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小説「イメージ2」No:51

小説 イメージ No:51

 自然を破壊しても構わず突き進む愚か者。
自然は呆れ怒っている。

 人間は自然から生まれた生き物だから自然が大事と考えているのが福賀だ。

 縄文の神は愛の神。
しいて云えば福賀にとって神は生き物を生み出した自然。
自分たちは生き物としての人間、自然を敬い大事にする人間。

 自然は破壊してはならない。
活かす事が賢いあり方だと信じている。

 以前、何処かで地球上の人口を減らすために戦争をしていると聞いた事が
あって、なんて恐ろしい発想だろうと思った事がある。

 人口が多過ぎて自然破壊へ進むなら半分づつの冬眠はどうか?
福賀はこのイメージを科学者に伝えて研究プロジェクトを立ち上げていた。

 その研究の状況を今日聞けるかもしれないと楽しみにしてる。
今まで気になって聞いてみた事はあったが、進めていますと云われていた。

 福寿司の次男坊の料理がいくつものテーブルに並んだ。
「さ~ぁ皆さんお好きなものをどうぞ」
客が一斉に料理に向かった。
聞かれると丁寧に次男坊が説明している。

「んめぇ~」
日本から選ばれて冬眠研究チームに入った秋田の亜北が叫んだ。
福賀はそのチームの中に居た。
「で、進み方は?」
「可なり進みました」
「どの程度?」
「難病もモノによっては治癒します」
「冬眠で?」
「そうです」
「と云う事は?」
「既に冬眠は可能です」
「それは凄い。やったね。素晴らしい。次の段階は?」
「実現への準備では・・・」
福賀のパリのアトリエで行われたパーティは盛況のうちに無事終わった。 

「ちょっと出掛けて来ます」
福賀は周りの人にそう告げた。
顔には揉み上げから顎に掛けて密集した髭が生えている。
「年に一度顔を見せてくれと云われているので」
行き先はアラブ圏の王国に間違いない。

 健康上の不安で政界を引退した岩上前総理がテレビのインタービューを
受けている。
「今、福賀前副総理が次期総選挙に立候補するような感じですが?」
「知っていますよ」
「最近お会いになりましたか?」
「いや、あれ以来会っていないです」
「前総理がイメージされた”よりよい環境づくり”を引き継がれるような」
「いや、実はね”よりよい環境づっくり”は私の考えでもあるけれど彼の考え
でもあるのです」

「え!前総理だけのお考えではなかったのですか?」
「そうです。私の内閣のネーミングは彼がつけました」
「初めて伺いました」
「だから。私が緊急入院しても施政方針演説を彼が原稿無しで出来たのです」
「なるほど。あの原稿無し2時間前代未聞の演説の謎が解けました」
「私と同じ考えを持っていて感覚的に優れていて世界にも通じていたし、英語
もフランス語も堪能だったり情報は得ていましたから彼に手伝いを頼んだら副
総理でならと言われて党に了承させて彼に副総理で手伝いを頼みました」

「自分党で前総理の手伝いをした福賀さんが自分党を離れた事は?」
「それは、自分党で出来る事に限界を感じたからだと思う」
「どんな限界ですか?」
「それは此れからの福賀君の動きを見ていれば解る事でしょう。いや、今迄の
彼の仕事を確認したらイメージ出来るのでは・・・」

 空港に福賀が降り立ったのは未だ明るい時間だった。
迎えの車に乗り込み王宮に向かった。
向かい側に座って居るのは福賀より年下の王子たち。
「兄さん。メールでいろいろ有難う」
「いや~、大したこと出来なくてごめん」
「父も早く会いたくて昨日からソワソワしています」
福賀はここでは家族として迎えられて居る。

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「おお~息子よ。来てくれるのをどれほど待ったことか。よく来てくれた」
「お元気でなによりです。お父さん」
そうだ。
そう云えば福賀は両親を3歳で亡くした孤児だった。

 久しぶりの再会に国王と福賀は気持ちいっぱいのハグをした。
「君のアドバイスで思い切った環境づくりを進めている」
「そうですか。それは楽しみです」
「そうなんだ。私もワクワクしているし、息子たちも張り切ってやっている。
まさか明日帰るなんて事はないだろうな」
「明日って事はないです。三日ほど居させてください」
「三日だと。それは明日と変わりない。短すぎる」
国王の顔に寂しさが刻まれるのが解って心が痛い。
歓迎の晩さんは福賀には一年ぶりのご馳走だった。
それぞれ会えたことを喜び合って話を楽しみ時間を過ごして王宮の中の自分の
部屋に福賀は下がった。

 三人姉妹が部屋にやった来る。
「お兄様。お帰りなさい。
「君たちも帰っていたんだ」
「そうです」
彼女たちの声がハモって美しい。
三姉妹は三つ子だから凄く気が合って通じ合えるようだ。
吹き抜けになった天井の窓から月の光りが福賀の身体に降って来る。

「私が此処に帰るの解っていた訳じゃないよね?」
「解っていました」
「どうして解ったの?」
「何となく」
「三人とも?」
「そう三人とも」
「何か私に・・・?」
三人は顔を見合わせて一緒に云った。
「お兄様とお風呂に入りたいから」
「此処で?」
「いいえ。パリのお兄様のアトリエのお風呂で」

「お兄様。ここからパリに行かれるのでしょう?」
三人は三様に感がよく働く。
「私たちも一緒にパリに行きます。いいでしょう?」
三人の中で一番の姉になるイナが聞いて来る。
「パリで待っている人がいます」
「私を?」
「そうです」
「君たちと関係のある人?」
「そうです」
「誰かな?」
三人はお互いに顔を見合わせミステリアスに微笑んだ。

 福賀は一日延ばして四日目の夜の便でパリに戻った。
勿論三つ子の三姉妹も一緒だ。

「誰も待って居ないじゃないか?」
「今に来ます」
三姉妹はまたミステリアスに微笑み合う。
「イナ、ウナ、エナは幾つになったの?」
「22歳になりました」
「そう。大学を出たら何をしますか?」
「イナは父の元で手伝いをします」
「ウナはパリに残って文化的な分野で活動したいと思っています」
「エナは東洋の国に関心があるので出来たら日本に行って仕事をしたいと思っ
ています」

 福賀のアトリエには20人は入れる温泉露天風呂が付いている。
王女たちの希望で初めて福賀は一緒に入ることにした。
以前に王宮に行った時は国王が倒れて福賀が気功で一命を救った事があったが
その時は王女たちは居なかった。

 この王女たちの力でアラブも変わって行くのだろうと福賀は思いながら彼女
たちが並んで入っている湯船の中に入って行った。
湯面が揺れて三人の王女も揺れている。
揺らしたのは福賀。
三人の前を泳いでいる。
ローマ彫刻のような洗練されて筋肉質の身体とその背中に彫られた花びら散る
中を登って行く龍に彼女たちは息をのみ目を見開きながら眺め固まっている。

「何で私とお風呂に入りたかったの?」
「何でだか解らないけど何故かそう思いました」
「そうです」
「そうです」
「一緒に入って解りました。このエキサイティングなお兄様を知りたかったの
だと思います」
「そうです」
「そうです」
日本の刺青の話をして彫られた経緯を説明してどんな事でも命の尊さを彼女た
ちに話して聞かせた。
「お兄様。ハグしていいですか?」

 つづく

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