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小説「イメージ2」No:53


小説 イメージ No:53

 共同メディア社に電話が掛かって来た。
「記者会見をしたいと思います。宜しかったら上野公園に来てください」
「どなたでしょうか?」
「前副総理の福賀貴義です。時間は午後2時ごろ広場に行きます。よろしく」 
マスコミが待ちに待った福賀の会見に各社は緊張して集まった。
指定された所はお花見で賑わう公園の広場だった。
会見は共同メディア社主導で行われる。
「間もなく福賀前副総理が此処にいらっしゃいます」

 マイクを手にした記者が各メディアに伝えている時、福賀は一人で記者たち
の後ろから野外ステージに向かって歩いて来た。
「福賀前副総理がお見えになりました。お久し振りです」
「 皆さんには 在任中大変御世話になりました。お礼申し上げなければなりま
せん。有難うございました」
「それは此方も同じです。私たちもお世話になりました。メディア側としても
お礼申し上げます。有難うございます」

 お互いが親しげに挨拶を交わし合っている。
それは福賀が在任中に福賀記者クラブを設けてオープンに情報を提供してた
経緯がある。
福賀が辞めることを告げてクラブは自動的に解散になっていた。

何の記者会見だろうと怪訝そうにお花見に来た人たちは立ち止まり集まりだし
て来た。

(誰の 記者会見かしら?)
(TVドラマの撮影かな?)

(あの人?福賀副総理じゃない?)
(そうだ。今は前副総理だけど)
(そうだわ。え~っ出て来たんだ)

(此れは見過ごす手はないぞ)
(良いお花見になりました) 
集まった大勢の人の顔には明るい陽が当たって輝いている。

「今日はお電話有難うございます。共同メディアの公園です。此処はコウエン
私はキミソノよろしくお願いいたします」
福賀も面白いけど此の記者も面白い。

「こちらこそ。突然お集まりいただき申し訳ありません。有難うございます」

「最近は偽物が横行して人の振りして稼いでいますので本物か本人確認をさせ
ていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「嫌ですね偽物は人を騙すのは良くないです。価値在るものは全て本物に限り
ます。ま、そんな事もあろうかと実証出来る様に軽装で来ましたから全く大丈
夫です。あの時と同じで良いですね」

「有難うございます。前副総理の実証からまいります。はい。お願いします」
春で寒くない季節柄Tシャツにジャケットから右肩の刺青部分を出して見せた。

「お~!初めて直にお目にかかりました。あの時のこれだけで十分過ぎます。
申し訳ありません。有難うございました」
記者が暑くもないのに大汗をかいて記者会見はスタートした。
奇しくも此の公園で五代目彫辰に見初められて命をかけて六代目を継がされた
因縁の場所で此処が福賀の出発点と云っても良い場所だ。

「まだまだ皆さん色々聞きたいでしょうからよろしくお願いします」
「 解りました。何でも聞いてください。出来るだけお答えしたいと思います」
「岩上総理の引退で党を離れ企業人に戻られて一年になりなすでしょうか?」
「そうですね。その位ですね」
「福賀さんが実業界に帰られている間に政界の方が色々変わりました。今まで
福賀前副総理の動向が解らずイライラしていた部分がありました」
「知っています。その変化は企業の仕事をしていても感じていました」
誰が記者会見をしているのか解ったので段々人の数が増えて来て既に黒山の人
集りになっている。

「それでは、今日ご連絡をいただきましたが何か仰りたい事があってと思いま
すが、どんな事でしょうか?」
「そうです。花が咲き孰れ散るだろう晴天下でお伝えしたい事が出来ましたの
でお忙しい中に敢えてお集まり願ったわけです。一度、岩上さんに頼まれて手
伝いました”よりよい環境づくり”をまだ残したままになっていましたので其の
続きをさせていただこうと思います」

「それは、政界に復帰を考えていらっしゃると伺ってよろしいでしょうか?」
「そうですね。これから色々準備しての事ですが、新たに挑戦したいと思って
います。孰れ新しい形で新しい風を政界に吹かせたいです」

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「どんな立場でいらっしゃるかお聞かせください」
「それは・・・」
と云って福賀は明るく微笑んだ。
それは今度の総選挙への挑戦だと受け取った黒山の人たちから暖かい歓声と
拍手が沸き起こった。

「有難う。それは此れからのお楽しみと云う事にしてください」
其の後、集まった記者たちから様々な質問が飛び交った。
福賀は丁寧に答えながら群衆の中をゆっくりと山を降りて行く。
聞くのを忘れていた事に気付き記者が追いかけて聞いて来た。
「福賀さん。此処の場所を会見場所に選ばれたのは何故ですか?」
「明るい場所で明るく自然な形でと思ったからです」
「有難うございます」

 ステージになっている場所から降りた福賀は群衆の中に入って行った。
ぞろぞろと一緒に皆んなと歩きながら福賀は先頭に立って歩き出した。
福賀が行く先に広場がある。
その中央に来ると福賀は芝生の上に座った。
自然とぞろぞろ一緒に付いて来た人たちも自然な感じに福賀を囲んで座り
込んだ。

 福賀は一緒に歩いた人たちと青空の下でゆったりと同じ空気を楽しんだ。
皆んな福賀を知っている。
どんな事をして来たかも知っている・
やり残している何かも知っている。
どの位の時間を共有し合っただろうか?
自然な感じで福賀はその場を離れて行った。

桜の花が咲き始めた野外での福賀貴義前副総理の政界復帰宣言記者会見はTV
から臨時ニュースで流された。

 岩上総理が残した会期が終わり、衆議院は国民の信を問う総選挙になる。
自分党も新しい総裁を決めて選挙体制に入った。
それは一つの行事の様に型に嵌める作業にすぎない自分党だ。
内容は兎も角として形作りは慣れている。
しかし、今回は今まで通りには行かない。
それが解っていない自分党の党員たち。

 自分党の逆戻りに反発して離党届をだした議員が出た。
其の数20人を越しただろう。
これは彼らの予定通りの戦略だった。
彼らは省庁の隠れた改革分子で福賀の塾生から立候補して当選した一年生議員
たち。
 
「今度は自分党の中堅と若手が離党したぞ」
「福賀前副総理はまだ捕まらないんか?」
「岩上前総理に当たってみたか?」
「当然です」
「ダメだったか?」
「ダメでした」
「そうだろうな」
「伊東の山海ホテルの方は?」
「ダメでした」

 何処を探しても福賀の姿を捉えることは出来ない。

「福賀さん何処にいらっしゃるのでしょう?」
「出て来てお話を聞かせてくださ~~~い」
新聞やTVで呼びかけても福賀は 宣言をして以来姿を消してしまった。
「それはそうだ出馬宣言以上は宣伝になってしまうもんな」
「自分党を離党した中堅と若手議員の数が30人になりました。
「先に離党した福賀塾出身の新人議員を合流することが解りました」

「福賀さんが関係している会社や団体に長期休暇願いが出されました」
「本当か?いや、それは当然のことだ。ほかには?」
「最大野党のみんなの党に動きがあります」
「どんな動きだ?」
「福賀さんと大海さんが接触してるようです」
「何!」

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 伊東の山海ホテルの方は大海のみんなの党の党員と福賀側の連中で大賑わい
だが女将が手際よく差配してくれている。
兎に角、先ずは福寿司恒例の貸切大浴場露天風呂から始まった。
「皆さんへお話がございます。男性と女性の大浴場露天風呂ですが福賀専務は
最初の時で今は前副総理ですが皆さん一緒に入りたいと望まれますが訳ありで
皆さんとご一緒出来ないので貸切にしました。なので男性と女性の大浴場を
夫々30分貸切にします。如何ですか?ご一緒したい方は申し出てください」

 男性議員と福寿司連は勿論だが、女性議員たちも一斉に貸切券を申し出た。
其の時間が来て女性たちは大浴場の湯船に浸かって福賀の来るのを待った。
既に衆議院本会議で闇雲元総理の汚職を暴いたあの瞬間を知っている議員達。

「失礼します」
凛とした福賀の声が心地よく大浴場に広がった。

福寿司の常連客でも初めての人が居る、
勿論みんなの党員も福賀側の議員も初めての経験になる。

 つづく

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