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小説「イメージ2」No:30


イメージ No:30

 人間が考える事は其れほど違いはない。
旅行業務を申請してから認可が下りるまで活動し始めると追うようにして数社が
動き出した。
福賀には全国のホテルと旅館を回って得たつながりがある。
海外も良い所があるが国内だって未だ未だ隠れた良い所が沢山ある。
会社としては世界グルメツアーを中心に置くが其れは山谷に任せる考えだ。
社内には社長として顔を出さないで或る程度の期間は社内の色々な部署を観たい
と福賀は思った。

「臨時採用の研究生で鬼田と云います。よろしくお願いします」
福賀は先ず重要な部署として車両部の様子を見たかった。
「おにた?おにだ?どっちにしても鬼って感じじゃないな。運転免許は持ってい
るのか?」
「はい。一応持ってます」
「どんな免許だ?」
「はい。大型二種免許(正式には大型自動車第二種免許)を持っています」
「運転した事あるのか?」
「はい。少しあります」
「そうか。じゃぁ~やってみるか。お得意さんの社員旅行があるから伊東まで
運転してもらおう」
「え!私一人で?」
「まさか、私も付いて行く」
おいおい此の係長はちょっとらんぼうだな。
「じゃあ、行こうか」
「はい」

 先ずはお得意さんの会社にお迎えに。
「まあまあだな、大事に行きなよ。安全第一だから、解ってるね」
「はい。解っています」
お客を乗せて伊東にGO..。
これからが本番。サービスエリアで休憩に入る手前に来ると車内がざわついた。
「なんか変じゃない?」
「いつもと違った感じがするぜ」
「そうね」
「止まっているのか動いているのか全然解らない」
「そう云えばそうね」
「なんなんだこれって?」
「初めてだよ。こんな感じ」
「すげ~運転だぜ、これって」
滑るように駐車場に来ると一発でスペースに入れてしまった。
「まるで車じゃなくて雲に乗ってるみたいでした」
口々に乗車感の気持ち良さを福賀に伝えながら降りていった。

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トイレ休憩を済まして着いた宿は山海ホテルに近いホテル潮風だった。
「いらっしゃいませ。お疲れ様でした」
女将さんと従業員が出迎える。
まだ、福賀は知られていないから都合が良かった。
「運転手さんは此方へ。添乗員の方は此方へどうぞ。

 案内された部屋に入る。
「オニダって云ったな」
「はい。オニタです」
「なかなかやるじゃないか」
「いえいえ、大した事ないです」
「いや~大した事ある。皆さんが驚いていたように私も驚いた」
 (意外と素直だな~)
「良い腕してる。うちの部に来ないか?」
「有難うございます」
「風呂でも入るか?」
「ああ実は私、風邪気味でして・・・」
「そうか。それではいけないな。じゃあ、私は一風呂浴びてくるな」
「はい」
 車が風呂から帰ってくる。
車と福賀と添乗員は食堂で食事をとった。
「オニダは風邪気味じゃあ早く寝た方がいい。私は少し飲んでから部屋に帰る」
「では失礼します」
(危ない危ないでも意外と優しいところもあるんだ)
「オニダ風邪大丈夫か無理するなよ」
車の気遣いに大丈夫だと答えて次の日も福賀は運転して帰った。

「有難う。素晴らしい運転でした」
「夢のような乗り心地でした」
「また、東西観光さんの車で旅したいです」
「私もまた乗せてほしいです」
福賀の運転に賞賛と満足の気持ちが伝えられた。
「有難うございます。また是非よろしくお願いいたします。お疲れ様でした。
気をつけてお帰りください」
車も福賀の前で深々と頭を下げた。

無事にお得意様の社員旅行について行って帰って来た。
「お疲れさん。良い運転だった。お客さんがあんなに喜んでくれたの初めてだよ。
あんた只者じゃないな」

「車係長。有難うございました」
「あぁまた明日」
「はい。よろしくお願いします。今日はこれで失礼してよろしいでしょうか?
明日は総務部に行くように云われていますので」

「そうか。解った。お疲れさん」
人事課から車係長に呼び出しの電話が掛かって来たのはそれから間も無くだった。
「車係長。貴方は明日から車両部の部長です。少し前に社長か来て決めていかれ
ました。社長に運転させて伊東まで行って来たそうですね。社長が笑ってました。
面白い人だって・・・辞令を受け取りに来てください」
(え~あいつ社長だったの?)

 車は大きな身体を小さくして恐縮している。
「車さんが私のことを知らない方が車さんを知り易いと思ったので失礼しました」
「恐れ入ります。色々教えていただき反省しています。社長が”お客様に優しい心で
運転を”は身にしみました。有難うございます。私が部長で良いんですか?」
「勿論です。感じていただけて嬉しいです。それは車さんに優しさを感じる心があるからです。その心をうちの運転にしてください」
「解りました。社長のような運転はなかなか出来ませんが、あの感動を忘れずに皆んなに伝えたいと思います。車両の整備あっての運転ですからスクラム組んで行きたいと思います」
「確かに仰る通りです。車さんを信頼しています。よろしくお願いします」

車係長の家では・・・
「あなたお風呂入れますよ」
奥さんが呼びかける。
「・・・・・・・」
当人は聞こえないのか聞いていないのか反応がない。
「何かへん、さっきからニヤニヤしてるだけで黙り込んいる」
娘さんが可笑しいと思って母親に云っている。
「どうしたんですか?何か会社であったんですか?」
奥さんがそばに来て問いかける。
「うん。あった」
「どんなこと?」
「大変な事」
「え!大変な事って?」
「明日から部長だって云われて辞令も出た」
「お父さん明日から部長さん?」
「そうだ明日から車両部の部長でよ」
「お母さん。お父さん係長だったでしょう」
「それが明日から部長さんなんだって」
「なんで~?その前に課長があるでしょう」
「何でだか解んないけど、部長にされちゃった」
「誰れに?」
「云われたのは総務部人事課の課長だけどしてくれたのは新しく来た社長だ」
「新しい社長さん何処からいらっしゃったの?」
「株式会社雪月花の専務だけど前の社長が頼んで来てもらったらしい」
「よその会社の専務さんが他社の社長になるって出来るの?」
「私も聞いた事ないけど。あの人には出来るんだね」
「私知ってる。4・5年前かな。お正月の新聞広告に出てたの思い出した」
「そうか。それで其れってどんなことだった?」
「大学出て部長で入社だったと思う」
「何だって!あの人は大学出て部長で入社したんだって今は専務だ」
「それだから会社と他の会社に関わって良いって約束あったのよ。きっと」
「そうか。道理であの人は只者じゃないと思ったんだよ」
「何か云われた?」
「色々云われた。
「どんな事?」
「私は威張る人って良いと思いません。人の悪口を云う人は信用できません。
常に謙虚でいたいと思っています。それから、仕事はそれぞれ大事だと思って
います。整備と運行は一体ですから車さんの優しさで宜しくお願いしますって」
「そうね。その通りだわ」
「お父さん、威張ってたの?」
「ちょっと威張ってたかな?」
「ハハハ、やっぱりね」
「社長は全然威張った感じないもんな」
「そうなんだ~ぁ」
「それから凄いのは社長の運転だな~思い出してもワクワクする」
「お父さん社長さんが運転する車に乗ったの?」
「そうなんだ。研修生だってやった来て、大型二種免許持っていて運転経験ある
って云うからやらせたんだ。お得意の社員旅行にな。そうしたらその運転がだよ
お客さんに喜ばれちゃう凄い運転でビックリしちゃった」
「凄い運転って?」
「動いてるか動いてないか乗ってるか乗ってないか解らなかったって運転なんだ」
「へ~ぇそんな運転ってあるの?」
「あるんだね。交差点で停止発進が乗ってる者に全く解らないんだよ」
「そんなの神業じゃない?」
「お客さん驚いたでしょう?」
「そりゃあもう大変驚いたね。お客さんが私より先に気がついてざわつきだした」
「そうでしょうね」
「私は研修生の安全確認にばかり気を取られていたから気がつかなかった」
「そうなのね。もしもの事があったら大変ですものね」
「いつ止まったか、いつ動き出したか全然解らなかったって不思議?」
「私とは立場が違う事もあってお客さんは乗り心地だから感じたんだよ」
「そんなの気持ち良くって夢見てるみたいじゃない?」
「お客さんもそう云って驚かれたり感謝されたり、もう大変だったよ」
「私も乗ってみたい」
「そうだよ。誰だってそんな運転で車に乗せてほしいよねって社長が云った。
そしてこんな運転をうちの運転にしたいって」
「それでお父さんを部長に・・・」
「そうなんだけど・・・」
「大変ね。でも、おめでとう」
「有難うって訳でよろしく」
車家に温かい春が来ましたね。

 つづく

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