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小説「イメージ2」No:42

小説 イメージ

No:42

そっと福寿司の暖簾をくぐって入って行く。

「あや?」
し~っと福賀が口に指を添えて合図をする。
解ったと女将が頷いてカウンターの中に向かって女将が口をパクパクさせる。
(フ・ク・ガ・フ・ク・ソ・ウ・リ)って送ってのれんを取り込みに行った。

「え~急ですが。今日は店の温泉一泊旅行になりました」
「何で?福賀福総理が来る訳がないし」
「え!来たの?」
「嘘でしょう」
「本当です」

「福賀副総理はあそこにいらっしゃる」
「あれは大将が撮っておいた代理演説のビデオでしょう」
「あ、そうか」
「で、こっちに居る人は?」

「凄い事やってくれましたね」
「こら!それは俺が最初に云うんだ。先に云っちゃた」
「大将ごめん。みんな云いたいよな」
「云わずにいられませんよ大将」
「あんな大変な事をやってくれちゃったんだから」
店中もう賛辞の嵐と拍手で大騒ぎになってしまった。
いくら福賀が気配を消しても消しきれない福賀の全体に蛍光塗料が塗られて
いるような状態になっている。

「バレたか。福寿司さんの寿司が食べたくてこっそり来たのに」

「解った。皆さんあの話は後でゆっくり夜通しで副総理に話を聞きましょう」
「いいんですか?朝まで付き合っていただけるんですか?」

「朝まで話し合いましょう。此処から始まった大事な話だから」

わ~っと歓声が上がった。
「いいか。今日は特別だからな。出来るだけ皆んなで行こう。どうだ?」
「いきますよ。行かないでか」
「今日行かないでいつ行くの?」
「お前さん。ちょうどいい人数よ」
「良かったね。みんなで行けて」

「あれ、海辺さん来てたの?知らなかった。福さんから連絡があったの?」
「いいえ。何となくいらっしゃる気がしたんです」
「そういうのエスパーって云うんでしょう」
「そうです。私は福賀専務のエスパーです」
海辺は女将と二人で笑いあった。
「女将。頼んだよ」
大将に云われて女将が2箇所に連絡を入れる。

 30分少しでバスが来た。
バスの中では国会中継のビデオの話で大盛り上がりだ。
中でもやっぱり大将が他を寄せ付けない勢いでまくし立てる。
「総論・各論・具体論だよ。国民の立場で議員の後ろに居る我々に向かって
話してくれてるって、こんなに嬉しい事はないって初めて思ったね。それも、
官僚の作った原稿じゃなくて、自分の言葉で語った。それも突然の代理の
所信表明演説だよ。前半1時間休憩20分だった。その後また1時間。議員の
方は休んだけど福さんはその間ず~っと壇上に立ったままだった」

「あの代理演説が議会史上初めての出来事だって解っていました?」
「そんな事考えたりしますか?任された事を果たすだけでしょう」
福賀副総理に自分がなっちゃってる人がいる。

「そうですね。任されて責任を果たす事だけに気持ちを集中しました」

「初めての事で、今までに全く無かった事に出会って感動しました」
「確かに始めたの事は素晴らしい事だけど。責任の方が重かったのでは」
「日本だけじゃなく、世界でも無かった。あれは世界的な事件ですよ」
「よく出来ましたね。あれは考えていたパフォーマンスだったのですか?」

「いや~ぁあれは岩上総理には申し訳ないが私が手伝いをさせていただくには
幸いな機会でした」

「え~~~?」

「あれは本当に一か八かの勝負でした。まさか総理が入院で代理を任される
なんてね。降って湧いた災難だけど。なるようになれって腹を括りました」

「その日の朝頼まれて、用意する時間無いですよね。原稿なし手ぶらで壇上に」
「今までの人は事務方が作った原稿を読むだけだったじゃないですか」
「そうでないと出来ないからだよ。自分のしっかりした考えがないから、
事務方に頼って作ってもらう。それを読むだけ。それが副総理は総理の代役で
何故原稿無しで出来たんですか?」

「それは、総理と私の理念が同じだったからです。私に手伝いを頼んだのも
私が引き受けたのもそこなんです。その点はかなり面倒な部分なので後で
ゆっくり説明します」

「もう皆んなテレビに釘付けで動けませんでした」
「あの時に動いていた人間は福賀副総理だけでしょう」
「それが終わったらうちに来ちゃったんだから、どうもこうも何んて云ったら
良いか。だってよ、テレビじゃまだニュースで福賀副総理の演説を報道してる
のに本人が来ちゃって此処に居るって可笑しくない?」

「大将が初めて福賀専務と会って息が合ったのは何か在ったんですか?」
「あったね。初めて店に来て温泉に行きませんかって云われた」
「それがどうだったんですか?」
「こっちの気持ちとぴったり合っちゃった」
「温泉に行きたかった?」
「そうなんだよ」

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「そんな訳でこうなったんだよ」
「なるほど良く解りました。それで私らもこうしてご一緒出来てるんですね」
「そう云う事だな」

「記者会見に戻りますが総理とどんな話があったのか聞いて良いですか?」
「そうそうそれが聞きたいです」
「記者会見の時に聞かれて、それは岩上さんに聞いてくださいと云ったあれ?」

「あれは突然パリに電話があって、どうしても手伝ってもらわなければなら
ない自体に来て居るって云われたんです。一方的にね。住む世界が違い過ぎる
からね。無理だって初めは断った。それでも、自分党を変えるのは今で、改革の
チャンスだって口説かれた。貴方のイメージがデザイン出来るチャンスだってね」

「で承知されたのですか?」
「何か条件をつけたのですか?」
「ただでは承知しなかったでしょう」

「そうですね。手伝いをどんな形でお考えですかって聞いたら総理になったら
閣僚としてと仰ったから其れでは副総理でなら手伝えると思うと云いました。
直ぐ返事が来て副総理で手伝ってくれって。それで私は我儘だから自由に
泳がせてくださいってお願いしたら解りました。其れは肝に命じて守るって」

「云ったんですね。凄いな~。記者は此処を聞けば良かったんですよね」
「ちげえねえ。岩上総理は良く福さんの事を知っていましたね」
「調べていたんじゃないですか」
「情報収拾は仕事のうちですからね政治家は」
「それに福賀専務は業界でもマスコミでも可なりの地名度高いですよ大将」

「あの時の総理の話では此れからは女性に頑張ってもらわなければいけない
って云っていました。その点も私と同じ考えです」

「それにしても一人か二人が良いところでしょう」
「申し訳みたいにね。そんなものでしょう。今までの感覚では」
「それが一気に半々ですからね。もう誰もが唖然とするほかないでしょう」

「それも政策のうちです。男女機会均等は今までは絵に描いた餅でした」

「云っては悪いけどお飾り程度で入れてますよって感じでね」
「法的には掲げてるけど実体が無かったモノを実際に形にしちゃった」
「それが凄いよね」
「男女半々の組閣なんて何処の国でも出来ていませんよね」

「何処でもやってる事をやっても何も変わりません。絵でもそうですが、全て
オリジナルでなければ価値がありません。やらないだけです。やれば出来ます」

「そうか。それがイメージ戦略ってやつですね」
「話はあの原稿なし代理演説に戻るけど、あの演説をフランス航空の社長が観
ていたそうですよ」
「フランスでも?他の国でも観てたでしょう」

「そうですか。何処で誰が見ていてくれるか解らないものですね」

「テレビ局は外の様子も中継してました」
「街角だけじゃない。テレビのあるところ全部で観てました」
「何しろ事が事だし、今まで皆んな持っていた原稿持ってないしね」
「こんなスリリングな風景は観た事がないもんな」
「あれを観ないで何を観るかって事だよな」

「もう何も言えない。無事に済んでほしい。それだけの気持ちで泣いてたよ」
「そうでしょう。大将だからきっとそうしてるだろうって思っていました」
「私もあの時は未だ会社でしたが、仕事どころじゃなくて皆んなTVを観てた」
「私も会社から真っ直ぐ福寿司さんに来ちゃった。来てよかった」

「何たって凄い。え~とやあの~なんて全然無くて最後までやり切ったんだ。
自分に確かな考えが無かったら出来ない事だっもんな」
「そうです。大将の云う通りです」
「それは確かです。でも考えはあっても中々出来ないことだと思いますよ」
「そうだな。福さんと温泉に行ける仲で良かった」
「大将はそこに来ちゃうんですね」
オチがついて大笑い。

 つづく

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