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小説「イメージ2」No:45

小説 イメージ No:45

 福賀は気配を消しながら街に出て歩いていると男が一人気配をけして後を
付けて来ていた。
その後を付けて来る男も気配を消して少し間隔を開けながら付いて来る。
福賀は後の男の正体を透視して人気のない場所へ誘うように入って行った。
そして福賀の後ろを付けて来る男の後ろに二つの影が追っている。

 全身黒づくめの福賀を付けて来た男は自分党幹部から刺殺を以来された
スナイパーか殺人請負人に違いない。
恐らく他にも隠れて福賀の様子を伺っている気配を福賀は感知している。
程よい距離間隔をとって林の中に入って行った。
男がサイコダイビングを仕掛けてくる気配を福賀が感じた直後だった。
男は凍りついたように固まってしまった。
闇の中から現れた二つの影が固まった男を挟むようにして連れ去っていった。
恐らく闇の世界の人間か、ひょっとするとCIAだったりするかも知れない。
福賀は其の気配を背中に感じながら街の灯りの中に消えた。

 いよいよ福賀の周りで色々な力が働き始め、魑魅魍魎の世界と其処から抜け
出そうとする人達の熾烈な戦いになってきた。
自分党の旧体制下の連中は外から来た福賀に良いところを持って行かれほぞを
噛んでいながら自分たちの欲望を形にしようと躍起になっている。
「闇雲会長。何か仕掛けませんか。刺客も用をなしませんでした」
「そうか。彼を何処かに誘い出し不正な行動を掴めるような仕掛けを考えろ」
「解りました。やって見ます」
「みんなの党が福賀に接近している情報が入りました」
「自分党を解体する気かも知れない」
「自分党がなくなったら我々はどうなります?」

「無くなる事はないが今みたいな力は無くなる」
「それは我々の存在価値が無くなるって訳でですね」
「そうだな」
「それはいけません。次も無くなります」
「そうだな」
「何としても福賀を追い出して闇雲会長に返り咲いていただかねば」
「だから云ってるだろう。彼を失脚させるんだ」
「何がなんでも」
「そうだ」

 すでに現実ではあり得ない妄想になっている事とも知らず党内では魑魅魍魎
感覚が息づいているのだから国民と如何に離れているか。
だから永田町の常識は非常識と国民から思われている。
福賀をおとしいれる策略はすでに実行に移されていた。

「福賀副総理にお出でいただき恐縮です」
「いや、京都は古都と云われるだけに趣きの品格が高く感じられます」
「恐れ入ります。今夜はごゆっくり京都を楽しんでいただきたいと思います」
「有難う。あまり気を使わないでください。疲れますから。お互いに」
「おいでやす。おおきに福賀副総理さん」
「お世話になります」
「お世話になるのはこちらどすえ」
「あ~そうだったね。参ったな~」

 こんな事を福賀がしたり云ったりしませんね。
誰だって福賀を知る人なら直ぐ解ってしまうのだが闇雲派のやる事はこの程度。
これは或る商社の接待を装って賄賂を渡そうとする安っぽい企てなのだが。
これが福賀に裏を書かれて大失敗に終わる。

 その同じ頃に東京は赤坂の中華料理店では闇雲前総理がゼネコンの社長と蜜
談の最中でおまけに何やら沢山の札束が入った紙袋を渡されて店を出て来た。
秘書らしき共を連れているが紙袋は闇雲がしっかり持っている。
ど~んと誰かに突き当たった。
「無礼者!」

「何?無礼者だと。人に突き当たっておきやがって何だ!」
闇雲が思わず手が出て相手の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
相手は踏ん張って堪えた時に相手のTシャツをはだけさせてしまった。
其の時だった相手の右肩に入っている刺青が現れて其れを見てしまった。
あ此れは不味いと思ったのだろう。
其の手を離して飛び散った札束をお供と一緒に拾い集めて駆け去って行った。

 衆議院分会の議場では自分党の代表質問が行われている。
質問者は自分党の最大派閥の会長前総理の闇雲だ。
「自分党の党員であり、議員であり、総理経験者がこうした質問をするのは
非常に心痛む事であります。他党から質問されては我が党の恥を晒す事になる
ので質問をさせていただきます」
自分が所属している党に関した質問をあえてしている正当性をアピールする。

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マティス展より

「福賀副総理に伺います。今年の4月15日の夜9時頃は何処にいらっしゃい
ましたか?」
「はい。今年の4月15日の夜ですか」
上着の内ポケットから手帳を取り出し確認。
「9時頃は東京の赤坂にいました」
闇雲はしたりと思いニンマリと口だけで頷いた。
「福賀副総理ウソをついてはいけません。これはテレビ中継されています。
今年の4月15日夜の9時頃京都で財界の或る人と会っていたのではありませ
んか?」

「闇雲議員、今年の4月15日私は東京の赤坂に居ました」
「ダメですよ、福賀副総理。貴方は京都におられた。これを見れば明らかです」
闇雲議員は証拠の映像をスクリーンで提示するように求めた。
「どうですか?ここに映っている人は福賀副総理でしょう。違いますか?」
福賀は全く動じる様子がない。
「私は赤坂に居ました。闇雲議員も4月15日その時間は赤坂におられました」
一瞬、闇雲の顔が固まった。

「闇雲議員が私が京都に居たと示された写真の男は私ではありません。私に似た
私のダミィーになってもらっている人です。私は闇雲議員が秘書を連れて或る人と
密かに会う情報を得て赤坂に行きました」
闇雲議員の顔が歪んだ。

「闇雲議員に伺います。赤坂の中華料理店の個室で或る人と会って重そうな紙袋
を受け取り店を出たところで事故に会いませんでしたか?」
質問者は私だと云わんばかりに答えなし。
「サングラスをかけたヤクザ風の男とぶつかりませんでしたか?」
闇雲は固まってしまったか言葉がない。
「其の時持って居た紙袋を狙われたと感じて反射的に男のシャツを掴んで引っ張
りませんでしたか?」
闇雲の固まった身体が震えだした。

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マティス展より

「其の時、持って居た紙袋が地面に落ちて中から札束が転がり出て来たのを秘書
の方が急いで拾って紙袋に入れましたね」
闇雲は自分が投げた罠にはまっていた。
もう頭の中は真っ白になっているのだろう。
身体を丸くして質問者席にうずくまって動かない。

「闇雲議員いかがですか?間違っていたら云ってください」
闇雲が突然起き上がって反撃にでた。

「ねもはも無いでっち上げの嘘っぱちだ。どこにそんな証拠があるんだ」
呻くように吐き捨てて闇雲がわめいた。

「ぶつかったのは私ですが解らなかったようですね」
「そんなバカな。ぶつかったのが福賀副総理だって。そんな事ありえっこない。
あの男には刺青があったんだから」

「そうですか。事故にあったのは確かなんですね」
「ああ、事故はあった。だけど秘書と食事しただけだ」
「それだけですか?」
「ああ、それだけさ」
「紙袋はどうしましたか?」
「そんなもの持ってない」
「其の中に札束が入っていましたが」
「そんな事はない。人を落とし込むのもいい加減にしたまえ」
「でも、その刺青の男が見ています。そのほか通行人も見ています」
「だったら、その刺青の男を連れて来なさい。だいたいその刺青の男が副総理
だなんてあり得ないでしょう。証明して下さい。出来るんですか?」

「出来ます。其の前にその時の様子を撮ってありますから見ていただきましょう」
闇雲の必死の抵抗に福賀が答える。
「そうですね。京都のようにダミィーでないように闇雲議員と争ったヤクザ風の
男が私だった証拠も示さなければなりません」

 議長に訳を話し許可をとった。

「私は国立アート大学の一年生の時から3年余り五代目彫辰なる人に六代目彫辰
を継がせたくて付け狙われました。そして三年生の6月に命がけで六代目彫辰を
継いで欲しいと頼まれ此の人を死なしてはならないと仕方なく承知してしまった
のです。私とその関わるところに害が及ばないように守る刺青を五代目彫辰は私
の背中に入れました。テレビの放映もあるので其の点のみボカシを入れるように
してください」
と云いながら上着を脱いでネクタイをとりYシャツを脱いでTシャツになり右肩を
出して議員席に見えるようにした。

 其処には彫られた雲の部分が見て取れた。
闇雲議員はありえないモノを見せられて声もなくうなだれた。
議場は騒然として静まり返り異様な感じで溜め息につつまれた。

「本日はここまで。明日まで閉会します」
議長のやや興奮気味の声が議場にひびいた。

 つづく


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