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小説「イメージ」No;22

イメージ No:22

 経営者会議の会長が福寿司の伊東温泉一泊旅行に行くことになって
福賀が大浴場を貸し切りにしてもらって待っていた。
「福賀くん一人かい」
「そうです。ちょっと訳ありで貸し切りにしてもらいました」
「なかなか出来ない事だ」
「はい。では温まったところでお背中を流させていただきます」
「そうかい。それは有難い。良い土産になるよ」
洗い場の鏡に映る福賀の肩をみて会長の顔が硬くなった。
「福賀くん、それは?」
「此の事はどうぞ内密にしておいてください」
「そうかい。そうだろうな。いや~びっくりした。後でよく見せてもらう」
「では、いきます。少し力が入りますから堪えてください」
福賀が洗うんだから並の流し方じゃない。
「あ~ぁさっぱりした。今までで一番気持ちよかったよ。有難う」
私は結構ですと断った。いいのか?と会長。
「流し合いなんてとんでもないです。会長と私では格が違い過ぎます」
脱衣室に上がって互いの身体を見やって思わず会長は自分の腹を抑えた。
「頼む、じっくり見せてほしい。う~ん凄い。う~ん五代目彫辰とあるね」
「そうなんです。彫辰は名人の称号だそうで」
「右肩に六代目へとあるが」
「私が六代目彫辰です」
「そうだったのか。後は私の部屋でじっくり聞かせてほしい」
「はい。そうしてください」

 あれは福賀が専務になって間もない頃だった。
なんとなく呼ばれているような気がして入る気になった店が
寿司屋だった。
その時は未だ店の名は寿司福だった。

 福賀が専務になって間もない頃だった。
なんとなく何処か良い所はないかと探してやって来たのは
伊東温泉の山海ホテルだった。

 その前だった寿司福に行って呼んだのが会社で活用していた
バス会社の東西観光バスだった。

 それが今は株式会社東西観光になり、寿司福は福寿司になった。
今から考えると極普通に思われる観光事業だがその頃は少ない
観光事業だった。

 何回か伊東温泉一泊旅行に行った時に同乗して来た東西観光バスの
社長が息も絶え絶えの状態でなんとか伊東温泉山海ホテルに着いた。

バス会社の若い添乗員が福賀に近づいて来た。
「添乗員の山谷です。あの~突然失礼して申し訳ないのですが~~」
「何か私に頼みたい事でもありますか?」
「私が今考えている事があるのですが、聞いていただけますか?」
「どんな事ですか?」
「今は依頼された所にバスを貸し出すだけなんですが、観光の仕事を
取り入れたらどうかと思っています」
「どんな観光を?」
「世界も対象としたグルメツアーです。素敵な風景を楽しみ美味しい
料理をいただく」
「ほ~面白いね。私に何か特別な用事があるらしく社長さんに呼ばれて
いるので、それが終わったらゆっくり聞かせてもらっていいですか?」
「はい」

「うちの会社はもうどうにもならない状態です。福賀さんのお力をお借り
出来ないでしょうか?」
それで青息吐息でバスに乗って来たのか。
「そうでしたか。今まで知らずに無理を聞いてもらって申し訳なかった。
私に任せてもらえますか?そしたら私がお預かりして何とかしますから」
「福賀さんが引き受けてくださるんですか?」
「そのために今日いらっしゃったのでしょう」
「はい。実はそうなんです」
「解りました。承知しました。何とかします」
「助かります。よろしくお願いいたします」
「でも、皆さんの同意がないと出来ませんが」
「それは大丈夫です」
「では、そう云う事で今日はゆっくり楽しんでください」
「や~申し訳ないです。有難うございます」
浮かなかった顔が浮き浮きした顔に変わった。

 添乗員の山谷がロビーで福賀を待っていた。
「社長さんと会って話を聞いたけど貴方の会社は大変な状態になって
いるらしいです」
「潰れる位?それで私の気持ちは聞いてもらえなかったのですね」
「いや、それでね。貴方の話はしていませんが私が社長を受け継いで
立て直す話になりました」
「え~!本当ですか?専務さんは雪月花の専務さんでうちの会社の社長に」
「そうです。私は内外共に活動は自由な約束になっているから大丈夫です」
「それは凄いです。それで専務の社長は私の企画どうされるるのでしょう?」
「やりますよ。思い切りやってください。良いですね」
余りにも思いがけない展開に山谷は声が出なくて涙が溢れた。

 あれは山海ホテルのロビーの壁面にタペストリーが飾られて一年位経った
夏だったと思う。
フランスの美術家団体のツアーをパリ航空のツアーとしてあの人が案内して
来た時だった。
美術家達がロビーのホールに飾ってあるタペストリーが福賀の作品と解った。
「あれは、フクガキヨシの作品ではありませんか?」
「私もそうじゃないかと思っていました」
ツアーコンダクターがホテルのカウンターに聞きに行った。
するとたまたまカウンターに来ていた女将が説明をしに来てくれた。
「あのタペストリーは福賀さんの作品をタペストリーとして織ったものです。
何かこのホテルのシンボル的な物をと国際フェスティバルでグランプリを
取られた作品をタペストリーとして西陣織で作ってくださったものです」
「なるほど。そうでしたか。素晴らしい作品に出会えて幸運でした」
「このタペストリーが在ると無いとでは全く違います」
「フクガは今何処に居ますか?出来たら是非会いたいのですが」
「それが具合良く今日こちらに来ていらっしゃいます」
「本当に?」
「会いたいね」
「会えるように頼んでもらえないだろうか?」
「解りました。伺ってみます」
美術家同士だから福賀が断るわけがない。
「福賀さんも皆さんにお会いしたいそうです」
彼らとの会食はフランスと日本の美術の話で盛り上がった。
この出会いが福賀のフランスでの美術活動を広げて行く。

 コンダクターが女将に何か頼みごとをしているようだ。
「私、福賀さんと直接お会いしたいのですが・・・」
「ロビーで?それとも福賀さんのお部屋で?」
「お部屋で」
「・・・・・・・」
「私、福賀さんに今までに無い強い興味を感じたのです」
「そう。私もそうだったの」
「女将さんも?」
「ええ、そうです。解りました。伺ってみましょう」

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 つづく




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