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小説「イメージ2」No:49


イメージ No:49

 その 緊急の電話は総理の部屋からだった。
総理室に続くドアを開けて入って行くと岩上総理が絨毯の上に寝かされていた。
側にもう一人のf副総理十和田と秘書が付いていた。
緊急のサインは十和田から発信されたものだった。
「以前と同じ心筋梗塞と思われる」
「緊急の対応は?」
「した」

福賀は以前のように医師が来る前に出来るだけの事をしなければと動いた。
「少し離れていてください」
と十和田に云って岩上にまたがった。
静かだった部屋の空気が床から天井に沸き上がって渦を巻いた。
此処の部屋は3階にある。
そこまで地中の気が上がってきた。

 福賀は懸命に気を吸い上げて集め岩上の心臓をマッサージしている。
こうした状況はこれで2度目だ。
これが最期だと福賀は感じていた。
それだけに何としても助けたい。
「ふ~ぅ」
「ふ・く~」
「ふ・く・が~~」
止まっていた心臓が機能し始めて来たようだ。
その瞬間に福賀は絨毯の上に音を立てて仰向けに倒れた。
意識はあるが呼吸は荒い。
殆どの気を注ぎ込んでしまったらしい。
福賀は目を閉じて動かない。

 医師が着いた感じを霧の中で感じていたように福賀は思ったらしい。
気がついた時には岩上と並んで福賀は一番嫌いな点滴をされていた。
前の時は病気の事を福賀に替えて逃れたが今度はそう云う訳にはいかない。

 一命を取り留めた岩上は自宅にいた。
「福賀さん、有難うございます。2度まであの人の命を救っていただき何と
お礼申し上げて良いか」
「奥さま。ご心配だったでしょう。岩上総理は日本を背負っていらっしゃった
のですから、その責任は計りしれないくらい重いはずです。とっても真面目な
方だから精神的な負担が溜まったのでしょう」

「福賀さん。うちの人にこれ以上の働きは無理のように思うので私も云っている
のですが大丈夫と云って聞いてくれません。福賀さんから岩上にもう十分だから
辞める様に云っていただけませんか?」
「そうですね。私も十分過ぎると思います。私からお願いしましょう」
福賀は意を決して岩上の部屋に入って行った。

「総理。ご家族が心配していらっしゃいます。これ以上無理をなさっても良い結
果は得られにと思います。心臓に疾患がある事は国民の知るところとなりました
ので引退なさるのが最善かと思います」

「そうか。福賀君がそう云うなら間違いないな。私は私の事を解っっていないの
かも知れない。君が云う通りだ。そうしよう」

「お疲れ様でした総理」
「いや、君には無理なお願いをして申し訳なかった。でも、君に手伝いを頼んだ
のは正解だった」
「有難うございます」
「で、どうしたら良い?」
「総理は党から離れ、政界から引退された方が良いです」
「君は?」
「私は岩上さんから手伝いを頼まれたから居る人間ですから、依頼主が居なく
なったら居る必要がなくなります。私は自由にさせていただきます」

「自由か。そうだね。長い間しばっていて申し訳ない。お世話になりました。
本当に有難う」

 岩上は党に心臓に疾患がある事を理由に離党届を出し、総理を辞任すると
心に決めた。
福賀も自分党を離党し副総理を辞して自由になると心に決めた。

「総理お疲れ様でした。リフレッシュに温泉でも行きますか」
「良いね福賀君。どこか良い温泉あるんかい?」
「ありますよ。お任せください。では、私について来てください」
「あぁ、ついていきましょう」

 黒いポルシェに岩上を乗せて取り敢えず銀座の福寿司へ走らせた。
「う~ん流石だな~。福賀君いつも私の仕事を手伝ってくれてる時とは感じが
ちがうね。颯爽としてる」
「でも、仕事で駆け回る時はこうしていました」
「よくやってくれました」
「此処に留めます」
そこは銀座の駐車場。
「少し歩きます」
着いたのは福寿司。
のれんを割って福賀が先に入る。
 
「えらっしゃい」
いつも変わらない大将の威勢のいい声が気持ちいい。
「おお!足がちゃんと付いてるじゃねえか!生きてたんだね」 
「生きてて悪かったね」
「悪かったさ(笑)おや?一人じゃないんだ」
「そうだよ。よろしく」

 そんな嬉しくてたまんない大将とのやりとりを伺いながら女将がのれんを仕舞
いに動く。
そして、例の2箇所に電話を入れる。
岩上は初めて福賀の別の顔を見るように目を丸くしている。
「福さんのお知り合い?」
「そうです。私が大変お世話になった方で」

「そうですか。福賀のお世話は大変だったでしょう。ま、ここは自分の実家と
思って気楽にやったくださいって云っても此れからの事で、今日はちょっと~
忙しいですが・・・」
「女将~?」
「OKですよ」

 今日はいつもより時間が早い。
「この方は病み上がりだから・・・お茶にして」
「お茶?」
「福さんは?」
「私はあの日本酒」
「いいのかね?」
「いいんです」

 そんな打ち解けた雰囲気で寿司を楽しんで居ると。
「バスが来ました」
女将がしらせる。
「ってことで、お客さん。例の福寿司一泊温泉旅行だから、行く人は家に連絡
入れてね。行かれないお客さんは気をつけて帰ってまた来てね」
岩上が怪訝そうに福賀の顔を伺っている。

 まだ総理と副総理だがそれがどうって事ないんだけど福寿司の世界では。
そうは云っても並みの二人じゃないのは誰もがよく知っている。
片や自分党をひっくり返した岩上、片や原稿無しで代理の所信表明演説をした
福賀なんだから其れは誰だって興味津々でしょう。

「って事で此れから伊東温泉に行きます」
「え~~~っ」
岩上は思いもしなかった展開にびっくりだ。

「さあ。慌てず急がずバスに乗ってください。何だか知らないけど其処の二人
勿体ぶらないで乗って。みんな乗れずに困っています。全く世話がやけるった
らありゃしない(笑)」
「勿体ぶったりしてませんが(笑)」
「冗談もわかんねえ。いいから乗って乗ってください」
他の客がどっと笑う。

「参ったな~ぁ」
「やられっぱなしで・・・どう返していいか解りません」
「庶民と離れて居たって感じしませんか?」
と福賀。
「そうだね。確かに」
「こっちもどう面倒みたらいいか解りません」(笑)
久しぶりの山谷が凄く嬉しくてはしゃいでいるって誰にも感じられている。

 岩上に続いて福賀が乗り込むと福寿司のお客が次々に乗り、福寿司の連中が
乗り込んで最後に添乗員の山谷が乗り込んでバスは出発。
「本日は東西観光をご利用いただきまして有難うございます。これから福寿司
さんご常例の伊東温泉一泊旅行で山海ホテルに向かいます。ちょと其処のそう
其処の大きなおじさん」

 しょっぱなから添乗員に声を掛けられ総理、またビックリ。
「私かい?」
「そうです。どっかで見た覚えがあるんだけど。あなた俳優さん?」
「俳優?私が?」
「そう。悪役じゃあなくて良いもんの二枚目俳優さんじゃないの?」
「私が良いもんの二枚目俳優?冗談でしょう」
「ほんとイケメンだもん。その隣に座ってる貴方だれ?」
福賀がいつもと違って本気になる。
「馬鹿なこと言ってんじゃない。良い加減にしなさい」
「あれ~あんたは人に指図するほど偉いんか?」
しまった。
やっちまった。

 山谷に乗せられたと福賀は思った。
「あ~申し訳ない貴方のジョークに気付かずマジに乗っちゃってお恥ずかしい」
「さすが福賀さん」
乗務員の顔がニコニコ嬉しそうに微笑んだ。
「発声練習はこの位にいたしまして、今日は特別ゲストと云って良いでしょう。
岩上総理と福賀副総理をお迎え出来て大変嬉しく思っております。多分皆さんも
私と同じ気持ちでいらっしゃるのではないでしょうか」
大きな拍手がそれに答えた。

「運転手も緊張しているでしょう。運転は当社の取締役車。添乗させていただく
私も当社取締役山谷です。明日まで皆さんとご一緒させていただきます。どうぞ
よろしくお願いいたします」

 いつもの様にサービスエリアで休憩をとって後半も車の安全運転で無事に山海
ホテルに到着した。

「ようこそ山海ホテルへお越しくださいました。福寿司御一行様。そしてお客の
皆様。そして特別ゲストのお二人様お疲れ様でございました」

 もう、全て連絡済みで此れからの手筈は整っている。
何故か福賀が温泉に入りたくなって此処に来ると空には月が煌々と輝き、一つの
雲が側に付き添っている。

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 つづく

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