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小説「イメージ2」No:37


イメージ No:37

 福賀のイメージに温泉と海がつながった。
福賀は秘書の海辺をホテルに残して伊豆・ホテル旅館連盟の会合が行われる
会場に出掛けた。
会場は伊豆では最大のホテル「伊豆観光ホテル」の大広間だった。
8時前に連盟の役員全員が集まって福賀を待っていた。

「福賀専務がお見えになりました」
既に会長から幹事には福賀が顧問を引き受けた連絡が行き会員たちに伝わって
いた。
大きな拍手が福賀を迎える。
「こんばんは。福賀です。よろしくお願いします」
また大きな拍手が力強くわいた。
会員たちの福賀に期待と尊敬の気持ちが溢れていた。


 議題は「ホテルと旅館の改革」に挙げられていた。
停滞している現状の改革を強く望んでいる様子が福賀に強く感じられた。
改革の必要を強く感じているがどう改革したらいいか解らないでいる。
福賀の基本的な考えは常にそれぞれの違いを尊重して生かし合う事だ。
そして、それぞれの環境の整備とよりよい環境作り。そのためにどうするか。

 個性を輝かせ、自然を大事にすること。そして自由なコミュニケーション
が大事で、そうした抽象的なことをどう形にして行くか。
こうした福賀の提案に対して会員の意識を問い、意見や感想を2時間聞いた。
「何でも考えを直ぐ形にするのは無理ですから、次回までに色々考えてみて
形にして行きましょう」

「実は此方に来る前に漁業組合の組合長の波崎さんに呼ばれて会って来ました。
矢張り漁業の方も改革を課題にしていて顧問を頼まれお受けしてきました」
お~!っと会場にどよめきが起こった。
ホテルも旅館も自然に恵まれた環境があって観光客に愛されていて、そこには
矢張り自然に恵まれた魚介類がたくさんある。

「ホテルと旅館だけではないですね。当たり前ですが三味一体で強くなります。
違うものが夫々の個性を認め合って繋がると其れが改革の柱になりませんか?」
お~っとまた力強い叫び声があがった。
自然と関わって生きて来た人たちは純度が高い。
自然の中で自然と関わりながら生きていると其の価値を意識しないでいたりする。

 福賀のイメージが形になるのは、そう遠くはなさそうだ。
「自然は山だけではないでしょう。海だけでもない。海も山も自然なんですから」
当たり前の事であっても全体的に考えないで部分的に人は考えやすい。
「そうですね」
「全体的を視野に入れて考えないといけませんね」
福賀は漁業組合とのリンクを考えているようだ。

「おかえりなさい」
「露天風呂に入ろうかな」
「私もいいですか?」
「いいでしょう」
「ホテル旅館連盟の顧問を引き受けて、漁業組合の顧問を引き受けたし」
「お忙しくなりますね」
「忙しいのは苦にならない。楽しみだから。絵を描いているようだから」
「会社に関係して来るのでしょうか?」
「多分・・・自然につながって行くのではないかな」

「福賀専務が動くと動くに従って色々な変化が起きて行きますね」
「イメージで動くから」
「そうおっしゃいますが、福賀専務のように動ける人いません」
今夜は月が煌々と輝いていて其の目を一塊りの雲が行ったり来たりしている。
海辺は秘書として福賀についた時から感じていた。
この人は自由に泳ぎ回る魚のゆでもあり、空を飛びまわる鳥のようだと。
福賀は感覚的な人間で、直感的な人間だと。
山海ホテルの女将さんや東西観光の山谷さんも直感人間。
福賀専務の近くには自然とそうした人間たちが現れる。
「私は自由でないと何も出来ない我まま人間で困ります」
って福賀専務は自分で云っている。

 福賀が我ままと自分で認めていることが海辺には気持ちよかった。
「私、結婚しようかと思っています」
海辺は直感的に福賀には結婚の相手がいると思っている。
だから福賀から離れるために秘書に徹するためにも離れなければいけないと。
「そう。それはおめでとう」
「まだです。したとしても何も変わることはないのです」
「と云うことは、会社の方も私の秘書も変わらないのですね」
「はい。今までと変わりません」

「パリの方も色々動いているようですから様子を見に行きますか?」
「はい。お願いします」
「アラブ圏にも、中国の方にも行きましょう」
「はい」
海辺は先に自分の気持ちの変化を知っておいてほしいと思っていたが先を
越されてしまった。

「専務、ご結婚は?」
「あると思いますよ。いつかそのうち」
「近くですか?」
攻めるな海辺さん。
「まだ、先がいいかなって感じですね。まだ其の前にやる事が沢山あるし
やりたい事があるから」
やっぱり決まった方がいらっしゃったのね。
海辺には結婚する相手も予定も無かった。
ただ、福賀への気持をそらしたかったことにして決別しておきたかった。
専務が結婚する相手ってどんな人だろうと海辺は福賀の近くに寄って同じ
月を眺めていた。

「専務のお背中触って良いですか?」
「え~彫られてから触られたこと無いんだけど」
「少しだけ良いですか?」
良くはないんだけど。断ったら海辺は死ぬかもしれない。
命には変えられない。
「少しだけですよ」
あ~ぁあの時もこの時も何て時なんだ。
海辺の掌が温かい自分の温かさと同じ感じがする。
おいおい少しって云ったよな。
何か掌と違うものまで触れてるじゃないか触れ過ぎ。

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「専務。ごめんなさい。有難うございます。先に上がらせていただきます」
あぁ死なせずに済んで良かった。
でも、何てことを海辺は秘書だよね。
いや、あれは秘書ではなかった。
福賀は固くそう思って飲み込んだが、それもどうなんだ。

 株式会社雪月花では取締役会が開かれていた。
「福賀専務に選考を頼んでいた5人の女性取締役を加えたいと思います」
秘書課長に5人を呼んでくれるように福賀が指示した。
采野(さいの)・池野(いけの)・梅苑(うめぞの)・江先(えさき)・沖(おき)に呼び
出しの電話が行く。
何も知らされていない5人は何事かと不安に思いながら役員会議室に恐る恐る
入って来た。
こう云う時は良いことより悪いことを考えてしまう。

 現在10人の取締役のうち5人が監査役になって席が空いてる。
「5人の皆さんに常務取締役として経営に参加していただきたいと思います。
どうぞお掛けください」

「今まで思っていたことですが、なかなか実現出来ずに来ましたが男性にない
女性の感性を経営にいかしてほしい、其の思いで取締役の意見が一致して叶い
ました。如何でしょうか?」

 社長の説明を聞いて5人は悪い事ではなかった事にホッとした。
そして、今まで福賀から色々試練の仕打ちを受けた事が此処でつながって来た。
私たちは福賀専務に試されていたのだ。
乗って良かったと5人は夫々同様な思いを持ち合ったに違いない。

「改めて伺います。引き受けていただけますか?」
5人は反射的にはっきりと答えた。
「はい。有難うございます。よろしくお願いいたします」
「良かった。良かった」
社長は他の取締役と顔を見合わせてニコニコしている。
これで社長と専務を除いた取締役は男女同数になった。
福賀が望んでいた男女機会均等のイメージが形になった。

 そして株式会社雪月花は創立40周年記念パーティの準備が始まっていた。
海辺は専務がお付き合いをしている方を聞いて見たい衝動にかられていた。
聞いてしまった。
福賀が海辺の前に回ってきて右手の人差し指を出してそっと云わないのって
感じで海辺の唇をふさいだ。

 伊東温泉・山海ホテルだけしか福賀の仕事範囲をしらない海辺はパリの福賀
そしてアラブ圏の福賀や中国の福賀も秘書として知りたい。

「社長。家族も参加して良い事にしていただけませんか?」
取締役たちは家族の参加を許してほしいらしい。
「家族で参加ね~」
「家内と娘も参加させてほしいのですが」
「家族の協力も大きいので」
「どうでしよう?みなさんのご意見は如何ですか?」

 新しい取締役たちは反対する理由がないから微笑みながら頷いてる。
「大変結構だと思います」
と声を揃えて賛成する。
「どうかね専務?」
「良いでしょう」
「では、家族の参加ありで決定」
「有難うございます。家内も娘も喜びます」

 当日が来た。
「え!専務が急性胃潰瘍で欠席?」
旧取締役たちは自分の娘を専務に紹介する計画でいたようだ。
福賀がその企てを感知しないと思っていたのだろうか。
傷つけたり面倒なことにならないようにと福賀最良の考慮だった。

 つづく

 
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