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小説「いめーじ2」No:15

No:15

イメージ No:15

「皆さん 本当に申し訳ない」
月下社長は深々と全取締役に頭を下げた。
「先日の話は無くなりました」
「あの記事のフクガキヨシが我が社に来る話」
「じゃないですよね」
「いや、其の話です。本当に申し訳ない」
「え~社長それはないですよ」
「どうしたんですか?」
「実は昨日だった。家に電話があって23社のオファーを断るには
独立して自分の事務所を持つ事にしなければ先輩に申し訳ないので」
「え~~あ~~~」
「申し訳ない。彼が独立したらメインのクライアント契約をしたいと」
「クライアントですか~あ」
「まあ、そうですね。考えてみたら縁もゆかりも無い我が社と先輩の顔を潰して」
「やっぱり無理でしたか。非常に、残念です」
「いや~社長は真っ先に彼と会って我が社に来てくれるように働いてくれた」
「仕方ないです。社長は良くやってくれました」
「申し訳ない。本当に申し訳ない」
「メインのクライアント素晴らしい」
もうこうなるとヤケになってしまわなければ引っ込みがつかなくなった。

 福賀はオファーをいただいた23社に先輩を訪ね自分の事務所を持つ事に
決めたと報告に回り終えた。
気がついたら既に10月国立アート大学の芸術祭がやって来た。
「ようこそ・・・」
ナミカが友達をつれてやって来た。
「一通り中を案内しましょう」
自分たちの大学とは余りにも違い過ぎて見るところ見るところ驚きの連続。
「わ~凄く大きな石膏像ばかり」
「ここは石膏室だから」
「こんなに大きな石膏像は初めてみました」
次に行きましょう。
「このは油絵科の教室です」
「みんな大きいですね」
「そうです。50号から100号が多いですね」
「ここは日本画科の教室です」
「ここも大きいですね」
彫刻科や建築科など色々な科を廻ってデザイン科へ。
「先輩、山下教授が用事があるそうです」
福賀は後輩たちにナミカ達の案内を頼んで出て行った。
「じゃあ僕たちがご案内します」
「福賀先輩は超忙しい人なんです」
「また来てくださるのかしら?」
「来るかもしれないし来ないかもしれません」
「そんな~~~」
「冗談です冗談。福賀先輩は必ず来ますよ」
ナミカ達は福賀の後輩達に案内されてデザイン科の部屋を見て廻った。
先ずは一年生の部屋、そして・・・
「ここが僕達二年生の部屋です」
自分たちの作品を其々教えながら案内する。
「新しい感覚で素晴らしいですね」
「色が素敵・・・」
「形も面白いわ」
「それぞれの感性と云うかセンスと云うか違いがはっきり伝わって来て・・・」
「本当に初めてデザイナーの感覚って違うんだな~ってびっくり」
「僕達はまだまだのまだまだですから・・・」
「謙虚なんですね」
「いえ、本当にそうなんです」
「さぁ此れから先輩達の作品を見に行きましょう」
「いよいよねナミカ」
「ナミカ大丈夫?」
「大丈夫」
「ナミカさんは・・・そうなんだ」
「で、ナミカさん以外の皆さんは?」
「私たちはフリーです」
「そうなんだ。じゃあ~よろしくで良いですか?」
「まぁ~良いかな」
「そうね。いいかも」
「みなさん大学でしょう?」
「ええ大学です」
「文化祭いつですか?」
「11月に入って直ぐにあります」
「伺っても良いですか?」
「福賀さんと一緒にいらっしゃったら」
「一緒じゃなくちゃダメですか?福賀先輩忙しい人だから・・・」
「そのようですが、みなさんご一緒に来てください」
「良かった良かった。良かったな」
「こちらです。福賀先輩の作品です」
「ナミカどう?」
「聞かないで・・・」
「感動しちゃったみたい」
「僕達だって。なあ」
「うん。そうだよな」
「そうでしょう。そうだと思う」
「来て良かったです」
「私たちの大学と違いが凄くあって驚きました」
「来ていただき有難うございます」
「あちらに喫茶コーナーが出来ていますからどうぞ」
「疲れたでしょう」
「はい、おどろき疲れしました」
「ちょと休んで行かれると良いです」
「福賀先輩も来ると思いますから」
ナミカ達は案内されて喫茶コーナーへ行った。

 月下は悪役になって役員達の熱をさました。
事は慎重に、そして密に行わなければ成らない。
福賀を取る事は容易では無い彼の承諾を得ても油断は出来ない。
確かに何事もなく4月に我が社に来てもらわなければならない。
この幸運を逃しては成らないのだ。
社内極秘案件だと役員達に云ってしまったけれどもしも誰かが誰かに
このラッキーな話をしてしまったら、また誰かが我が社の株を買ったりしたら。
それはインサイダーになって罪人を出してしまうし、他のインサイダーを生む
かも知れないだろう。
 月下はどんなに役員から非難されても良い自分以外に福賀獲得の条件を満たす
手伝いをさせてはならない。
福賀に言われた社名変更・社名のロゴ(これは福賀がデザイン)化粧品部門増設の
手続きなど内密に準備しなければならない。
 月下は福賀の新聞記事を見た時に直感で此れはスカウトだと思った。
そしてどんな条件でもいくら費用が掛かっても良い我が社で取りたいと決めていた。
社長として此れほどやりがいのある仕事があるだろうか鬼になってもやり遂げる。
役員達には申し訳ないが此れも我が社が進化する為に必要なんだ。
許してほしい、

 一方で福賀は芸術祭が終わった時点で極秘に事務所の準備に掛かっていた。
同期の友人にスタッヅとして一緒にどうか打診して既に数人の同意を得ている。
福賀は表には立たない。
クリスマスも忘れたように過ぎて正月が近づいて来た。
月下の会社もそれぞれが一年の労を労いつつ仕事納めの挨拶を交わしていた。
あの件で希望を失った役員達も今日は納会で集まっている。
「皆さん聞いてください。今日はまた改めて極秘事項を発表しなければなりません」
「又ですか。今度はどんな極秘事項なんですか?」
「元旦に我が社の社名変更と化粧品部増設そして我が社に入社する福賀貴義の紹介記事を
2ページ見開きで載せた新聞広告が出るのでそれまでは極秘にして絶対に他に漏れること
の内容に改めてお願いします」
「え〜〜〜本当ですか?」
「また、実はなんて事はないですよね」
「申し訳ない」
「え?また謝った。社長なんで謝るんですか?」
「彼は来年の4月に来ます。それまでは来ません」
「あ〜〜〜何を云ってるんですか。そんなの当たり前でしょう」
「それから彼の条件通り化粧品部・部長で来ます。宣伝部の部長兼務です」
「解っていますよ」
「万一インサイダーなんて無いとは思っても有ったら全て無くなるだけでは済まず。
会社の此れまでの信用を失ってしまう。そうしたら100年以上続けてきた先逹に
申し訳が立たない。そればっかり考えてしまって怖かった。頼みます。あと数日です」
「解ります。我々も社長が思っている事は同じように思っています」
「そうですよ。勿論ですよ。身内を含め誰にも話しません」
「有難う、有難う、有難うございます」
「社長大変でしたね」
「よくやってくれました」
「辛かったでしょう」
「我々こそ有難うございます」
「これで来年への素晴らしい夢を見る事が出来ます」
「こんな事って本当に事始めですね」
もう訳が分からなくなってしまった感じがする。
みんな気持ちが悪いほで笑顔になってしまっている。
さ〜来るぞ福賀がくるぞ〜〜〜。

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つづく


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