持っている。
ど~んと誰かに突き当たった。
「無礼者!」

「何?無礼者だと。人に突き当たっておきやがって何だ!」
闇雲が思わず手が出て相手の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
相手は踏ん張って堪えた時に相手のTシャツをはだけさせてしまった。
其の時だった相手の右肩に入っている刺青が現れて其れを見てしまった。
あ此れは不味いと思ったのだろう。
其の手を離して飛び散った札束をお供と一緒に拾い集めて駆け去って行った。

 衆議院分会の議場では自分党の代表質問が行われている。
質問者は自分党の最大派閥の会長前総理の闇雲だ。
「自分党の党員であり、議員であり、総理経験者がこうした質問をするのは
非常に心痛む事であります。他党から質問されては我が党の恥を晒す事になる
ので質問をさせていただきます」
自分が所属している党に関した質問をあえてしている正当性をアピールする。

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マティス展より

「福賀副総理に伺います。今年の4月15日の夜9時頃は何処にいらっしゃい
ましたか?」
「はい。今年の4月15日の夜ですか」
上着の内ポケットから手帳を取り出し確認。
「9時頃は東京の赤坂にいました」
闇雲はしたりと思いニンマリと口だけで頷いた。
「福賀副総理ウソをついてはいけません。これはテレビ中継されています。
今年の4月15日夜の9時頃京都で財界の或る人と会っていたのではありませ
んか?」

「闇雲議員、今年の4月15日私は東京の赤坂に居ました」
「ダメですよ、福賀副総理。貴方は京都におられた。これを見れば明らかです」
闇雲議員は証拠の映像をスクリーンで提示するように求めた。
「どうですか?ここに映っている人は福賀副総理でしょう。違いますか?」
福賀は全く動じる様子がない。
「私は赤坂に居ました。闇雲議員も4月15日その時間は赤坂におられました」
一瞬、闇雲の顔が固まった。

「闇雲議員が私が京都に居たと示された写真の男は私ではありません。私に似た
私のダミィーになってもらっている人です。私は闇雲議員が秘書を連れて或る人と
密かに会う情報を得て赤坂に行きました」
闇雲議員の顔が歪んだ。

「闇雲議員に伺います。赤坂の中華料理店の個室で或る人と会って重そうな紙袋
を受け取り店を出たところで事故に会いませんでしたか?」
質問者は私だと云わんばかりに答えなし。
「サングラスをかけたヤクザ風の男とぶつかりませんでしたか?」
闇雲は固まってしまったか言葉がない。
「其の時持って居た紙袋を狙われたと感じて反射的に男のシャツを掴んで引っ張
りませんでしたか?」
闇雲の固まった身体が震えだした。

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マティス展より

「其の時、持って居た紙袋が地面に落ちて中から札束が転がり出て来たのを秘書
の方が急いで拾って紙袋に入れましたね」
闇雲は自分が投げた罠にはまっていた。
もう頭の中は真っ白になっているのだろう。
身体を丸くして質問者席にうずくまって動かない。

「闇雲議員いかがですか?間違っていたら云ってください」
闇雲が突然起き上がって反撃にでた。

「ねもはも無いでっち上げの嘘っぱちだ。どこにそんな証拠があるんだ」
呻くように吐き捨てて闇雲がわめいた。

「ぶつかったのは私ですが解らなかったようですね」
「そんなバカな。ぶつかったのが福賀副総理だって。そんな事ありえっこない。
あの男には刺青があったんだから」

「そうですか。事故にあったのは確かなんですね」
「ああ、事故はあった。だけど秘書と食事しただけだ」
「それだけですか?」
「ああ、それだけさ」
「紙袋はどうしましたか?」
「そんなもの持ってない」
「其の中に札束が入っていましたが」
「そんな事はない。人を落とし込むのもいい加減にしたまえ」
「でも、その刺青の男が見ています。そのほか通行人も見ています」
「だったら、その刺青の男を連れて来なさい。だいたいその刺青の男が副総理
だなんてあり得ないでしょう。証明して下さい。出来るんですか?」

「出来ます。其の前にその時の様子を撮ってありますから見ていただきましょう」
闇雲の必死の抵抗に福賀が答える。
「そうですね。京都のようにダミィーでないように闇雲議員と争ったヤクザ風の
男が私だった証拠も示さなければなりません」

 議長に訳を話し許可をとった。

「私は国立アート大学の一年生の時から3年余り五代目彫辰なる人に六代目彫辰
を継がせたくて付け狙われました。そして三年生の6月に命がけで六代目彫辰を
継いで欲しいと頼まれ此の人を死なしてはならないと仕方なく承知してしまった
のです。私とその関わるところに害が及ばないように守る刺青を五代目彫辰は私
の背中に入れました。テレビの放映もあるので其の点のみボカシを入れるように
してください」
と云いながら上着を脱いでネクタイをとりYシャツを脱いでTシャツになり右肩を
出して議員席に見えるようにした。

 其処には彫られた雲の部分が見て取れた。
闇雲議員はありえないモノを見せられて声もなくうなだれた。
議場は騒然として静まり返り異様な感じで溜め息につつまれた。

「本日はここまで。明日まで閉会します」
議長のやや興奮気味の声が議場にひびいた。

 つづく


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