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小説「イメージ2」No:31

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 福賀は東西観光の社長を引き受けて初めての仕事がバス運転部のレベルアップ
だった。これは基本的なポリシーの注入をして車部長でスタートさせた。
次は山谷が山海ホテルのロビーで福賀に聞かせた世界グルメツアーの立ち上げだ。
続々と立ち上げて来るだろうから早い方がいい。

「山谷さん、社長の福賀です」
 外から電話が掛かって来た。
「早速だけど世界グルメツアー部を作る事に先程の役員会で決まりました。この
企画は山谷さんの案ですから、貴女にやってもらいます。一週間の間に企画書と
部の構成スタッフを考えて出してください。明日から山谷さんは世界グルメツアー
部の部長ですからよろしく」
「私が部長ですか?」
「そうですよ。当然でしょう。貴女が考えた世界グルメツアーですから他の人には
出来ません。君に責任をもってやってもらいます。長として思い切って楽しい部を
作ってださい。どんな事でも必要なモノがあったら遠慮しないで直接私に云ってく
ださい。応援しますよ。楽しみにしています」
「有難うございます。あの時に思い切ってお願いして良かったです。頑張ります」
って云ってから何かお礼に云い足したいのか。

「あの~」
「何か?」
「先日、福寿司さんの伊東温泉一泊旅行に行った時ですが、あの時は仕事でして
皆さんとご一緒に貸し切り大浴場の参加をしたいのを控えていました」

「そうでしたか」
「今度また福寿司さんの旅行があった時には貸し切り大浴場に皆さんとご一緒で
お願い出来たらと思うのですがいけませんか?」
「いけない事はないです。平等ですから遠慮はいりません。参加したいですか?」

「はい。私も皆さんと一緒に参加したいです」
「そうですか。では行きましょう。そうですね。8時頃が良いですね。福寿司に
バスを出してください。運転は車部長にお願いしましょう」

「いつの8時頃でしょうか?」
「今日です」
「え!今日?解りました。車部長には?」
「私が電話します」
「有難うございます。宜しくお願いします」
「お二人新部長でしたね。進級祝いになりますか?」

「我儘を云って申し訳ありません。充分過ぎるくらい充分です」
「我儘良いですよ。何でも云ってください。それを望んでいますから」
「解りました。まだ色々解らないので勉強させていただきます」
「そうですね。それが仕事を楽しくします」

「車部長居ますか?居たら電話に出てください。社長の福賀です」
「はい。車です」
「急で悪いけど45人乗りのバス1台お願いします。福寿司に8時着ですが?
出来る。良かった車さん運転でお願いしますよ。添乗員は山谷部長でと本人に
云ってあります。行き先は伊東温泉山海ホテルです。では、今日の8時に福寿司
で会いましょう」

「もしもし、女将さん今日8時少し前に伺います。そう。大将によろしくです」
「あら専務さんお久しぶり。解りました。お待ちしてます」
「もしもし、女将さん。福賀です。今日45人位で伺います。大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよって。専務さん。お久し振りですね。お待ちしていましたよ」
「よろしく」

 そろそろホテル・旅館組合の組織作りと漁業組合の組織作りを考える時が来た
と久しく行っていなかった伊東に思いをはせて福賀はいた。
それぞれがそれぞれを生かし足りないのだ。
そして資源の有効活用にもつなげて行かなければいけない。
自然を敬って大事にする福賀の気持ち嬉しいじゃありませんか(雲)

 東西観光で初めての労使交渉が行われた。
会社内の各部所につながるオンラインを使って公開で始まった。
「私は社長を委ねられた福賀です。何でも聞きたい事を聞いてください」
「有難うございます。それでは社長が会社と我々に対してどんな考えを持っている
か聞かせてください」
「解りました。私の考えを聞いていただきましょう。会社も社員も明るくて元気で
いられる環境が大事だと考えています。そのために全力を尽くします」
「リストラはあるのでしょうか?私たちは常に安定した環境で安心した気持ちで働
きたいと思っています。しかし、今まで何時かリストラが行われるのではないかと
思う不安がありました。リストラはあるのでしょうか?」

「リストラ?何故?経験のある貴重な戦力を削らなければならないのですか?生か
す事が良い事だと私は思います。リストラはありません」
うお~っとため息が吹き出したような声があがった。
「リストラが無い事が確認出来て安心しました」
「安心第一です」
今度は社員から嬉しさの笑い声が上がった。
「今まで以上に労使の風通しを良くして欲しいのですが如何でしょうか」
「労使間で解らないところが無いように、それと建設的な意見がどんどん湧いてく
るような雰囲気にしたいですね」
「年齢に対してのお考えは?」
「年は余り考えません。年を気にして聞くのは日本人位でしょう。年を重ねただけ
のモノがあれば尊敬します。若くても想像力を発揮出来ればそれも尊重します」
「解りました。有難うございました」
「此方こそ有難うございます。よろしくお願いいたします」

 8時に福寿司に東西観光の山谷が入って来た。
「お待たせしました。東西観光です。いつもご利用いただきまして有難うござい
ます。バスが着きましたのでお店のお客様から順番にお乗りください」
「いつも突然で申し訳ないね。福賀専務の電話はいっつも突然だから」
「いえ、今日は私がお願いしました」
「そうだったの?珍しいね。何かあったの?」
「はい。良いことがありました」
「それは良かった。後で聞かせてもらうわよ」
「はい。よろしくお願いします」
福寿司の女将に挨拶をして山谷はバスに乗り込んだ。

 このバスにはもう一組を福賀が仕組んでいる。
東西観光の方は車と山谷の部長昇進祝いで、雪月花の方は次期取締役候補と一緒
いつもの様に大将の今日これから店の伊東温泉一泊旅行の宣言があり、それぞれ
心配されない様に電話で連絡してスタンバイしていた。
その中の次期取締役候補の5人何も解らず流れに混ざっているのだからどうなり
ますか。

「こんばんは此れから今日と明日皆さんとご一緒させていただきます。運転手は
昨日の午後に車両部の部長になった車です。よろしくお願いいたします」
ここで皆んなが拍手をする。
「有難うございます。そして添乗する私ですが、今日の午後に世界グルメツアー
部の部長にさせられました。山谷です。よろしくお願いいたします」
車内に大きな拍手が鳴りひびいた。

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「おめでとうございます。ちょっと聞きたいんだけど、良いですか?」
「どうぞ。聞いて下さい」
「前も添乗員さんで一緒だったと思うんですが、あの時は入社2年目とか云って
たと記憶してますが、あの時はまさか係長とか課長とかではなかったでうよね」
「はい、仰る通りです」
「って?それ飛び越して部長に?」
「はい。そうです。世界グルメツアーは私が社長に提案しました。今日役員会議に
社長が掛けて承認され部が出来て君の案だから君が責任持ってやるんだと部長に」
「すみません。おじさん日本人で直ぐ年聞きたくなるんだけど。今、おいくつ?」
「20歳です」
ぎゃ~って声が上がったぜ。
「20歳に部長なんて誰が決めたんですか?」
「雪月花さんの専務さんで東西観光の福賀社長です」
「さすが福賀専務やることが飛んでる。良かったね。福賀専務が社長になって」
「はい、車さんも係長から部長です」
うわ~って驚きの声。
「入社序列・年齢関係なしだね。誰にでもチャンスありだ」
「いや~良い話を聞かせてもらいました。今日は一段と楽しい旅になりそうだ」
「何故か解らないけど何時もより気持ちがいい乗り心地してない?」
「そうですね。これが部長運転って訳ですね。変わりましたね東西観光さん」
「有難うございます」
新参加の5人に段々と福賀の尋常でないあり方が感じられて来たようだ。
でも、未だ未だ此れからですからね。

 つづく

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小説「イメージ2」No:30


イメージ No:30

 人間が考える事は其れほど違いはない。
旅行業務を申請してから認可が下りるまで活動し始めると追うようにして数社が
動き出した。
福賀には全国のホテルと旅館を回って得たつながりがある。
海外も良い所があるが国内だって未だ未だ隠れた良い所が沢山ある。
会社としては世界グルメツアーを中心に置くが其れは山谷に任せる考えだ。
社内には社長として顔を出さないで或る程度の期間は社内の色々な部署を観たい
と福賀は思った。

「臨時採用の研究生で鬼田と云います。よろしくお願いします」
福賀は先ず重要な部署として車両部の様子を見たかった。
「おにた?おにだ?どっちにしても鬼って感じじゃないな。運転免許は持ってい
るのか?」
「はい。一応持ってます」
「どんな免許だ?」
「はい。大型二種免許(正式には大型自動車第二種免許)を持っています」
「運転した事あるのか?」
「はい。少しあります」
「そうか。じゃぁ~やってみるか。お得意さんの社員旅行があるから伊東まで
運転してもらおう」
「え!私一人で?」
「まさか、私も付いて行く」
おいおい此の係長はちょっとらんぼうだな。
「じゃあ、行こうか」
「はい」

 先ずはお得意さんの会社にお迎えに。
「まあまあだな、大事に行きなよ。安全第一だから、解ってるね」
「はい。解っています」
お客を乗せて伊東にGO..。
これからが本番。サービスエリアで休憩に入る手前に来ると車内がざわついた。
「なんか変じゃない?」
「いつもと違った感じがするぜ」
「そうね」
「止まっているのか動いているのか全然解らない」
「そう云えばそうね」
「なんなんだこれって?」
「初めてだよ。こんな感じ」
「すげ~運転だぜ、これって」
滑るように駐車場に来ると一発でスペースに入れてしまった。
「まるで車じゃなくて雲に乗ってるみたいでした」
口々に乗車感の気持ち良さを福賀に伝えながら降りていった。

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トイレ休憩を済まして着いた宿は山海ホテルに近いホテル潮風だった。
「いらっしゃいませ。お疲れ様でした」
女将さんと従業員が出迎える。
まだ、福賀は知られていないから都合が良かった。
「運転手さんは此方へ。添乗員の方は此方へどうぞ。

 案内された部屋に入る。
「オニダって云ったな」
「はい。オニタです」
「なかなかやるじゃないか」
「いえいえ、大した事ないです」
「いや~大した事ある。皆さんが驚いていたように私も驚いた」
 (意外と素直だな~)
「良い腕してる。うちの部に来ないか?」
「有難うございます」
「風呂でも入るか?」
「ああ実は私、風邪気味でして・・・」
「そうか。それではいけないな。じゃあ、私は一風呂浴びてくるな」
「はい」
 車が風呂から帰ってくる。
車と福賀と添乗員は食堂で食事をとった。
「オニダは風邪気味じゃあ早く寝た方がいい。私は少し飲んでから部屋に帰る」
「では失礼します」
(危ない危ないでも意外と優しいところもあるんだ)
「オニダ風邪大丈夫か無理するなよ」
車の気遣いに大丈夫だと答えて次の日も福賀は運転して帰った。

「有難う。素晴らしい運転でした」
「夢のような乗り心地でした」
「また、東西観光さんの車で旅したいです」
「私もまた乗せてほしいです」
福賀の運転に賞賛と満足の気持ちが伝えられた。
「有難うございます。また是非よろしくお願いいたします。お疲れ様でした。
気をつけてお帰りください」
車も福賀の前で深々と頭を下げた。

無事にお得意様の社員旅行について行って帰って来た。
「お疲れさん。良い運転だった。お客さんがあんなに喜んでくれたの初めてだよ。
あんた只者じゃないな」

「車係長。有難うございました」
「あぁまた明日」
「はい。よろしくお願いします。今日はこれで失礼してよろしいでしょうか?
明日は総務部に行くように云われていますので」

「そうか。解った。お疲れさん」
人事課から車係長に呼び出しの電話が掛かって来たのはそれから間も無くだった。
「車係長。貴方は明日から車両部の部長です。少し前に社長か来て決めていかれ
ました。社長に運転させて伊東まで行って来たそうですね。社長が笑ってました。
面白い人だって・・・辞令を受け取りに来てください」
(え~あいつ社長だったの?)

 車は大きな身体を小さくして恐縮している。
「車さんが私のことを知らない方が車さんを知り易いと思ったので失礼しました」
「恐れ入ります。色々教えていただき反省しています。社長が”お客様に優しい心で
運転を”は身にしみました。有難うございます。私が部長で良いんですか?」
「勿論です。感じていただけて嬉しいです。それは車さんに優しさを感じる心があるからです。その心をうちの運転にしてください」
「解りました。社長のような運転はなかなか出来ませんが、あの感動を忘れずに皆んなに伝えたいと思います。車両の整備あっての運転ですからスクラム組んで行きたいと思います」
「確かに仰る通りです。車さんを信頼しています。よろしくお願いします」

車係長の家では・・・
「あなたお風呂入れますよ」
奥さんが呼びかける。
「・・・・・・・」
当人は聞こえないのか聞いていないのか反応がない。
「何かへん、さっきからニヤニヤしてるだけで黙り込んいる」
娘さんが可笑しいと思って母親に云っている。
「どうしたんですか?何か会社であったんですか?」
奥さんがそばに来て問いかける。
「うん。あった」
「どんなこと?」
「大変な事」
「え!大変な事って?」
「明日から部長だって云われて辞令も出た」
「お父さん明日から部長さん?」
「そうだ明日から車両部の部長でよ」
「お母さん。お父さん係長だったでしょう」
「それが明日から部長さんなんだって」
「なんで~?その前に課長があるでしょう」
「何でだか解んないけど、部長にされちゃった」
「誰れに?」
「云われたのは総務部人事課の課長だけどしてくれたのは新しく来た社長だ」
「新しい社長さん何処からいらっしゃったの?」
「株式会社雪月花の専務だけど前の社長が頼んで来てもらったらしい」
「よその会社の専務さんが他社の社長になるって出来るの?」
「私も聞いた事ないけど。あの人には出来るんだね」
「私知ってる。4・5年前かな。お正月の新聞広告に出てたの思い出した」
「そうか。それで其れってどんなことだった?」
「大学出て部長で入社だったと思う」
「何だって!あの人は大学出て部長で入社したんだって今は専務だ」
「それだから会社と他の会社に関わって良いって約束あったのよ。きっと」
「そうか。道理であの人は只者じゃないと思ったんだよ」
「何か云われた?」
「色々云われた。
「どんな事?」
「私は威張る人って良いと思いません。人の悪口を云う人は信用できません。
常に謙虚でいたいと思っています。それから、仕事はそれぞれ大事だと思って
います。整備と運行は一体ですから車さんの優しさで宜しくお願いしますって」
「そうね。その通りだわ」
「お父さん、威張ってたの?」
「ちょっと威張ってたかな?」
「ハハハ、やっぱりね」
「社長は全然威張った感じないもんな」
「そうなんだ~ぁ」
「それから凄いのは社長の運転だな~思い出してもワクワクする」
「お父さん社長さんが運転する車に乗ったの?」
「そうなんだ。研修生だってやった来て、大型二種免許持っていて運転経験ある
って云うからやらせたんだ。お得意の社員旅行にな。そうしたらその運転がだよ
お客さんに喜ばれちゃう凄い運転でビックリしちゃった」
「凄い運転って?」
「動いてるか動いてないか乗ってるか乗ってないか解らなかったって運転なんだ」
「へ~ぇそんな運転ってあるの?」
「あるんだね。交差点で停止発進が乗ってる者に全く解らないんだよ」
「そんなの神業じゃない?」
「お客さん驚いたでしょう?」
「そりゃあもう大変驚いたね。お客さんが私より先に気がついてざわつきだした」
「そうでしょうね」
「私は研修生の安全確認にばかり気を取られていたから気がつかなかった」
「そうなのね。もしもの事があったら大変ですものね」
「いつ止まったか、いつ動き出したか全然解らなかったって不思議?」
「私とは立場が違う事もあってお客さんは乗り心地だから感じたんだよ」
「そんなの気持ち良くって夢見てるみたいじゃない?」
「お客さんもそう云って驚かれたり感謝されたり、もう大変だったよ」
「私も乗ってみたい」
「そうだよ。誰だってそんな運転で車に乗せてほしいよねって社長が云った。
そしてこんな運転をうちの運転にしたいって」
「それでお父さんを部長に・・・」
「そうなんだけど・・・」
「大変ね。でも、おめでとう」
「有難うって訳でよろしく」
車家に温かい春が来ましたね。

 つづく

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小説「イメージ2」No:29

イメージ No:29

一つの事件が福賀に様々な今までにない繋がりを生み出す。
その後、パリに戻った福賀は仕事の下準備をして中国に飛んだ。
政府高官と会って会社関係の話をした。
福賀が学生時代に中国河南省嵩山少林寺に入門して拳法を習得した時に師事
した高僧のコネが政府高官に(官僚)につなっがった。

 そして福賀は日本に帰って来た。
「パリの方の話は整いました。中国には工場と出店の準備も出来ました。後は
それぞれの契約が残っているだけです」
これからは、月前半を日本で、後半をパリを拠点に仕事をしたいと社長に告げ
てお願いした。
「では、役員会を開いて了承と協力を得るようにしましょう」
「よろしくお願いします」
社長の呼びかけで各取締役の面々が役員室に集められた。
「ありがとう。ご苦労様でした。福賀専務に動いてもらって助かります。そう
そう、次は専務が考えていた女性の役員を増やす件ですね」
「そうです。ご協力をお願いします」
「大変素晴らしい思索の実行だと思います。我々に異議はありません」
「どちらかと云うと大賛成です」
「ご理解ご賛同いただき有難うございます。さっそう進めたいと思います」
「では、次の役員会までに新しい役員を決めるようにしてください」
「出来たら社長に人事権がある事ですし、社長承認で人選を私に任せて欲しい
と思いますが、如何でしょうか?」
役員達がうなずき合っている。
「福賀専務に人選をお任せいたします」
「有難うございます。では人事部長に何人か候補を上げていただき私の上げた
候補をつき合わせて絞って次回役員会で紹介出来るようにいたします」

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 雪月花の中では課長・部長職が男女半々になり始めている。
次は取締役に女性を半々にしていこうと社長と話し合った福賀は外国に合同の
会社を作ろうとしていて又フランスに飛ばなければならない。
「少し外国を廻って来たいと思います」
「外国は何処へ?」
「パリを拠点にしてヨーロッパとアラブ圏と中国」
「行ってらっしゃい。いい話を楽しみにしています」
役員室から部屋に戻ると秘書の海辺から電話が掛かってきた。
「パリ航空のキキさんから電話がありました。いつパリに行かれるかお電話を
いただきたいとの事でした」
「解りました。その前に女性の取締役を決めたいので人事部長を呼んでください」
「キキさん?福賀です。早急にしなければならない仕事があって2・3日後にパリ
に行きたいと思っています」
「解りました。予定が決まりましたら教えてください。お待ちしています」

「海辺さん、ちょっと来てください」
「参りました。何かご用でしょうか?」
「初めに人事部長を呼んでください。その後、海辺さんから色々感触を
聞いている3人を呼んでもらいます」
「え、此処にですか?」
「何か?」
「温泉に行かないのですか?」
海辺はしまった何で温泉なんて云ったんだろうと思ったが遅かった。
「え!、温泉。5人と貴女を連れて良いですね。久しぶりに行きますか?」
「え?行くんですか?」
「貴女が温泉に行かないかって言いませんでしたか?」
「はい。云いました」
「そうでしょう。行きたくないんですか?」
「行きたいです」
「そう、じゃ~久し振りだし行きましょう」
「本当ですか?」
「マジですよ」
「いつでしょうかか?」
「今日です」

人事部長が入って来た。
「忙しいところ申し訳ありません。新しく女性の取締役を増やす事になったので
人事部長に候補をリストアップしていただきたいのです」
「いよいよですね。解りました。直ぐリストアップしてお届けします」
福賀はそれぞれの能力を尊重している。
福賀は秘書の海辺に協力してもらって自分なりにリストアップしてみた。

人事部長からメールで名簿が送られて来た。
こちらから3名、人事部長の名簿から2名を決めた。
役になる実力があって其の任に向いているか向いていないか。
役に食われてダメになっては本人の為にならない。
要は取締役で活き活きする人材だ。
決まった5人に電話して6時半ごろ銀座の福寿司に来てくれるように秘書の海辺に
連絡を頼んだ。

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温泉と云ったら何で福寿司なのかと海辺は不思議に思った。
私は温泉に行きたいと云っただけなのに。
福寿司に専務が行けば伊東温泉一泊旅行になってしまうのだ。
だったらあれになるのは当然じゃないですか。
「海辺さん何考えているんですか?5人に一人づつしっかりOKを取ってください」
「はい、解りました。福賀寿司に7時半ですね」
「何云っているんですか。福賀は私です。福寿司ですよ」
「済みません。福寿司さんですね。福寿司さん以外にも温泉ありますが」
「福寿司は久しく行ってないから。あ!温泉行きたくないんじゃない?」
「いえ、行きたいです。温泉入りたいです」
「本当に?取締役の話もしない。温泉行きも5人には云わないで後はなり行きです」
「はい、云いません。云える訳ないでしょう」
「何かI云いました?」
「いいえ、何も云っていません」
新しい取締役も大変だな~、大丈夫だろうか?海辺は心配だ。
「福賀専務がお寿司を一緒にどうかと云っていて良かったら6時半頃までに銀座の
福寿司さんに来てくださいとの事です」
「え!あの福賀専務が私にお寿司をご馳走してくださる。何でだろう?」
「日頃のご苦労を労いたいと云われています」
それぞれ現在は部長だから其れもありかと納得したようだ。
「解りました。海辺さんも一緒ですか?」
「はい、私も6時半少し前に福寿司さんに行っています」
「OKです」

「いらっしゃいませ。飲み物は日本酒にしますかビールがいいですか?日本酒かな」
女将が親しげに日本酒を勧めて来た。
それ程の待ち時間ではないし後の事もあるので海辺が気を効かせて。
「日本酒にしましょう。良いですか?」
それぞれが頷きあった。
「突然の呼び出し、まさかお寿司でお説教かな~?」
「それはないでしょう。皆んな頑張っているし」
日本酒が運ばれてくる。
「わ~美味しい」
「専務のお好きな久保田万寿です」
「さすがね」
「そして此処が専務のお気に入りのお店なのね」
「海辺さんは専務と来たことあるの?」
「はい、一度だけ専務付きの秘書になって間のない頃」
「そうなんだ」
「何かずるいって感じするな~」(笑)
「申し訳ありません。それも仕事ですので」(笑)
「秘書としてそれも仕事なら此れも仕事ってこと」
かすが選ばれし女性部長の面々だけど此れからがどうなるか読めるかな。

「えらっしゃい」
福賀専務が暖簾を分けて入って来た。
「奥でお待ちですよ」
と女将が云いながら大将に視線を投げて表に出て暖簾を取り込んでいる。
暖簾を持って戻って来た。
さあ~福賀劇場の幕が上がった。
その動きを見て5人は何がどうしたのかと騒ぎ出した。
「女将さんがのれんしまっちゃたわよ」
それはお店の営業はおしまいって事ですね。

「皆さん今日は店の伊東温泉一泊旅行になったのでお店はお終い。行きたい
人は付いて来て良いよ。心配かけないよに連絡して、女将が渡す紙に名前と
住所と連絡先電話番号を書いて渡してね。行けない人は気をつけて帰って又
来てね。今日のお代はいりません。また来てね。待ってるよ」

「専務、私たちはどうなるんですか?」
「あちらでゆっくりお話を伺いましょう」
「やっぱりね。どうも普通じゃないと思っていました」
「専務!何か良くない事を企んでませんか?」
「そんな事はありませんよ。良い事は考えていますが」
5人は顔を見合わせて首を傾げた。
仕方がないと心を決めて夫々が連絡先に電話して了解をとった。

「これからどうなるんでしょう?」
「さ~ぁどうなるんでしょうね?私にも解りません」
「そんな~、海辺さんは経験者でしょう?」
「いえ、前と同じかどうか解りませんから」
「そうか。そうよね」
「福賀専務のことだから」
「いつも白紙でいるしかないのね」
「そうですね。それしか無いと思います」
まあよく出来ていて此れからが凄く楽しみになって来ました。

「いつも東西観光をご利用いtだき有難うございます。バスが来ました。
お店のお客様から乗ってください」
「此方こそいつも無理を云って申し訳ないです。専務が専務だからゴメンね」
「解っていますよ。女将さん」
さ~ぁ久しぶりに温泉だ。

 つづく

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小説「イメージ2」No:28

イメージ No:28

 しばらくして国王が静かに話しはじめた。
「紅色をした大きな渦巻きに吸い込まれそうになっている私の腕を強い力で
捕まえて引き戻してくれた。それが貴方だったのですね」
「いえ医師の方たちと皆さんが国王の回復を心で願ったからです」
「ありがとう」
国王は王子から今までの様子を聞いて頷いている。
「中国の気功術ですか?聞いた事があるような気がしますが、私は貴方を通し
て中国に助けられた事になりますね」
「はい。そうなります」

「国王に飲んでいただきたいお茶がるので取って来ます」
お湯を用意してほしいと王子に頼んでその場を離れた。
「解りました。用意します」
福賀は隣の部屋に置いてあるバッグから中国のお茶を取り出して戻って来た。
「これは疲れを取り除くお茶としていただいたものです。私が先に飲みます」
と国王に告げて飲んで見せた。
何かアラブ系の国に来てもスムーズに話が伝わると思ったら翻訳機が有ったか。
外国の言葉が出来なくても会話が出来るなんて都合が良くなったね(雲)
でも、福賀の手話(ゼスチャー)もかなり有効のように見えたぞ(雲)

「おお!これは!」
身体の中で今までに無い何かが起きている感じに感動しているようだ。
「毎日はさけて、お疲れの時にとか、お疲れになりそうな時にお飲みください」
国王の感触をみて王子も興味をもったようだ。
「王子には必要ないと思いますが、どんな感じか試してみますか?」
福賀は少し薄めにして王子に渡した。
「おお!これはこれは」
若い人には直ぐ反応が出てしまう。

「国王はもう元に戻られたから心配ないようですね。でも、しばらくは安静に
していた方がいいと思います」
王子が国王に呼ばれて何か話をいている。
「父が福賀さんに大変興味をもって、もっと色々知りたいと云っています」
別に悪い事ではないし、隠す積りもないので構いませんと答えた。
「他には日本の武道で合気道と中国の嵩山(すうざん)にある少林寺の少林拳が
ありますが、ご覧になりますか?」
呼ばれて来て気功を使った以上流れとして仕方がないと福賀は覚悟した。
「何れにしても相手をしていただく強そうな人を用意してもらわないと・・・」
「解りました。父に話します」

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 王子は直ぐ戻って来た。
「大変喜んでいました。護衛官で如何でしょうか>」
「結構です」
王子の指図で王宮の護衛官が数人選ばれて連れて来られた。
武道の試合と云われたのだろう、屈強な大男が現れた。
皆んなまるでアラジンのランプを擦られて出て来た怪物のようだ。
身長2mを超えているのは間違いない。
白いふわっとふくらんだ提灯のようなパンツを履き、上半身は裸のまま。
それを見た福賀は自分も同じ支度でなければと思った。
「私も支度をして来ます」
隣の部屋のバッグから白のジャージを取り出して支度する。
「お互いが向き合った時に始めの合図をしてください」
と王子に告げる。
「解りました」
福賀は相手と合わせようと上着を脱ぎ捨てた。
アラブの王宮に名人五代目彫辰の登り龍が晒される。
それも覚悟の上だ。
国王はじめ周りの人たちは初めて見る東洋の刺青に感嘆の声が上がった。
福賀と護衛官が5mの間隔で向き合う。
「始め!」
王子の声が室内にひびく。
護衛官が突進してくる。それより早く福賀が右の手の平を突き出して気を放つ
護衛官の身体が弾かれたように後ろに飛んだ。
瞬きをする間もない瞬間の速さだった。
気を失っている護衛官に近づき福賀は活を入れた。
「気功を使いました。もう一人お願いします」

 福賀の呼吸に少しの乱れもなく静かに待っている。
前者と同じ位かそれ以上と思われる大男の護衛官がおどおどと進み出た。
両者が向き合う。
「始め!」
王子の声も気合が入る。
護衛官が福賀めがけて向かって来る。
福賀もその動きに合わせて向かって行く。
すれ違った。
そう見えた瞬間、護衛官の巨大な身体は大きな円を描いて背中から床に落ちた。
福賀は何事もなかったように其処に居た。
「日本武道の合気道です。もう一人お願いします」

 また前と同じくらいの巨人が恐々と前に出て来た。 
王子の始め!の声で福賀に向かって突進して来た護衛官に対して飛躍しながら
床に降りた。
護衛官は眉間を蹴られて仰向けに床に倒れ気絶した。
これは合気道ではなく少林拳の技だ。
相手をしてくれた護衛官に活を入れて回復させて静かに福賀は一礼して直る。
「これは少林拳でした」

 次は5人の護衛官が繰り出され福賀を囲んだ。
「始め!」
王子の声も鋭くなっている。
王子の始めの声で5人は福賀に襲い掛かるよりも早く夫々の動きを利用して
逆手に取り攻撃を防いで相手を倒した。
相手は自分の力で瞬時に倒れて動けなくなった。
5人はどうして自分がこうなったか解らず呆然としながら床に横たわっている。
夫々が足や腕などの関節を痛めている事に気付いていない。
福賀は護衛官たちの外れた関節をはめ直して5人を立たせて礼をした。
「これが日本の武道合気道です」
国王と王子に一礼をし、着替えをしてくると告げて隣の部屋へ行った。

 福賀は着替えをして戻って来る。
「有難うございます。芸術家と企業家でありながら武道家でもある福賀さん。
いや~あ、初めて福賀さんの武道を拝見して想像を超えた驚きを感じました。
是非うちの護衛官たちに学ばせたいです。お考えいただけないでしょうか?」
「そうですね。私に変わる人でよければ此方に呼ぶことは出来ます。勿論、任せた
ままでなく私も時々様子を伺う事で如何でしょうか?」
「勿論。そうしていただければ有難いです」
国王が嬉しそうに微笑んでいる。

「父が福賀さんの部屋をこの中に作りたいと云っています。それからお礼に
石油基地を2ヶ所プレゼントしたいそうです。私からもお願いします。私達の
気持ちを断らないで受け取ってください」

 つづく

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小説「イメージ2」No:27

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暑中お見舞い申し上げます

 キキは福賀のためにパリで美術関係者と連絡を取り合っていた。
福賀の作品を扱っている画廊のオーナーにも。
明日は福賀のパーティが用意されている。
「その前に会って打ち合わせをしたいので会いませんか?」
「はい、では11時半にロビーでお待ちしています」
いよいよパリの舞台で福賀貴義の活躍が始まる。
 
 パリ航空ホテルのロビーでキキと会い、食事をしながらパリでの行動を
福賀が打ち合わせをしている。
明日はフランス美術家協会主催のパーティが福賀のために用意されている。
そこに福賀と会いたい人たちが参加してくる。
「キキ、色々有難う」
「パーティはフランス航空がスポンサーで社長が福賀さんに関心があって
参加したいと云っています」
「そうですか。キキが良い感じに紹介してくれて感謝しています」
「いえ、私はただ話を通しただけ。社長も美術家協会の会長も喜んでいます。
これから今まで以上にお忙しくなりそうで、私は今からワクワクしています」
「ワクワクしてもらえるように頑張らないといけませんね」
パリは久し振りの福賀を柔らかい陽射しで迎えてくれた。

 パーティは午前10時から始まった。
フランス航空の社長ムッシュ・セザンヌが洒落た紹介をしてくれたのでどっと
会場がわいている。
福賀の横にはキキが付いて素早く日本語に訳して伝えてくれる。
パーティは立食で行われ福賀には色々な来客者が挨拶に来てくれていた。

 様々な芸術の世界で活躍している人たち、画廊のオーナーたち、政界の要人。
ファッション界のデザイナーとモデルたち、中国の人、アラブ系の人たちなど。
フランス美術家協会の会長が福賀を紹介して回っている。
福賀にとってこのパーティはフランスへのデビューの場となった。
「日本に行った時はよろしく」これが此のパーティの合言葉になった。
「福賀さん。パリにアトリエをお持ちですか?」
「仕事場としてアパートを借りています」
「そこで制作を・・・」
「あの作品もですか?」
「そうです」
そこに、話の画廊のオーナーとアラブ系の男性が近づいて来た。
「此の方が福賀さんの作品に興味を持たれて是非欲しいと云われています」

福賀は次の日の夕方、その画廊アルテにいた。
「作品は昨日のあの方が買われて今送り出したところです。是非、国の方に
来てくださいと伝えてほしいと頼まれました」
「そうですか。私の作品は旅立ちましたか」
「次の作品をお願いします」
福賀は自分の作品が飾ってあった広く空いた壁面を見詰めていた。
「それから・・・」
話しかけたオーナーの言葉をとめて・・・」
「あの方って?」
「あの方はアラブ系のさる王国の王子です。それから」
オーナーは他に何か福賀に伝えておく事があるようだ。
「これを福賀さんに渡してほしいと」
「・・・?」
「アトリエに使ってほしいと・・・キィです。それと此れが住所です。
これが門扉のリモコン。自由に使ってほしいとのことです」
「・・・?」
その場所はパリ郊外の住所だった。
「誰だろう?」
「それは、行かれたら解ると云ってました」
「なんてミステリアスな」
「行ってみましょう。福賀さんの作品を受け取りに行く都合があります」
「そうですね。行かない訳にはいきませんね。オーナーには此れからも色々
お世話になるし、地理も解りませんから、案内をお願いします」

 画廊のオーナーに案内されて書かれた住所に行ってみることにした。
コンコルド広場の近くの画廊からマドレーヌ寺院を抜けサンラザール駅を
抜けた所にそれはあった。
小ぢんまりした城に近い建物だった。
 福賀は画廊のオーナーから渡されていたリモコンで門扉を開けて中に入る。
車で入って行くと中央に円形の花壇があって、それを回り込むと3階建ての
本館、その隣に小さ目の2階建ての建物がある。
そこから人が出て来た。
「フクガさんですか?」
「こちらがフクガさんです。私は画廊のオーナーのアルテです」
「フクガキヨシです」
「私はここの管理をしている庭師のジャンです。ご案内しますからどうぞ」
 扉を開けると20畳位の空間があって正面に螺旋階段が3階まで繋がっている。
ちょっとお茶目な天使が優雅な素振りでゆっくりと降りて来そうな感じだ。

 落ち着いていて静か、品格があって執事が迎えに出て来そうな感じがする。
左に円形の広い部屋、右にも円形の広い部屋があって、後ろが厨房で繋がって
いるようだ。
パーティの時はシェフたちとウエィターやウエイトレスを呼んで賄うのだろう。
その他にトレーニングルームやビリヤード室など遊戯室が色々あるらしい。
2階に7つのバストイレ付きの寝室があり、3階は王子のプライベートルームに
なっていて地下にも何室か部屋があるらいいが一度では見切れない。
福賀がアトリエとして使えるのは多分2階の二部屋続きの部屋になるだろう。
その部屋はバルコニーに出るドアが大きくて2.50mの高さがある窓付き
になっているので100号のキャンバスを運び出すのに都合が良い。
梱包した作品を吊り下げて降ろせば運び出せる。
このお城はアラブ系の王子のものだが一部を福賀が自由に使わせてもらうのだ。
さっそくアパートの事務所をここに移さなければならない。

 そして暮れかかってから外に出て周囲を散策しながら画廊アルテによった。
オーナーは福賀の新しいアトリエ兼事務所の手配をしてくれている。
「福賀さんの好きなポルシェが間もなく届きますよ。ホワイトでしたね」
「有難う。マダムのお陰でパリでの私の楽しみが揃いました」
マダム・アルテに礼を云って福賀は新しい住まいに向かって車を走らせた。

 自分のアトリエ兼事務所に決めた部屋で遅くまでイメージしてPCで仕事を
し終えた福賀は次の日6時に日課のトレーニングをしていた。
樹木が多い空間の中は澄んだ空気で一杯だった。
空には一つの固まりになった雲が浮いていた。
「おはようございます。雲さん」
「おはよう。良い場所ができたね。ここからどんなイメージを広げて行くか
楽しみにいているよ」
抜けるような青い空をバックに白い雲が揺れていた。
「おはようございます。ジャンです。よかったら私の所で朝食いかがですか?」

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 福賀はアフリカの一部、アラブ圏の王国の空港に降り立った。
「フクガさんですか?」
「はい、フクガです」
「お迎えに来ました。王子は急用が出来ました。王宮でお待ちしています」
車に乗り込み油田が立ち並ぶ中を通りホテルやビジネスビルを抜けた。
しばらくすると洒落たアラブの王宮が見えてきた。
福賀が王宮に着くと、そこには緊迫した空気が流れていた。
国王が突然倒れ意識不明の状態だった。
 
 医師が何人も付いて必死に蘇生の手立てを施していたが効果が見られない。
周りには婦人たちが数人息を殺して泣いている。
「せっかく来ていただいたのに、こうした状態で申し訳ない」
「王子。私に気功があります。国王を床に寝かせていただけますか?」
床に寝かされた国王にまたがった福賀が心臓に向かって気を注ぎ込んだ。
次に頭部にも気を注いでいった。
その動作を何度も何度も繰り返し続ける。
国王の身体がぴくっと動く。
目を開き何事ごとかと周りを見回した。
「みんな、どうしたのか?貴方はどなたですか?」
王子が国王のかたわらによって状況を説明すると国王が大きく頷いた。

 つづく


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小説「イメージ」No;26

イメージ No:26

「後で女将さんと一緒に私の部屋に来てください」
福賀は海辺にそっと告げて自分の部屋に戻った。
PCを立ち上げてメールを開いて見る。
夫々のメールを見ていると女将に連れられて海辺が来たらしい。
PCを閉じて・・・どうぞと声を掛ける。
ドアを開けて女将に連れられた海辺が入って来た。
「私がお話しできる事は海辺さんに聞いていただき此方に参りました」
(此処が福賀専務の隠れ家?)
海辺はまた初めての専務を見る思いで部屋を見回した。
(あれ~温泉露天風呂もあるみたい。広いわ。二間あるようだわ)
「そういう事だから今日は貴女には突然の事ばかりで疲れたでしょう」
「はい。こんなに沢山ビックリしたのは生まれて初めてです」
「ハハハ、此れからはこんな事が色々起きるので驚きながら楽しんでください」
「さっき女将さんに云われました。もう大丈夫だと思います。専務がどんな
冒険をなさるか楽しませていただきます」
「ありがとう。色々面倒をかけますがよろしく」
「貴女には相部屋ではなく部屋を取ってもらっています。明日は朝早く港に
行きますから、今夜はゆっくり休んでください。お疲れさま。おやすみなさい」
「お話は?」
「今日は特にありません。専務付き秘書の海辺さんに私の秘密基地が此処に
あると知っておいてもらいたかったのです。伊東に行くと云ったら此処です」
「解りました。有難うございます。おやすみなさい」
やっと海辺にとって激動の1日が終わってほっとして女将と部屋を出た。

「皆さん、おはようございます。これから漁港に行きます」
福賀が漁業組合の組合長とコネがあってお土産が用意されている。
「海辺さんは私の秘書だから未だ仕事があります。皆さんまた会いましょう」
 福寿司の伊東温泉一泊温泉は新鮮な刺激が一杯詰まっていて良かったかな。

「まさか海辺さんが貸し切り大浴場の希望者に混ざっていたとは思わなかった
から女将さんに聞いて確かめました。でも、参加者に入っていて良かったです」
「そうですか、それなら私も良かったです。実は一瞬迷いました。でも、専務が
何故女性たちと入るのか知らなくてはと・・・思い切って決めました」
「背中にあったモノは訳ありで、私のお守りなんです。見せるモノでは無いので
すが福寿司の人たちは質が良いので信用して私の秘密を持ちあっています。男女
平等にしたいので女風呂を貸し切りにして此処では私とのコニュニケーションの
材料に背中の龍を使っています。そう云う事です」
「そう云う事でしたか。全く別の世界の専務を感じてしまいました。だから
此れも専務なんだと思うのが容易ではありませんでした」
「そうでしょう。あんな事は余りありませんからね」
「またいつか専務のお話を聞かせていただけるのでしょうか?」
「そうですね。海辺さんの秘書としての仕事には私を知る必要がありますからね」

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 山を登り別のホテルのレストランで昼食をとって海に向かって下って行く。
目の前に相模湾の海が迫って来る。
白い砂浜が広がる海岸の近くの駐車場に車を止めた。
黒いバディの中の落ち着いた真紅のシートからおりる福賀と海辺。
「夕日が沈むまで波打ち際を歩きましょう」
福賀は海辺を誘って歩き出した。
夕焼けが映えて光る海面を見ながら並んで砂浜に腰を下ろし足を投げ出した。
なんてロマンティックなスティエーションだろう。
福賀は独り言のように語りかけて来た。
「貴女は私付きの秘書だから他の秘書の人に当然それなりの見方をされます。
それなりとは私側の人間だとして孤立してしまう。当然ですが。でも其れでは
私に関係した情報は海辺秘書には伝わらない。彼らには夫々の思惑があるから
です。解るでしょう。難しいですが、私の事を何も知らない私は専務に指示さ
れた事を誠実に勤めているだけですと他の秘書たちに思わせてほしいのです」
ロマンティックではありませんでしたね。
「とても難しいと思いますが、努力します」
「秘書課の中で好かれるまではいかなくても嫌われない秘書でいてほしのです」
好かれなくても嫌われない人間関係づくり、これが福賀の基本的な考え方だ。
この事を福賀は専務付き秘書の海辺に伝えたかったのだ。
海面をオレンジ色に染めていた夕日は水平線に沈みかけていた。
海風は優しく二人の頬を撫ぜている。

「そろそろ帰りましょう」
黒いポルシェが走り出す。
海辺の身体がうっと後ろへ引かれた。
それ以後は走っているのか止まっているのか解らない感じで進んでいく。
また、福賀は独り言のように語り始めた。
「風を描こうと思うとどんな風を描こうかとイメージする。自分が今まで経験した
風の感触をイメージする。経験の中の風からどの風を描こうかと風の入った引き出
しを開けて探してみる」
なんで風を描こうとおもうんですか?風が吹いたからですか?
「風の中にも色々な風がある。柔らかい風があれば硬い風もあるし辛い風があれば
甘い風もしょっぱい風もある。そのイメージを形に置き換えると直線だったり曲線
だったりそれもいろいろ。眠くなった?」
「いえ。はい」
「ちょっと休みましょう」
高速を走っていたのでサービスエリアに車を入れた。

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つづく

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小説「イメージ」No;25

イメージ No:25

 私が望んで温泉に連れて来てもらったのだから乗ってみようと海辺は決めた。
「お入りください。福寿司さま以外のお客はおりません。掛け湯をして湯船に
お入りになったら福賀専務さんに入っていただいます。皆さん覚悟は出来てい
ますでしょうか。気をしっかり持って福賀専務さんと男女機会均等の試みと経験を
なさってくださいませ」
女将はすまして言い放った。
「え~~~覚悟って?」
「それはビックリして気を失わない為の準備です」
「女将さん余り圧力を掛けないでください。どうしたら良いか解りません」
「裸の付き合いは男の世界だけでしたが今日から変わりますよ」
女将は楽しそうに微笑んで従業員に一言二言ことばを掛けて女湯から出て行った。

「私の秘書も居るの?」
「いらっしゃいます」
まさか入って居るとは福賀は思っていなかった。
「そうか」
乗るだけ乗る覚悟をして来たんだなと頷いて大浴場の女風呂に入って行った。
露天大浴場の形は円形をしている。
女性たち10人は手前の淵に添って福賀に背中を向けて並んで居る。
「失礼して入ります。ちょって洗い場で掛け湯をしてから其方に向かいます」
自分の動きが相手に伝わるように福賀は声を出して語りかけた。
「それでは皆さんの右端へ回って入りますから私が湯船に入るまでちょっとだけ
目を閉じていてください。良いですね。違反をした人は即退場ですよ」
福賀専務も照れてるのかなと海辺は思っていた。そんな事はない。女性たちの
緊張を少しでも和らげたいと思う福賀の優しい心配りだ。
女性たちからは福賀に答える声も出せないで固まっている様子が感じられる。

「それでは入ります。未だですよ。良いですね。そのまま、そのまま質問に答えて
ください。龍が温泉で泳ぐの見た事ありますか?」
「ありません」
答えたのは海辺だ。
「見て見たいと思いますか?」
小さい声だが10人が一緒に声を合わせて答えた。
「見たいです」
何故か福賀と遊んでいるような気がして来た女性たち。
きっと福賀の冗談で、はりぼての龍でも持って来たんだろうと思っていた。
「それでは龍が温泉を泳ぎます。目を開いてしっかり見てください」
10人が一斉に目を開いて福賀を見た。
其処には張りぼてではなく背中に彫られた龍が睨んでいた。
「これが福賀専務?」
海辺は今までの専務から想像も出来ない専務を見て動揺していた。
柔らかくうねる湯に乗って背中の龍が泳ぎだした。
散らされた桜の花びらが微笑むように薄紅色に染まって美しい。

 何て事だろう福賀専務の背中に龍がいて温泉の中を本当に泳いでいる。
海辺の動揺は治らないで広がるばかりでドキドキしっぱなしだ。
「これで皆さんと自然な気持ちで裸の付き合いが出来ましたでしょうか?」
折り返しをゆっくり泳いで、入った淵から上がって出て行ってしまった。
勿論、10人が入り口の方に向きを変えて福賀の後ろ姿を見たのは当然の事。
それぞれが夫々の福賀をイメージした10分足らずのハプニングだった。
凄く短いような凄く長い時間のような其れは夢の中のような時間に思えた。
「ふ~ぅ」
「も~ぉ」
「あ~ぁ、こんなサプライズは生まれて初めて」
そうハプニングのサプライズでしたか。
「息が出来なかった~ぁ」
やっと息が出来て良かったですね。
「女将さんが云っていた覚悟って此れだったのね」
「初めてこの温泉旅行がどんなものか解って来た感じ」
「まだ何かあるのかしら」
「これ以上のものは無いでしょう」
「そうね。これ以上は耐えられません」
「ふぅ~ぅ」
「私、心ぞうが止まるかと思った」
「専務は私たちの心ぞうの強さ解ってたのね」
それはどうでしょうね。
「私も心ぞうパクパクだった。弱くなくて良かった」
両親に感謝ですね。
「私もよ」
10人が10人同じ覚悟の思いだったようだ。
月が高く上がっている。
その前を雲が通り過ぎて行った。

 大広間では男性たちが酒を呑みながら寛いでいた。
「お邪魔します」
「おぉどうぞどうぞ」
「どうでした、お風呂は?」
「とても良かったです」
「最高でした」
「そうでしょう。そうでしょう」
「あれだけでも来た甲斐があったって思うよ」
「なかなか出来ない経験でした」
「それはよかった」
「福賀専務は男女同等の提唱者でね」
「そうなんですか」
「だから遊び心で男女混浴を実践してるってわけ」
「なるほど、男女同等と云っても女性の方にも其れを受け入れない気持ちが
確かにあったりしてるかも」
「まあね、まだまだ此れからでしょうね」
少しづつ福賀専務の気持ちが解って来たように海辺は思った。

「有難うございます。福寿司さんに行っていて良かったです」
大将も嬉しくてたまらないって感じでお店にいる時とは全然違っている。
「いや~気持ちよく乗ってくれておいらも嬉しかったよ。乗りの良いって最高。
福賀専務がうちの店に来てさ、それも初めてだよ、大将これから皆んなで温泉
一泊旅行に行きませんかって云われた時はビックリしたね。一瞬え!って言葉に
詰まった。でも、専務の目を見たらマジなんだよ。でこりゃあ乗ってやんなきゃ
なるまいとぴーんと来ちゃった。行きましょう行きましょうって乗っちゃった」
「解ります。福寿司の大将だったらそうでしょうね」
「で、福賀専務が来たら、その時は温泉一泊旅行きってなったのさ」
「でも、無料って大変ですね」
「大変なんて全然ない。最初から全部専務持ちだから・・・ね」
「え~~~専務が持っているんですか?」
「私たちは専務に付き合ってるだけ。楽しませてもらってるだけ」
「何です。それって?」
「遊びですね。心のあ・そ・び」
大将の後を引き継いで、専務が嬉しそうに云って笑った。
「そうそう専務と我々の気持ちの遊びですよ」
そうなんだ、そういう事だったんだ。
海辺はやっと福寿司と専務の伊東温泉一泊旅行の経緯が解った。
「海辺さん。後で女将と私の部屋に来てください」
「はい」
え~~~私どんな顔して行ったら良いの?

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 つづく


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小説「イメージ」No;24

イメージ No:24

 福賀は青森の温泉ホテルにいた。
「今日、従業員の面接があるのですが、福賀さんの直感でお願い出来ませんか?」
どんな人かも説明なしで頼まれてしまった。
外国からの旅行客に備えてどうしても欲しいらしいが本人が決断出来ないらしい。
「色々本人から聞いて見ましょう」
女将が連れて来て自分は帰ってしまった。
「砂浜(スナハマ)すあし(スアシ)です。よろしくお願いいたします」
「福賀です。株式会社雪月花の専務をしています。このホテルでは貴女に来て
欲しいと女将から聞いていますが、貴女が決断をしてくれないそうですが」
「はい。私は出来たら此方で自分を活かしたいと思っています。でも、どうして
いいか解らないで困っています」
「英語は何処で覚えたのですか?」
「父が仕事でロンドンに住んで居て10歳から高校3年まで居て覚えました」
「そうですか。それは私にも無い貴重な経験と財産だと思いますが。なぜ?」
「それは、私の身体に或るモノがあって、消さないと此処に来れないから」
「消して消せるモノなら困ることはないですね。簡単に消せないのですね」
「そうです」
「解りました」
福賀は女将に此方から電話するまで部屋に来ないようにと告げた。
「多分、砂浜さんが困っているのは此れだと思います」
失礼と声を掛けて福賀は服を脱いで背中のものを出して見せた。
砂浜は息を飲んで目を見開き福賀の背中を見つめて頷いた。
「あるモノは消さなくていい。消すと汚れるだけです。此の事は私と女将さん
だけの胸にしまっておいて貴方を守る。それで良いですね」
「はい。有難うございます。初めて気持ちがスッキリしました」
女将を呼んで決められなかった理由を説明して砂浜さんの消したいものの事は
二人だけの秘密にする事で決着が着いた。
「福賀さんお世話になりました。私が欲しかった優秀なフタッフが出来ました
有難うございます」
福賀は女将のほっとした安堵の笑顔を見て東京に戻って行った。

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 福賀の秘書が付きあれやこれや色々と雑多な用事をこなしてくれている。
近いうちに一度伊東の山海ホテルに案内しようと決めているのだが。 
今夜は公園の入り口にある鳥料理屋で省庁にいる福賀のブレーンと会う事に
なっている。
同志と云える官僚の卵が各省庁に2・3人づつ居るのだ。
此れからの省庁の在り方、政府の在り方、現在の様子などを密かに話し合う
会合を時々している。
これは個人的な付き合いなので秘書の仕事圏外だが海辺秘書の伊東行きは
明日にしようと福賀は決めた。

 この機会につながったのは福賀がインテリアをデザインした馴染みの食事
処から帰る途中だった。
赤坂の裏通り、ビルの裏にある空き地に不穏な気配を感じた福賀が様子を伺う
と男4人の黒い影認められた。
3人と1人が静かにうごめいて居る。
声はしないが何かトラブルのようだ。
静かに近づいて行くと中の一人が光るものを持っている。
3人が1人の男に刃物を突きつけられているのが解った。
福賀はその光の横に立った。
「邪魔するな!」男は低い声で云った、と同時にその男は福賀放った気で
固まり動けなくなってしまった。
「事情は解りませんが後は私が引き受けますから・・・」
「有難うございます。お名刺をいただきたいです」
3人は夫々礼を云ってその場を離れて云った。

 あの時、そう赤坂の暗闇で脅されていた3人の1人から電話が掛かって来た。
「その折は危ないところ助けていただき有難うございました。お礼をしたいと
3人で思いながら遅くなり申し訳ございません。ご都合の良い日にお会いしたい
と思って居るのですが・・・」
「来月の前半にご都合の良い時に如何でしょうか?」
「解りました。その頃なた電話させていただきます」

それはそうとして私的な活動は別として専務になってから社内外の仕事が可なり
増えていて秘書が付いて色々さばいてくれている。
福賀は東京の会社以外に伊東の山海ホテルの中にある仕事場でも仕事をいている。
頻繁に出かける福賀は秘書から温泉に行って楽しんでいると思われているらしい。
一度伊東の仕事場を見せておこうと考えていた。

「取り敢えず残りの県を廻っておきましょう。その前に伊東にへ・・・」
「また温泉ですか?」
「海辺さんも行きたいですか?」
「行きたいです」
「じゃあ行きましょう」
「ほんとうに?」
「ほんとうです」
「取り敢えず今日の7時頃、銀座の福寿司に行っていてください。私は8時
にお店に行きますから、其れまでゆっくり好きにしていてください」
「はい。解りました」
うまく乗ってくれたと福賀は一安心だった。

 8時少し前に福賀がのれんを開けて入って来た。
すると店の中が急に動き出した。
女将が暖簾を取りに店を出ると店内では大将が皆んなに話はじめた。
「今日は此れから店の伊東温泉一泊旅行になるんでおしまい」
常連でこんな日に出会うのを楽しみにしていた客はしめしめとにんまりだ。
「一緒に行きたい人は自己責任で付いて来て良いよ。行けない人はまた来てね」
「え~専務、何でこうなるんですか?」
「海辺さん温泉に行きたいって云つたでしょう」
「いいましたけど~今日だとは思っていませんでした、何も用意してません」
「大丈夫。あっちに行けば何でもあるから」
「海辺さんもお家に電話しなくては・・・」
もう仕方がない福賀専務と二人っきりで温泉なんて其れは無理でした。
「もしもしお母さん、今お寿司屋さんに来ているの。これからお店の温泉旅行
に付いて行く事になったから・・・」
「何ですって。温泉にって?」
「福賀専務にお寿司ご馳走になったの」
「それが何で温泉なの?」
私が出ましょう。
「もしもし私、株式会社雪月花の福賀です。海辺さんには私付きの秘書で大変に
お世話になっております」
「これはこれは初めまして南の母でございます。突然でしたので失礼しました」
「こちらこそ突然で申し訳ありません。私が度々伊東に行くものですから温泉に
私も行きたいと言われまして、団体の方が良いと思ってこうなりました」
「それはそれはお気遣いいただき有難うございます。よろしくお願いいたします」

いつもの事で店も客も解っているから滑るように夫々の連携で用意は整って行く。
バスが来たようで、客から表に出て女将がしっかり戸締りを確認して出発だ。
バスの中でも皆んな元気で和気藹々でおしゃべりしたりカラオケで楽しんでいる。
流石に福賀専務に歌えとは言い難いようで海辺にご指名が入ったりしていた。

「お久し振りでございます。いつも山海ホテルをお利用くださいまして感謝です。
ささどうぞ大広間にお入りください。簡単ですがご膳を用意しています」
皆んな夫々適当に席について和んでいる。
東西観光バスの添乗員とドライバーも一緒だ。
海辺もその中に加わった。
みんなが落ち着いたところを見計らって女将が改めて挨拶に出て来た。
「本日は福寿司さま御一行の皆さん伊東温泉・山海ホテルにお越しいただき
誠に有難うございます。余り変わり映えいたしない料理で申し訳ありません。
福寿司さんに無いものを料理長が一生懸命に考えましたものです。どうぞ
お楽しみください」
「いや~、申し訳ないです。料理長さんに宜しくお伝えください」
大将が皆んなに変わって礼を云う。
「お酒も色々用意してあります。お風呂を上がってからゆっくりお楽しみを」
それから海辺には解らない事を女将が言い出した。
「30分ですが何時もの福寿司通例の大浴場露天風呂貸切にいたします」
「そうなんです。この通例が楽しみなんです。よろしくお願いいたします」
「畏まりました」
初めて参加した福寿司の常連客は何の事か解らないから怪訝な顔をいている。
「30分の大浴場貸切ってなんすか?」
「ま、この旅行は成り行きに任せて楽しむので乗ってみれば解ります」
「そうですか・・・」
「そうです」
 女性客のところに女将がやって来た。
「ご希望があれば女湯のほうも30分貸切で福賀専務さんと一緒になれます」
「え~本当ですか?」
「此方のご旅行では通例になっています。大袈裟でなく男女機会均等の試み」
「どうしよう?どうします?」
「私、入るわ」
「うちではTV番組のようにタオルを巻いてお入りになるのは無しですよ」
「私も参加します」
海辺も思わず云ってしまった。

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 つづく


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小説「イメージ」No;23

イメージ No:23

 それは自然と一緒にいる感覚、自然から離れないで同化し融合して
いることが自分であるのだから、そこに想像力が働き様々なイメージ
が湧いてくる。
 人それぞれ顔が違うように違いがある。
それは否定できない確かな事実だから認める以外ないのだ。
そう思う事が考え方や行う事の基本になっている。
違いを知る事と相手を知る事は絵を描く世界で学んだパートナー
としての材料を知る事であって非常に大事な事だから。
事だらけだけど・・・事・事左様に・・・
違いは個性、個性は尊重され認め合うもの、そして、出来れば楽しみ
合いたいもの。
しかし、辛い違いもあって其れには出来る事で役に立ちたい。

フランスの美術家団体と会食をしながらツアーコンダクターが云った。
「私、日本が好きです。沢山、深く日本に触れたいです」
「それで日本に。私はフランスが好きです、フランスの美術家たちと
貴方のお陰で会うことが出来て幸せでした」
「私は福賀さんに会えて幸せでした」
良い出会いは自然の中で生まれるようだ。
人間は自由であることが自然。
そんな人間の自然さが感じられるから福賀はフランスが好きなのだ。

 福賀は柔らかい関接照明の中にライトグレーのバスロープ姿で居た。
女将がフランス航空のツアーコンダクターを連れて入って来た。
「どうぞ」
福賀は開け放たれた窓側の椅子を指して云った。
夜の暗い闇の中に遠くで光る烏賊釣り漁船の明かりが眺められる。
「お部屋でと無理にお願いして申し訳ありません」
「日本語が達者ですね」
「恐れ入谷の鬼子母神」
「ははは、凄いですね。日本語で冗談も云えるんだ」
連れて来た女将もびっくりして笑っている。
「私、キキと云います」
「キキさん。昔モンマルトルに集まった画家達のアイドルだった
有名なモデルさんの名前がキキって云ったと思う」
「母もモデルをしていました。キキは憧れだったと聞いています」
「そうでしたか・・・それで?」
福賀の問いをそのままにしてキキが聞いて来た。
「福賀さんのお部屋に温泉露天風呂があるんですね」
「入りますか?」
「はい。入りたいです。福賀さんとご一緒で入りたいです」
キキは素直に福賀に答えた。
「私も久しぶりにご一緒してよろしいですか?」
と付き添って来た女将も入りたげに聞いて来た。
「どうぞ。3人で入れば怖くない」
福賀も負けじと応じたが滑ったようだ。
「おほほ何でしょう。鬼子母神に対抗されたのですか?」
「まあね」
「日本が好きです。女将さんと福賀さんと出会えて良かったです」

 人間は物理的な力で支配的な道を歩いてきたと思われる。
今でも其の権力的な道をひたひたと歩き続けているのではないか。
誰も抗せない自然破壊の上に立つ独断と偏見の独裁的な道とは違う
もう一つの道が在ると福賀は信じている。
そして、その道を歩こうと思っている。
直ぐ隣に其の道はあるようだから。

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「そう、日本を知りたかったら此処の女将さんと仲良くなると良いですよ」
「はい。仲良くしていただけるように頑張ります」
「フランスに私が行った時はよろしく」
福賀はそろそろフランスに行く時期が来たように感じていた。
「はい。任せてください。どんと来いです」
福賀の温泉露天風呂で一緒に入ったキキは初めての体験に緊張している。
ああ簡単に云ってしまったが大変なものを見てしまった。
福賀がキキに内緒だよって口に指を当てた。
女将は2度目だからキキほどの緊張感はないがやっぱり凄いと感じてた。
これが雪月花の専務さんなのかと会うたびに思うのだがそうなのだから
不思議。

次の朝6時に起きた福賀は基本トレーニングをしていた。
敏速に、より敏速に、動物よりも敏速に動けるように励んでいた。
何しろ合気道九段で少林拳は師範格で高位気功師の堅物ですから。
「皆さんおはようございます。では漁港に行きましょう」
漁港には何が福賀たちを待っているのだろう。

 つづく


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小説「イメージ」No;22

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 経営者会議の会長が福寿司の伊東温泉一泊旅行に行くことになって
福賀が大浴場を貸し切りにしてもらって待っていた。
「福賀くん一人かい」
「そうです。ちょっと訳ありで貸し切りにしてもらいました」
「なかなか出来ない事だ」
「はい。では温まったところでお背中を流させていただきます」
「そうかい。それは有難い。良い土産になるよ」
洗い場の鏡に映る福賀の肩をみて会長の顔が硬くなった。
「福賀くん、それは?」
「此の事はどうぞ内密にしておいてください」
「そうかい。そうだろうな。いや~びっくりした。後でよく見せてもらう」
「では、いきます。少し力が入りますから堪えてください」
福賀が洗うんだから並の流し方じゃない。
「あ~ぁさっぱりした。今までで一番気持ちよかったよ。有難う」
私は結構ですと断った。いいのか?と会長。
「流し合いなんてとんでもないです。会長と私では格が違い過ぎます」
脱衣室に上がって互いの身体を見やって思わず会長は自分の腹を抑えた。
「頼む、じっくり見せてほしい。う~ん凄い。う~ん五代目彫辰とあるね」
「そうなんです。彫辰は名人の称号だそうで」
「右肩に六代目へとあるが」
「私が六代目彫辰です」
「そうだったのか。後は私の部屋でじっくり聞かせてほしい」
「はい。そうしてください」

 あれは福賀が専務になって間もない頃だった。
なんとなく呼ばれているような気がして入る気になった店が
寿司屋だった。
その時は未だ店の名は寿司福だった。

 福賀が専務になって間もない頃だった。
なんとなく何処か良い所はないかと探してやって来たのは
伊東温泉の山海ホテルだった。

 その前だった寿司福に行って呼んだのが会社で活用していた
バス会社の東西観光バスだった。

 それが今は株式会社東西観光になり、寿司福は福寿司になった。
今から考えると極普通に思われる観光事業だがその頃は少ない
観光事業だった。

 何回か伊東温泉一泊旅行に行った時に同乗して来た東西観光バスの
社長が息も絶え絶えの状態でなんとか伊東温泉山海ホテルに着いた。

バス会社の若い添乗員が福賀に近づいて来た。
「添乗員の山谷です。あの~突然失礼して申し訳ないのですが~~」
「何か私に頼みたい事でもありますか?」
「私が今考えている事があるのですが、聞いていただけますか?」
「どんな事ですか?」
「今は依頼された所にバスを貸し出すだけなんですが、観光の仕事を
取り入れたらどうかと思っています」
「どんな観光を?」
「世界も対象としたグルメツアーです。素敵な風景を楽しみ美味しい
料理をいただく」
「ほ~面白いね。私に何か特別な用事があるらしく社長さんに呼ばれて
いるので、それが終わったらゆっくり聞かせてもらっていいですか?」
「はい」

「うちの会社はもうどうにもならない状態です。福賀さんのお力をお借り
出来ないでしょうか?」
それで青息吐息でバスに乗って来たのか。
「そうでしたか。今まで知らずに無理を聞いてもらって申し訳なかった。
私に任せてもらえますか?そしたら私がお預かりして何とかしますから」
「福賀さんが引き受けてくださるんですか?」
「そのために今日いらっしゃったのでしょう」
「はい。実はそうなんです」
「解りました。承知しました。何とかします」
「助かります。よろしくお願いいたします」
「でも、皆さんの同意がないと出来ませんが」
「それは大丈夫です」
「では、そう云う事で今日はゆっくり楽しんでください」
「や~申し訳ないです。有難うございます」
浮かなかった顔が浮き浮きした顔に変わった。

 添乗員の山谷がロビーで福賀を待っていた。
「社長さんと会って話を聞いたけど貴方の会社は大変な状態になって
いるらしいです」
「潰れる位?それで私の気持ちは聞いてもらえなかったのですね」
「いや、それでね。貴方の話はしていませんが私が社長を受け継いで
立て直す話になりました」
「え~!本当ですか?専務さんは雪月花の専務さんでうちの会社の社長に」
「そうです。私は内外共に活動は自由な約束になっているから大丈夫です」
「それは凄いです。それで専務の社長は私の企画どうされるるのでしょう?」
「やりますよ。思い切りやってください。良いですね」
余りにも思いがけない展開に山谷は声が出なくて涙が溢れた。

 あれは山海ホテルのロビーの壁面にタペストリーが飾られて一年位経った
夏だったと思う。
フランスの美術家団体のツアーをパリ航空のツアーとしてあの人が案内して
来た時だった。
美術家達がロビーのホールに飾ってあるタペストリーが福賀の作品と解った。
「あれは、フクガキヨシの作品ではありませんか?」
「私もそうじゃないかと思っていました」
ツアーコンダクターがホテルのカウンターに聞きに行った。
するとたまたまカウンターに来ていた女将が説明をしに来てくれた。
「あのタペストリーは福賀さんの作品をタペストリーとして織ったものです。
何かこのホテルのシンボル的な物をと国際フェスティバルでグランプリを
取られた作品をタペストリーとして西陣織で作ってくださったものです」
「なるほど。そうでしたか。素晴らしい作品に出会えて幸運でした」
「このタペストリーが在ると無いとでは全く違います」
「フクガは今何処に居ますか?出来たら是非会いたいのですが」
「それが具合良く今日こちらに来ていらっしゃいます」
「本当に?」
「会いたいね」
「会えるように頼んでもらえないだろうか?」
「解りました。伺ってみます」
美術家同士だから福賀が断るわけがない。
「福賀さんも皆さんにお会いしたいそうです」
彼らとの会食はフランスと日本の美術の話で盛り上がった。
この出会いが福賀のフランスでの美術活動を広げて行く。

 コンダクターが女将に何か頼みごとをしているようだ。
「私、福賀さんと直接お会いしたいのですが・・・」
「ロビーで?それとも福賀さんのお部屋で?」
「お部屋で」
「・・・・・・・」
「私、福賀さんに今までに無い強い興味を感じたのです」
「そう。私もそうだったの」
「女将さんも?」
「ええ、そうです。解りました。伺ってみましょう」

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 つづく




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