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小説「イメージ」No:11

 No:11

 翌日、雪月花石鹸株式会社の役員室では役員達がそれぞれ福賀の記事を見たらしく・・・
「社長、日曜日の新聞みましたか?」
「社長、宣伝部から電話がありました」
 などと可なりの注目と関心が役員の間で渦巻いていた。
「其の事で緊急に取締役会を開きます」
 月下は先ずはそれらの反応を沈めなければならないと思った。
「実は昨日、私も皆さんが見た記事でこの人材は絶対に他社には取られたくないと思って或る人を介して彼と接触をしました」
「お〜〜〜流石に社長早かったですね」
「それで彼と会えましたか?」
「会えました」
「それで?」
「彼は先輩を通して23社からオファーが来ていると云っていました」
「23社?」
「そうです。23社以外でも此れからオファーして来る会社もあるでしょう」
「宣伝部に聞いたらやはり到底無理なのでオファーは控えていると云っていました」
「やっぱり」他の役員がため息をつく。
「それは解ります」また他の役員が頷く。
「それでどうでした?社長?」
「彼の条件を全て飲むから我が社に来てくれないかと頼みました」
「それは当然のことです社長」
「そして彼が出した条件はどんなものですか?」
「それは此のプリントにある全てです」
 月下は役員全員に用意したプリントを渡した。
「これが彼の条件ですか?」
「そうです」
 あ然とした表情で福賀の条件を見つめている。
「凄い!」
「前代未聞!」
「これほどの条件は見たことも聞いたこともありません」
「大袈裟ではなく現実的に彼を取るか取らないかは社運を掛けた重要な案件だと思いますが如何?」
「確かに彼の存在と能力は将来的に大きな財産になると思います」
「彼が他社に行ったら我が社としては大きなマイナスになるでしょう」
 月下は・・・
「私は社長として課せられた責任として彼が示した条件を全て受け入れて来てもらいます」
「で、彼は来てくれると・・・」
「彼は来てくれます」
「お〜〜〜やったぁ、やりましたね社長」
 思わず感動の拍手が沸き起こった。
「と云う事でよろしいですね」
「勿論ですよ」
「よくやってくれました」
 月下は両手を上げて皆んなを制した。
「これは特の付く社内外ともに極秘案件ですからよろしく」

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 つづく



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小説「イメージ」No:10

No:10

 福賀はパーラー・ラ・メールに11時20分に着いた。
ここは選び抜かれたフルーツを提供する店として人気がある。
店内はお洒落な女性達で賑わっている。
日曜日だからラフな服装が多い。
福賀が店の2階に上がって行くと趣味のいいスーツを着た紳士が立ち上がった。
(遅かったか?)ナキカの父親だと直ぐ解った。
「遅くなりました」
「いや、私が早すぎとのです」
名刺を出された。
福賀も用意して来た日本広告アート協会会員の名刺を渡す。
「どうぞ」
「失礼します」
「ナミカが福賀さんとお付き合いをしていただいているそうでお世話になります」
「此方こそナミカさんと出会えて幸いでした」
「有難うございます。色々今の時期福賀さん大変でしょう」
「先輩を通して問い合わせが来ていることは事実です」
「失礼ですが、どの位の件数ですか?」
「23件いただいています」
「そうでしtか。そうでしょう。それで今のお考えは?」
「実は昨日ナミカさんがちらっと父は雪月花石鹸の社長をしていると云つていたので・・・」
「ナミカが云ってくれましたか」
「はい」
「もうお解りだと思いますが、どんな条件でも構いません。是非我が社にお出でいただきたい」
「此処で其の話をするのは適当絵はないと思って書いて来ました」
当然だが月下が福賀に会いたい内容は解っていた。
ナミカに月下の事を聞いた時点で雪月花石鹸に行くことになるだろうと思っていた。
そして福賀が出した入社条件は・・・
1・入社目に社名を株式会社雪月花に変更する
2・入社前に化粧品部門を創設する
3・化粧品開発プロジェクトを準備する
4・社名変更新聞広告見開き(2ページ)に化粧品部門新設と私の紹介を載せる
5・私を化粧品部・部長として入社させる
6・化粧品に関係した部署のトータルマネージャ^とする
7・社内外を問わず自由に活動出来る
以上です。

「これが条件です」
「結構です。で契約金とか給料とかは?」
「それに条件はありません。条件は思い切り働ける為に必要なものです」
「解りました。有難うございます」
「よろしくお願いいたします」
「此方こそよろしくお願いいたします。助かりました。福賀さんにうちに来ていただけるなんて
もう社として社長として最高の喜びです」
「我儘な条件を出しましたが僕の培って来た能力を十分に活かす為にはどうしても必要な条件でした」
「解ります。充分納得のいく条件で理解できます」
「それから内々の事ですがナミカさんと知り合いであることは当分伏せておいてください」
「そうですね。あの新聞記事を見て私の知り合いのコネを使ってお願いした事にしましょう」
二人は改めて握手を交わして外に出た。
「準備は色々大変だと思いますので入社前でも関わらせていtだきます」
「そうですか。新しい事ですから手伝っていただけると助かります」
「それと、これは極秘に進められなければならないので・・・」
「その辺が難しいですね。其の事は道々はなしましょう。ちょっと過ぎましたが食事に行きましょう」

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 つづく

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小説「イメージ2」No:8

小説「イメージ」No:8

 入り口の扉が開いて一人の男が入って来た。
「えらっしゃい」
威勢のいい声が迎える。
客はボックス席には目もくれずカウンターに目を
走らせて入り口近くの一番隅に向かった。
「お客さんこっち空いてますよ」
「隅が落ち着く質だからここに決めます」
そうですか。其処が良いなら良いんだけど変わった人だな。
大将は折角勧めたのにって残念そうだ。
「大将!」
初めて来ていきなり大将呼ばわりかよこの客は・・・
「大将、ダリが描いた溶けた時計が机にへばりついた絵あるでしょう」
「ありますね。私だってその絵ぐらい知ってますよ。でその絵が何です?」
「あの時計のモデルになった時計どこに行ったか知りませんか?」
「其処までは知りません。それがどうしました?」
「大将なら知ってると思ったんだがな」
変な人が入って来ちゃったよ。
「ま良いか、大将、此れからお店の温泉一泊旅行に行きませんか」
温泉?いいね。これから・・・。
「良いですよ。行きましょう」
「流石だ・大将気が合いますね」
気が合ってると言われてしまったよ。
「ちょっと待ってね」
福賀が電話を掛けに外に出る。
そこにニコニコしながら女将が暖簾を店の中に仕舞いに来る。
「大将。行き先は伊東温泉泊まりは山海ホテルです」
「バスは?」
「東西観光30分くらいで来ます」
「了解。福寿司一行だね。え?店のものだけじゃなくて行ける客も?」
「そうですよ。費用は全部私もちです」
何なんだ此の人は?
「お客さんは何屋さん?」
「何屋さんってデザイン屋さんかな?」
「自分に聞かないでよ。デザインって色々あるでしょう」
「広告のデザインって解る?」
「テレビに載せるCMとか新聞とか雑誌とかチラシとか?」
「よく知ってますね」
大将は褒められて苦笑いだ。
「バス来るまで何か握ります」
「任せます。日本酒がいいな。久保田ありますか?」
女将が・・・
「有りますよ。冷にします?熱燗が良いですか?」
「冷やでお願いします」
大将が客に行くか行かないか聞いて、行く人は家に電話させている。
出掛ける準備が出来た頃バスが着いた知らせが入る。

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No:9

「ちょっとお母さん此の記事みてごらん」
ナミカの母が呼ばれて見に行くと広げられた新聞の記事に
福賀の写真が載っていて学生で初めて日本広告美術連盟の会員になって
国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞した記事があった。
「あ!この人ナミカのお友達とお誕生日パーティーした時に会ったんだわ」
「え!ナミカの?」
「お友達みたい」
「ナミカのお友達?ナミカは居るのか?」
「昨日来て泊まって居ますよ」
「ナミカを直ぐ呼んでくれないか?」
いつもと様子が違う緊張感を感じている。
「はい」
急ぎ足で階段を登りドアを叩きナミカを呼んだ。
「ナミカお父様が呼んで居ますよ」
「はい、直ぐ降りて行きます」
どうしたんだろう何があったのだろうと思いながら降りて来た。
「お父様おはようございます」
「おはよう。この人ナミカのお友達だそうだね」
指さされた新聞の記事をみてびっくりした。
「はい、お友達です」
「直ぐこの人と会いたいんだ。会えるようにしてもらえないか?」
「・・・・・・・」
「凄く大事なことなんだ。頼む。お願いします。今直ぐにでも会わなければ
ならないんだ。仕事のことを家には持ち込みたくないんだが仕方ないんだ」
「お仕事の関係なんですか?」
「そうだ。会社にとっても私にとっても非常に重要な事なんだ」
「解りました。電話してみます」
まだ福賀は家にいるかもしれない。
「もしもしナミカです。おはようございます」
「あぁ~ナミカさん。おはようございます」
「ちょっと良いですか?私の父が福賀さんに用事があるそうなので」
「そう。良いですよ」
「父と変わります」
何の事か福賀は解っている。
「勝手で申し訳ありませんが今日出来るだけ早くお会いしたいのですが」
「はい、空いて居ます。時間と場所を決めていただければ伺います」
「では、11時半頃に新橋の近くにあるパーラー・ラ・メールで如何でしょう」
「はい、其処でしたら大丈夫です」 
「よろしくお願いいたします」
ナミカの父親は電話を切って緊張の糸が切れたように大きなため息をして・・・
「ナミカ有難う。ナミカの知り合いにこんな凄い人が居たとは・・・」
「そんなに大変な事なの福賀さんに会う事が」
「そうなんだ。凄く大変な事なんだよ」
「じゃあ良かったのね」
「良かった凄く良かった」
「私にはよく解らないけど」
「ナミカには解らないだろうな」
「全然」でもナミカは嬉しくて笑っている。
「仕事に行かなければ。それも生涯最大の大仕事に」
「そう?」
「社長としてね」

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 つづく



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小説「イメージ2」

No:1
                      
 此処に書かれる事は「こうしていたら」とか「こうしていれば」と後悔をせずに
生きるとどうなるか書いてみよう。
私は空から彼を見続けて来た時々空に現れる雲。
 それでは3歳の時に交通事故に遭って亡くなった両親の父方の叔父に育てられた
福賀 貴義(フクガキヨシ)の話である。
育ての親は中学で世界史を教える教師であり、傍らで日本の武道合気道5段の師範。
3歳で両親を失った貴義の悲しみを父親も習っていた合気道の練習に向けることで
精神面の強化を図った。

 叔父・福賀正義(マサヨシ)の住まいは小さな海岸のある町だった。
海も空も貴義を温かく迎えてくれた。
時間のある時は小さな入江の浜辺で打ち寄せる波を見たり沖合いに浮かぶヨットを
眺めたり自然の中で呼吸をしていた。

 いつしか自然は貴義の親しい友達ななり色々なことを学ぶ師になっていった。
合気道の修練とは別の気持ちな起こって来始めたのは中学に進んでからだった。
山梨から新しく美術の先生が赴任して来た出来事が合気道とは別の気持ちを鮮明に
していった。

NO:2

日本の各県そして各地域にある方言を知らなかった福賀は山梨から転任されて来た
美術の先生が「・・・ずら」と云う方言に新鮮な関心をもった。
「自然ほど素晴らしいものはないずら」
「そう思います」
「自然と仲良しになって話をするずら」
「自然と話をですか?」
「そうずら」
山梨から来られた山本先生は水彩画家で或る時先生の作品が教室の壁面に飾られた。
その全てが風景画だった。
遠景に山があり中景には茅葺き屋根の民家があり手前の柿の木に落ち残の葉が一枚
そして熟した柿の実が1つ。
雨上がりの朝を思わせる自然からは瑞々しくて温かい感触が伝わった来た。
「凄い!」
自然を愛する温かさは描く人の心を伝える。
福賀は言葉にならない感動を感じて胸を熱くした。
「僕も描きたいこんな絵を」
それから自然を描き始めて絵の世界にはまってしまった。
そして高校へと進んでも絵を描き続け担任の先生から国立アート大学への進学を
進められて受験勉強に邁進する。
進む道が決まると横見をせずに唯一つの事に集中する性格が現れる。
人が何かに一生懸命になると今まで気が付かなかった環境が現れてくる。
近所に国立アート大学の4年生が居て貴重なアドバイスをしてもられた。
福賀は実の親ではない叔父に世話になっている自分を解っている。
確かに芸術を学ぶ大学としては国立だし、それに私立より授業料のレベルが低いし
自分の立場を充分理解している。
がしかし其れだけに受験のレベルは高かった。
福賀人生で初めての失敗を味わう。
「次は絶対に合格してやる」

No:3

あれは死にものぐるいで受験勉強をして大学に入れた年の6月頃。
福賀は何処からか誰かに見られている強い視線を感じていた。
その感じは行き帰りの道で2年も続いたのです。
そして3年生のやはり6月、とうとうその視線の主が現れた。
「あの~突然に失礼ですが少しお時間を頂けないでしょうか?」
「・・・・・」
渋い大島紬と思われる和服を着た痩せ気味で精悍な感じの中年の
男がそこに居た。
「僕に何か用が?」
少し腰を折り気味にして・・・
「実は私、貴方様が大学に通われるようになられた時からあることを
お願いしたいと思い続けて居ました者です」
そうか今までの視線の、大体この人は何者なんだろう。
見るからに胡散臭い普通の人ではないようだが。
「私は刺青の彫師でして五代目彫辰と申します」
何?刺青だって、あの裏美術の・・・。
「自分で云うのもなんですが、彫辰はその道の名人の称号でして・・・」
だから何なんだ。
「実は彫辰は彫辰になった者が譲る者を決める習わしになっていまして
今まで六代目彫辰を探していました。そこに貴方様が現れこの人だと
思い当たった訳でございます。どうかお願いです六代目彫辰を継いで・・」
「ダメです!僕が彫物師なんてとんでもないダメです!」
何てことを云うんだこの人はと福賀は全部を聞かずに断固拒否した。
「無理なお願いだとは十分に解っておりますが貴方様しか居りませんので
何とかお聞き届けくださいお願いですから」
「申し訳ないけど僕はデザイナーになるために勉強しているんですから」
兎に角その場から離れようと早足になれば相手も負けじと付いてくる。
そして前に回り込んで土下座をした。
桜並木には花が散って枝には緑鮮やかな葉が着いている。
人通りは多くはないが少なくもない。
何事かと振り返ったり、立ち止まったりの人も。
見まいとしたが、ふと目に入ったのは土下座した男の前に白鞘の匕首が。
そして其の人の目を見てしまった。
この人は断ったら死ぬ気だ。

No:4 

 福賀が連れて行かれたのは善く残っていたと思われる
落ち着いた日本家屋だった。
「おかえりなさいまし」
中から優しくて明るい感じの声が聞こえて来た。
「家内です」
五代目の女将さんだ。
「ようこそお越しくださいました。どうぞお上りくださいまし」
まるで福賀が来るのが解っていたかのように迎えられた。
「福賀です。お邪魔します」
何も抵抗のない自然なままに事が運べれて行く。
「こんち内の人が大変ご迷惑なお願いをして申し訳ありません」
それに被せるように五代目が・・・
「まったく申し訳ないです。有難うございます」
もう仕方ないでしょう。承知してしまったんだから。貴方を
死なせる訳にいかないでしょう。
二人で覚悟して話が出来ていた様子が感じられた。
ここに来るまで何度有難うございますを聞かされただろう。
福賀はあの凄い鬼気迫る目を見て覚悟は決めたから黙って着いて来た。
「此方にどうぞ」
六畳の部屋に座布団が一つ置かれている。
女将さんが盆に茶碗を一つ載せて運んで来て福賀の前に置いた。
家具は何も無い。
女将が下がり、五代目が入って来て福賀に向かって間を取って座った。
改めて福賀に六代目を継ぐ事を承知してくれた礼を頭を下げ云った。
そして五代目が関わる彫り師の会など詳しく話し、福賀が関わる人や
所に災いが無いことを真剣に話した。
「6ヶ月位、毎日此処に通っていただき五代目の全てを習得された時
六代目彫辰を継いでいただきます」
福賀は大学の帰りに五代目の家に寄って1時間彫り方を仕込まれた。
誰の背中を借りてと思ったが、それがなんと女将さんの背中だった。
線彫からぼかし彫そして隠し彫りと・・・。

No:5

 早く次の七代目に名人彫辰を譲りたい福賀はその約束を取り付けた。
五代目の高校2年生の息子に福賀のセンスで七代目を継がせる。
それを願っての六代目探しだったのだろう。
「それは願ってもないお話で有難い事です。ぜひ福賀さんの六代目を
息子の士世来に継がしてやってください
「士世来さんが高校を卒業された時で良いですか?」
それは少し早過ぎないかと思ったのか、そこし間を置いていたが・・・
「結構でございます。解りました。宜しくお願いいたします」
此れから2年位のことだと何となく気持ちが楽になったようだが・・・
う~んそう云う訳に行くのかな気がかり・・・そこに又々
「福賀さんに六代目を継いでいただく迄に私の彫をお背中に五代目の
印として彫らせていただきます。これはこの世界で尊ばれ傷つけられず
大事にされるお守りになります」
そら来たって思ったけれど此れは引き受けてしまった内にあった物だ。
「私は福賀さんのように新しくはありません。古いものですが私なりに
精魂込めた物を彫らせていただきます」
名人彫辰だもん大丈夫心配ないからまかせましょう。
五代目の女将さんの背中を借りて墨入れの技を習得しながら自分の背中に
墨を入れられるって構図が半年続いた。
そして福賀の背中半袖のTシャツ内に古典中の代表「桜吹雪と昇り竜」が
出来上がった。
散らされた桜の花びらは身体が温まるとほんのりと薄紅色に浮き上がる。
右肩に六代目へとそして左下に五代目彫辰と入った。
五代目の女将さんには四季の花が此れも隠し彫で艶やかだが完成はまだ先
七代目がセンスを生かして技を磨ける分を残してある。
師走大晦日正月と福賀は誰よりも忙しい日々を過ごしながら4年生に
向かっている。

No:6

 そうだ、6月に五代目彫辰の命がけの頼みに負けて六代目を継ぐと
承知した福賀は形だけの挨拶で実際には9月から本格的始動を約束。
7・8月の夏休みは色々な学習や挑戦や活動で忙しい。
 そんな中でも友達との交流は大事にしていて土日の混雑に友達の家が
開いている海の家の手伝いを引き受けている。
今日も遠浅の海岸で人気がある海水浴場はすごく混んでいる。
「如何ですか。どうぞいらっしゃい!」
色々な大学の学生があちこちで呼び込みをしている。
一年で一番楽しみにしているアルバイトだ。
女子大生と友達になれる楽しみがあるから威勢がいい。
福賀の他に3人雇われていた。
「ここにしない?」
女子大生らしい4人連れが足を止めた。
「いらっしゃい。どうぞどうぞ。お待ちしていました」
愛想のいいアルバイトの学生がすかさず呼び込んだ。
「そうね。感じよさそうだし・・・」
これが後々大変な展開へと繋がるとは誰も気づく事はなかった。
その日はとくに何事もなくまた来ることを約束しあって別れた。
4人グループの一人が近くに住んでいるのだが家から水着でタオル掛けで
来るほど近くはないにで海の家を借りなければならないのだ。
「あのバイトの学生どうだった?」
「面白い人達だったじゃない?」
「明るくて夏の海に合ってたわ」
「そうね」
「でも、一人だけ外に出ないでず~っと中に居いたわね』
「そう、グレーのTシャツ着てジーパン履いていた」
「あの人が良いらしいの」
「それって変わってる」
「うん、かなりね」
「それで俺たちのように付き合っているの?」
「それがなかなか逢えないらしいの」
「なんで?」
「凄く忙しいんだって」
「学生で忙しいのってバイト?」
「いや、そうとは限らないけど」
「ハハハ勉強も忙しいけどな』

 ナミカは福賀の東京のアパートにあれから何度も電話を掛けた。
また今日も留守。
「もしもしナミカです。お時間があったらお会いしたいのですが・・・」
福賀は携帯を持っていない。

夏が終わろうとしている頃。
「もしもし、福賀ですがナミカさんいらっしゃいますか?」
「福賀さん、どちらの福賀さんえしょうか?」
出たのはナミカの母親らしい。
「国立アート大学の学生の福賀です」
「ナミカは今出かけておりますが・・・何か?」
「そうですか。解りました」
「福賀さんからお電話があったとナミカに伝えておきます。今日は?」
「今日はアパートにおります」

No:7

「ナミカさん?今何処?」
「駅の近くです」
「そう。じゃぁ直ぐ行きます」
福賀は用意していたらしく直ぐやって来た。
「銀座にチキンライスの美味しいお店があるんだけどチキンは?」
「好きです」
好きですなんて云っちゃた。ナミカは好きって言葉に恥ずかしそう。
「そう。良かった。じゃぁこれから行ってみる?」
ナミカは黙って頷いた。
地下鉄に乗って其の店まではさほど時間は掛からなかった。
なんで地下鉄はこんなに早いんだろう。もっとゆっくりで良いのに。
「ここです」
そこはカウンターだけの店だった。
カウンターの中には見るからに美味しそうな丸々と太ったコックが微笑んで
福賀を向けた。
「珍しいね」
福賀が女性と一緒に来るのが珍しいって顔をいている。
「そうでしたね」
大学生なのに顔なじみの店があるなんて・・・凄いとナミカは感じた。
私が初めてなんてと嬉しげだった。
「チキンライスを二つお願いします」
コックがにこやかに頷いた。
チキンを炒める音が美味しそうだ。
ワインが振り込まれて火が入りハッと炎が上がまた美味しさが加わる。
しゃしゃしゃっとライスが入りフライパンが振られてまた美味しいさが加わる。
赤いものが放り込まれたトマトピューレだ。
一人づつ出来上がって渡される。
こんなチキンライス初めてとナミカが顔で云っている。
「ご馳走様でした」
福賀の言葉に沿ってナミカも控えめに云う。
「美味しかったです」
「そう。良かったまた来てください」

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 つづく

No:8

 入り口の扉が開いて一人の男が入って来た。
「えらっしゃい」
威勢のいい声が迎える。
客はボックス席には目もくれずカウンターに目を
走らせて入り口近くの一番隅に向かった。
「お客さんこっち空いてますよ」
「隅が落ち着く質だからここに決めます」
そうですか。其処が良いなら良いんだけど変わった人だな。
大将は折角勧めたのにって残念そうだ。
「大将!」
初めて来ていきなり大将呼ばわりかよこの客は・・・
「大将、ダリが描いた溶けた時計が机にへばりついた絵あるでしょう」
「ありますね。私だってその絵ぐらい知ってますよ。でその絵が何です?」
「あの時計のモデルになった時計どこに行ったか知りませんか?」
「其処までは知りません。それがどうしました?」
「大将なら知ってると思ったんだがな」
変な人が入って来ちゃったよ。
「ま良いか、大将、此れからお店の温泉一泊旅行に行きませんか」
温泉?いいね。これから・・・。
「良いですよ。行きましょう」
「流石だ・大将気が合いますね」
気が合ってると言われてしまったよ。
「ちょっと待ってね」
福賀が電話を掛けに外に出る。
そこにニコニコしながら女将が暖簾を店の中に仕舞いに来る。
「大将。行き先は伊東温泉泊まりは山海ホテルです」
「バスは?」
「東西観光30分くらいで来ます」
「了解。福寿司一行だね。え?店のものだけじゃなくて行ける客も?」
「そうですよ。費用は全部私もちです」
何なんだ此の人は?
「お客さんは何屋さん?」
「何屋さんってデザイン屋さんかな?」
「自分に聞かないでよ。デザインって色々あるでしょう」
「広告のデザインって解る?」
「テレビに載せるCMとか新聞とか雑誌とかチラシとか?」
「よく知ってますね」
大将は褒められて苦笑いだ。
「バス来るまで何か握ります」
「任せます。日本酒がいいな。久保田ありますか?」
女将が・・・
「有りますよ。冷にします?熱燗が良いですか?」
「冷やでお願いします」
大将が客に行くか行かないか聞いて、行く人は家に電話させている。
出掛ける準備が出来た頃バスが着いた知らせが入る。

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 つづく

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手で見る学習絵本「テルミ」

245号「テルミ」6・7月号のご紹介

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 さあ〜どうでしょうか。
取り敢えずUPしてみました。
どうにか大丈夫のようですのでよろしくお願いいたします。



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