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小説「イメージ2」No:40

小説「イメージ2」
No:40

 少し話が早く進み過ぎたので話を福賀が専務時代に戻そう。

 福賀は月の後半をパリで仕事をしている。
パリに事務所を作ったが、いずれは雪月花の支社にするつもりだ。
そこに5人のスタッフが福賀を待っている。
フランスの大学に留学して卒業を控えた学生たちだ。
画廊のオーナーが揃えてくれた信頼できるメンバーたちだ。
国も色々、今は福賀の個展に関わる準備を進めてもらっている。
画廊との連絡・美術連盟との連絡・印刷物のデザイン・オフィスのHP。
その管理・福賀が関わる会社との連絡・その状況を聞いて福賀はスケジュールを
作る。
二週間のパリはまたたくまに過ぎて行く。

フランスでの仕事を終えた福賀が日本に帰って来た。
「専務ご苦労様でした。色々予想以上に成果が上がったようですね」
社長が労いの声をかけてくれる。
新しい取締役を含め夫々が緊張した面持ちで福賀を迎えた。
福賀の帰りを待っての取締役会が開かれる。
「一つはパリで有力な化粧品会社バロンと共同で新しい化粧品を開発する
合同会社設立です。これが形になりました。皆さんのご協力とご理解の
成果です」

「名前はユキ・エ・バロンです」
「雪月花のユキですね」
「そうです。フランスに作る会社ですから社長はバロンの副社長になって
いただくことにしました」
「前に構想に上がっていた女性の副社長のシャロンさんですね」
「そうです。そしてお互いのセンスを吸収し合って新しい製品を作るために
社員を交換します」

「その人選をしなければいけませんね。
「出来るだけ早く」
「双方で夫々10名位をイメージしていますので、後ほど私たちが専務に
届けて検討していただく事で如何でしょうか?」
「いいと思いますが、如何ですか?」
社長が他の取締役をうながす。
先輩の男性取締役たちが顔を見合わせて頷きあった。
「いいと思います」

「二つ目はパリの雪月花事務所です。此処も留学している大学生を5名で
仕事をしてもらっています。これは将来の支社をイメージしています」
「素晴らしい。雪月花は世界へ羽ばたくイメージが形になり始めましたね」
「そうですね。イメージが形になっていくようすが見えるようです」
「こんな夢を見ることも考えていませんでした」
「これからですよ。専務が夢の見方を示してくれています」
「まだ三つ目ありますか?」
「今のところは此のくらいですが出てくるかもしれません」
「出て来そうですね」
「アラブ圏の王様からいただいた石油基地ですが二つのうちの一つを雪月花に」
「え~どう云う形で?そんな貴重な贈り物を雪月花で?」
「よりよい運用を任せたいと思っています」
「解りました。考えさせてください」
福賀の気持ちを社長が受け取った。

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 専務室に帰って福賀は海辺に電話した。
「5人の新しい取締役に電話して私の部屋へ来させてください」
呼ばれるのを待っていたように5人が次々に入って来た。
「失礼します」
「どうですか?色々な所から取材があったようだけど?」
5人が顔を見合わせながら答える。
「ありました。スケジュールを調整するのが大変でした」
「まだ続いています」
「今日もこの後あります」
「夕方までには終わります」
夫々が生き生きして声が弾んでいる。
「出来るだけ協力するようにしてください。社のPRにもなる事ですから。
そして皆さんの認知度も高まります」
「今までなかった事ですから大変です」
「そうでしょう。初めての事は皆大変です。でも経験ですからプラスです。
何回も経験を積み重ねる事が大事です」

「専務お願いがあります」
「何ですか?お小遣い?あ、お土産ですか?申し訳ない。ありません」
「違います」
「あの~温泉に行きたいのです」
「私も行きたいと思っていました」
「私もです。
「右同じです」
「いけませんか?」

「温泉ね~ぇ。良いでしょう。行きましょう」
雑誌の取材は夕方までには終わるようだ。
慣れない仕事とマスコミの取材攻勢で疲れているのだろう。
「では、7時前に銀座の福寿司に行ってください。海辺に手配を頼んで
おきますから。いいですか?」
「はい。有難うございます。よろしくお願いします」
そ~っと専務室を抜け出した5人組は思いがけず思いが叶って大喜びだ。
「思った事は云って見るものだって解ったわ」
福賀は温泉が大好きなんだから誘う様な事を云ったりしてはだめですよ。
でも、仕方ないか。

 福賀は5人が帰ってから海辺に電話を入れた。
「5人が温泉に行きたいと云っている。私も行きたいので福寿司に予約を
入れてください」
「私も行きたいです」
「そうですか。良いですよ。じゃあ7人で予約を時間は7時」
「はい。直ぐ電話します」
「どうぞお越しください。お待ちしています。とのことです」
「了解。有難う。では海辺さんは早めに行って待っていてください。私が
行くと福寿司は女将さんがのれんを込んで店閉めちゃうから7時前に行って
ないと入れなくなりますよ。5人にも云っといてください。私はそう7時半
頃に行きますから適当にやっていてください」

 あちらこちらで今日来て当たりとニコニコ顔で喜び合っている。福賀は
この字のカウンターの入り口に近い端で久保田をぐい呑みでアナゴの握りと
本鮪の赤身の握りを口に放り込んでいる。

「はい。バスが来ました。帰る人は帰って。乗る人は乗って。はい。今日の
勘定はなし。また来てね」

「皆さん。今晩は毎度、東西観光をご利用いただき有難うございます。此れ
から伊東温泉一泊旅行にお供いたします運転手は車好人(くるまよしと)添乗
員は世界グルメツアー部・部長の山谷梅乃(やまたにうめの)です。当社社長の
福賀貴義(ふくがきよし)がスポンサーですので心配なくお楽しみいただけます
のでご安心ください」
「豪華ですね。気分も豪華です」中に
「部長さんが運転と案内をしてくれるなんて福寿司のこれしかありませんよ」
「まったくだ」
「運転は福賀専務の指導だそうですよ」
「福賀専務は運転も凄いんだ」
「それはもう乗っているか乗ってないか解んない位だって」
「乗って見たいものだね」
「ちょっとそれは無理ですね」
どっと笑いが起きた。

 福賀が珍しく苦い顔をして女将を呼んだ。
「今日は女性たちの中に記者が混じっている様なので大浴場女風呂貸し切りは
無しにしてください。貸し切りは男湯だけにしてください」
「解りました」

 膳が運ばれる前に女将がそれぞれの部屋割りを手際よく決めていく。
「福寿司の女将さん、ちょっとよろしいですか?」
「はい。何か?」
「実は・・・」
福賀から告げられた今日の事情を話した。
「了解。話して置きます」
「よろしくお願いします」
大将に耳打ちする。
「解った」
大将が店の若い者に告げる。
「男だけにそっと耳打ちしてくれ」

 女性たちは異常を感じたが男性たちだけの用事なんだろうと思っている。
福賀専務との一緒の入浴を楽しみにしていた5人と海辺は女将に聞きに行く。
「女将さん。あの~大浴場の貸し切りは今回は無いのですか?」
「それは、福賀専務のご都合で男風呂も女風呂も貸し切り無しになりました」
「楽しみにしてたのに無いんですか」
「し~~~後で連絡しますから、騒がないでください」
「済みません」
「お食事が済みましたらお部屋でお待ちください。専務から連絡があると思い
ますから」
「解りました」

「うちの6人と山谷を食事の後に私の部屋に連れて来てください」
「専務さんの露天風呂ですね」
「仕方ないです。貸し切り露天風呂を楽しみにしているのですから」
「私もご一緒させていただけませんか?」
「どうぞ、そ一緒しましょう」
「専務さんの龍とお会いするのは本当に久し振りです」
「そうでしたね」

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「皆さん。私の秘密基地へようこそ。今日は生憎でした。女性の記者さんが
紛れ込んでいたようなので貸し切り大浴場女風呂は中止になったので仕方なく
此方に来ていただきました」
「そうでしたか。楽しみが無くなってガッカリしていました」
「此処は私のプライベートの部屋です。此処は女将と海辺しか知りません」
「特別なんですね」
「だから秘密にして他言無用です」

「やっと解りました。専務がほとんど会社にいらっしゃらない訳が」
「バレちゃいましたね。ハハハ。此処には大きめの露天風呂があるので今日は
此処を貸し切りにしました」
「今日は私もご一緒させていただきます」
女将が姿勢を正して宣言した。
どうですか?和気藹々自然でいい感じじゃないですか。

 つづく

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