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小説「イメージ2」No:36

イメージ No:36

「福賀専務の背中に何で龍が住んでいるのか不思議です」
「そうだね。あの人は直ぐ感じてしまうだよ。直感が鋭いから」
「どう云事です?」
五代目に3年間も狙われて命をかけて六代目をついでほしいと頼まれて仕方な
く承知してしまった経緯を福寿司の大将が話した。

「なるほど人一人の命の代償だったんですね」
「あっしだって、そんな時に逃げたりは出来ねえ。承知しちゃうね」
と大将。
「そりゃあ命かけられたらどうしようもないですね」
「大きな代償の代わりにって五代目が命をかけた龍を彫ったんだそうだ」
と大将。
「なるほど」

「それでな。あれはお守りなっているそうだ。生涯福賀専務とその関わるもの
全てに手出し無用の事って闇の世界から血判状を取ったのは五代目彫辰さんだ」
福寿司の大将の言葉に力が入った。
それはそうでしょう。人の話でも命をかけた話ですからね。

「彫り物の世界では彫辰は名人の称号で其の称号は自分で次の名人に相応しい
人物につなぐ決まりになっているそうだ」
と大将。
「決して表には出ない隠れた存在なんだけど、戦国時代かそれ以前か古くから
在ったらしいが、特別な階級の嗜好として同好会のような組織があるらしい」
とこれも大将。

「なんたって、五代目は福賀専務が国立アート大学に通い始めた時から早くも
目をつけていたって云うから命を賭けるのも解るような気がする」
「なるほど。五代目の感も凄いですね。福賀専務の凄さを見抜いていたんだ」
「感って凄いものは凄いんですね。今の福賀専務も此れからの専務も感じてた」

「うちら、職人の世界に生きているんで、中には彫りを入れてる先輩もいるね」
「大将はどうなんです?」
「あっしなんか、大した事ないから入れてないけど、あれは或る意味「我慢」
って云ってな、こちら我慢が無いんで申し訳ない」
と大将は笑った。

「あれは誰に教わったのか忘れてしまったけれど大事な事なんです。えーと
私が育った小さな海岸の岬の中腹に尾崎行雄の別宅がありました」
突然何のはなしです福賀専務?私は知っていませが皆さんは如何でしょう。

 その人の人生観「OZAKI YUKIO MEMORIAL FOUNDATION 憲政記念館の
資料に”人生の本舞台は常に将来に在り”人間は歳を重ねるほど其の前途が益々
多望なるべきはずのものだと云うのが私の最近の人生観である。人間にとって
知識と経験ほど尊いものはないが、この二つのものは年毎に増加し、死の直全
が最も偉大な事業、または思想を起こし得べき時期であるに相違ない。
尾崎行雄(尾崎萼堂)

「確かに・・・それに今は感覚、そして私は未だ序幕の段階にいる」
福賀専務ちょっと酔いが回りましたか。
いつもと違って難しい事を話し出しましたよ。

「大将。後でちょっと話したい事があるのでロビーでお茶しましょう」
今まで二人で話した事なんて無かったから何か大変なことかと大将は思った。
「皆さんと一緒では大将個人の話はどうかと思ったので此処に来てもらった
訳です。息子さんの独立の話だから。ご長男と今銀座で一緒ですね」

「二人ととも大きくなっちゃて、自然と上は私の後をついでくれそうでいます。
下はやっぱり料理が好きなんでしょう。洋食の方に行きたいのかフランス語を
習ったりしてますね」
「そうですか。一緒もいいけど、もう大人なんだし支店の大将にしてやっても
良いんじゃないですか?」

「あぁ、独立ですか。そうですね。それは考えていませんんでした」
大事なことを忘れていてハッと気がついたようだ。
「毎日当たり前みたいに二人でやってると、そうした気が起こらずにと云うか
考える余地がないって云うか。そんな状態ですね」

「赤坂に良い処があるんですが、息子さんと一緒に見に行きませんか?」
「それは有難いです。是非お願いします」
「それから、フランス語習っている次男さん、フランスで和食店どうですか?
適当な処を探せそうですが」

「いや~本当に有難うございます。福さんが其処まで考えてくれていたとは
泣きたいくらい嬉しいですよ」
「大将にはいつも我儘ばかり云っていてお世話になってますから」
大広場に戻って行くと従業員と女将が片づけをしていた。
「福賀専務さん、ちょっとお話があるのですが?」

「何でしょう」
「ホテル・旅館組合の会長さんが福賀専務にお会いしたいそうです」
「いつが良いか伺ってくれますか?明日でも私は良いです」
「解りました。伺ってみます」

 次の日の朝、福賀は基礎トレーニングを6時から始め7時にロビーに降りて
行った。
外の空は青く透明な日が射していた。
港に行くと漁業組合の建物に行くと発泡スチロールの箱に用意されたお土産が
用意されている。
「さ~皆さん。好きなのを決めて宅配便で送ってください。お代は心配なし」
全部が福賀持ち。
「福賀専務いつも有難うございます」
「漁業の方はどうですか?」
「勧められたハイテクのお陰で良い漁が出来るようになりました」

「安全第一ですからね」
「はい。その点は前とは全然違います」
「安全で的確な漁が出来るといいですね」
「はい。皆んなも段々慣れて来ました。伊豆の漁業組合の組合長が福賀専務に
相談したいって云っていました」
「そうですか。何だろう?」
「じゃあ連絡してみます」
「よろしく・・・」
「何時ごろ、都合良いですか?」
「夕方ごろかな」
「解りました。じゃあまた」

 それぞれ好きな魚を箱に詰めて配送の手配をしてもらっている。
「終わったらホテルに帰って朝食ですよ」
朝食を済ませて皆さんは一風呂浴びに大浴場へ。 

「私はまだ此方に用事が残っているので又お会いしましょう」
「お世話にんりました」
「楽しかったです」
「有難うございました」
秘書の海辺は未だ用事があると福賀に云われて残された。

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「コーヒーでも飲みますか」
「はい」

 皆んなが帰って行ったラウンジで寛いでいると。
「此方、伊豆・ホテル旅館連盟会長の温知さんです」
女将が紹介する。
「はじめまして、温知です。よろしくお願いいたします」
「福賀です。此方は私の秘書の海辺です。よろしくお願いいたします」
女将は話の内容は伝えてあると云ってから・・・
「私は仕事がありますので失礼させていただいてよろしいでしょうか?」
持ち場に戻って行った。

「此処は以前から関心がありまして時々見せてもらっていました。
福賀専務のそう呼ばせていただいて良いですか?私たちの間では福賀専務は
固有名詞になっているものですから」
「ははは、そうですか。どうぞ其れでよろしくお願いします」
いつの間にか伊東ではひょっとすると伊豆でもそうなっていたのだ。

「私に顧問をと女将から聞きましたが?」
「はい。そのお願いで参りました」
「連盟の会長からのお話と云う事は連盟の方たちの総意と受け取って良いと」
「はい。そうです。お引き受けいただけますでしょうか?」
「でしたら受けさせていただきましょう」
「お忙しいところ申し訳ありません」
「私は大丈夫です。問題ありません。お役に立つのであれば使ってください」
「有難うございます。連盟も喜びます」
「温泉大好き海大好きですから、頑張ります」
「早速で恐縮ですが今日連盟の会合が夜にあります。7時からですが8時ごろ
お越しいただければと思っていますが」

「解りました。その時間に伺います」
「では、お待ちしております福賀専務」
秘書の海辺は話の早いのにびっくりしている。
「お引き受けいただいたのでうか?」
「あぁ、引き受けましたよ」
「そうですか。有難うございます」
女将はホッとしたように福賀を見て微笑んだ。

「漁業組合の組合長波埼です。福賀専務さんに顧問をお願いしたいのですが」
「福賀です。組合の方達が望んでいるのでしたらお引き受けしても構いません」
「本当ですか?有難うございます。皆んな喜びます。よろしくお願いします」
「はい。また改めてお会いしましょう。明日いかがですか?」
「夕方から夜に掛けてなら大丈夫です」
「では7時頃で如何です?」
「はい。大丈夫です。じゃあ港の建物でお待ちしています」
「了解です」

 なんて福賀専務は決めるのが早いんだろう。
海辺は驚きを通り越して呆れていた。
「よ~し。これで温泉と海が繋がった」

 つづく


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