SSブログ

小説「イメージ」No;26

イメージ No:26

「後で女将さんと一緒に私の部屋に来てください」
福賀は海辺にそっと告げて自分の部屋に戻った。
PCを立ち上げてメールを開いて見る。
夫々のメールを見ていると女将に連れられて海辺が来たらしい。
PCを閉じて・・・どうぞと声を掛ける。
ドアを開けて女将に連れられた海辺が入って来た。
「私がお話しできる事は海辺さんに聞いていただき此方に参りました」
(此処が福賀専務の隠れ家?)
海辺はまた初めての専務を見る思いで部屋を見回した。
(あれ~温泉露天風呂もあるみたい。広いわ。二間あるようだわ)
「そういう事だから今日は貴女には突然の事ばかりで疲れたでしょう」
「はい。こんなに沢山ビックリしたのは生まれて初めてです」
「ハハハ、此れからはこんな事が色々起きるので驚きながら楽しんでください」
「さっき女将さんに云われました。もう大丈夫だと思います。専務がどんな
冒険をなさるか楽しませていただきます」
「ありがとう。色々面倒をかけますがよろしく」
「貴女には相部屋ではなく部屋を取ってもらっています。明日は朝早く港に
行きますから、今夜はゆっくり休んでください。お疲れさま。おやすみなさい」
「お話は?」
「今日は特にありません。専務付き秘書の海辺さんに私の秘密基地が此処に
あると知っておいてもらいたかったのです。伊東に行くと云ったら此処です」
「解りました。有難うございます。おやすみなさい」
やっと海辺にとって激動の1日が終わってほっとして女将と部屋を出た。

「皆さん、おはようございます。これから漁港に行きます」
福賀が漁業組合の組合長とコネがあってお土産が用意されている。
「海辺さんは私の秘書だから未だ仕事があります。皆さんまた会いましょう」
 福寿司の伊東温泉一泊温泉は新鮮な刺激が一杯詰まっていて良かったかな。

「まさか海辺さんが貸し切り大浴場の希望者に混ざっていたとは思わなかった
から女将さんに聞いて確かめました。でも、参加者に入っていて良かったです」
「そうですか、それなら私も良かったです。実は一瞬迷いました。でも、専務が
何故女性たちと入るのか知らなくてはと・・・思い切って決めました」
「背中にあったモノは訳ありで、私のお守りなんです。見せるモノでは無いので
すが福寿司の人たちは質が良いので信用して私の秘密を持ちあっています。男女
平等にしたいので女風呂を貸し切りにして此処では私とのコニュニケーションの
材料に背中の龍を使っています。そう云う事です」
「そう云う事でしたか。全く別の世界の専務を感じてしまいました。だから
此れも専務なんだと思うのが容易ではありませんでした」
「そうでしょう。あんな事は余りありませんからね」
「またいつか専務のお話を聞かせていただけるのでしょうか?」
「そうですね。海辺さんの秘書としての仕事には私を知る必要がありますからね」

 imaji-17.jpg

 山を登り別のホテルのレストランで昼食をとって海に向かって下って行く。
目の前に相模湾の海が迫って来る。
白い砂浜が広がる海岸の近くの駐車場に車を止めた。
黒いバディの中の落ち着いた真紅のシートからおりる福賀と海辺。
「夕日が沈むまで波打ち際を歩きましょう」
福賀は海辺を誘って歩き出した。
夕焼けが映えて光る海面を見ながら並んで砂浜に腰を下ろし足を投げ出した。
なんてロマンティックなスティエーションだろう。
福賀は独り言のように語りかけて来た。
「貴女は私付きの秘書だから他の秘書の人に当然それなりの見方をされます。
それなりとは私側の人間だとして孤立してしまう。当然ですが。でも其れでは
私に関係した情報は海辺秘書には伝わらない。彼らには夫々の思惑があるから
です。解るでしょう。難しいですが、私の事を何も知らない私は専務に指示さ
れた事を誠実に勤めているだけですと他の秘書たちに思わせてほしいのです」
ロマンティックではありませんでしたね。
「とても難しいと思いますが、努力します」
「秘書課の中で好かれるまではいかなくても嫌われない秘書でいてほしのです」
好かれなくても嫌われない人間関係づくり、これが福賀の基本的な考え方だ。
この事を福賀は専務付き秘書の海辺に伝えたかったのだ。
海面をオレンジ色に染めていた夕日は水平線に沈みかけていた。
海風は優しく二人の頬を撫ぜている。

「そろそろ帰りましょう」
黒いポルシェが走り出す。
海辺の身体がうっと後ろへ引かれた。
それ以後は走っているのか止まっているのか解らない感じで進んでいく。
また、福賀は独り言のように語り始めた。
「風を描こうと思うとどんな風を描こうかとイメージする。自分が今まで経験した
風の感触をイメージする。経験の中の風からどの風を描こうかと風の入った引き出
しを開けて探してみる」
なんで風を描こうとおもうんですか?風が吹いたからですか?
「風の中にも色々な風がある。柔らかい風があれば硬い風もあるし辛い風があれば
甘い風もしょっぱい風もある。そのイメージを形に置き換えると直線だったり曲線
だったりそれもいろいろ。眠くなった?」
「いえ。はい」
「ちょっと休みましょう」
高速を走っていたのでサービスエリアに車を入れた。

 imaji-30.png

つづく

nice!(57) 

nice! 57

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。