SSブログ

小説「イメージ2」No:19


イメージ
No:19
 
 福賀は販売部のスタッフと全国の販売店を廻り続けている。
主として温泉がある地点を重点的にそして温泉に入りながら。
温泉と海、温泉と山も良い、しかし福賀には海は欠かせない。
海で私(雲)と話す。
それが福賀の「気」になっているから大事にしている。
浜辺に出て充分に「気」を身体に蓄えて山にも行く。
朝6時に起きて合気道と少林拳と気功の基本をトレーニングする。
福賀にはクリスマスも正月もない。
2月に全国の販売店を廻り終えて福賀は東京に帰って来た。

 会社では福賀のための取締役会が開かれていた。
「福賀部長、社長が取締役会に来てほしいとおっしゃっています」
と秘書室から電話が入った。
「失礼します」
「おぉご苦労様、どうでした?全国を廻った感じは?」
「良い温泉がいっぱい在りました」
「ハハハ それは良かったですね」
「うちの製品を置いていただくようにお願いして来ました」
「福賀さんの事は良く知られていたでしょう」
「まあまあ有難いことに業界として知られていて良かったです」
「何しろ業界として初めてのスカウトですから・・・」

 全国を廻ってきた福賀の感想を役員夫々から質問があって社長から
「実は先般の株主総会で株主の皆さんからと私たち役員からも福賀さんに
役員として経営に参加を求められています」
 福賀としても化粧品部門だけでは活動に限界を感じ始めていた。
「有難うございます。しかし、そのお話は生活用品部の先田部長が先では?」
「それは考えています」
「では、その後で考えさせていただきます」
「解りました。では皆さん、それでよろしいですか?」
福賀は一旦役員室を出て自分の部屋に戻った。
「福賀部長また社長がお呼びです」
30分もしないで再度の呼び出しに秘書も何か楽しげだ。
「先田部長は生活用品部担当の常務取締役として経営に参加していただく事に
決まりました。そして今度は貴方の番だが如何かな?」
福賀の意向を聞き入れての要望だから承知するだろうと構えている。
「有難うございます。でもまだ部長としてしたいことがありますし、あと2年。
待っていただきたいです」
福賀の申し出に部屋の空気が凍りついたように静まり返った。
社長の月下はテーブルの上に手を置いて役員達の様子をじっと伺っている。
そこに居る誰もが予想もしていなかった福賀の申し出に強い衝撃を受けた。
それはそうでしょう。
常務取締役を要望されてそれを蹴るなんて誰もが思ってもいなかったのだから。
株主に言われたから社長は承知してしまったが福賀に断られてしまった。
だが時間が色々と役員達を考えさせてくれた。
自分たちは何をして来たのだろうか?会社の繁栄と継続をひたすら願って来た。
だからこそ今がある、しかし、維持するだけでは発展はない。
この一年を見ると福賀が入って来てから著しい発展があると認めざるを得ない。
だから株主たちも経営側の役員も社長も福賀を役員押して当然だと思った。
「どうでしょう。皆さん、私はけして早いとは思いません。がしかし本人が未だ
待って欲しいといっている。次回の株主総会では私が彼の気持ちを説明します」
30余の会社から是非欲しいと熱望されていながら我が社に来てくれた福賀だ。
彼が入って来てからの活性化は目を見張るものがあるのは誰もが認めている。
だが本人が役員に押されて断るのもまた前代未聞ではないか。

そして3年が過ぎて4年目の株主総会がやって来た。
「新しい役員の紹介をさせていただきます」
株主席がざわついた。
「ご承認を是非お願いいたします」
待たせるな、早く云ってほしといらいらしている様子が伺える。
「福賀化粧品部門担当部長が専務取締役として経営に参加する事になりました」
ぎゃ~って感じに聞こえる程の叫び声が株主席から上がった。
それは本当に待ちに待った発表だったに違いない。
それも常務じゃなくて専務ですか。
「皆さん如何でしょうか?」
「異議無し」「異議無し」「賛成です」の大合唱になった。
社長が隣に座っている福賀をつつくと、やおら立ち上がった本日の主役。
「初めまして福賀です」
あんなに盛り上がっていた会場がしーんと静まり返った。
若いぞ、そして可なりのイケメンだぞ。
「これから専務取締役として経営に参加させていただく事になりました」
「よ!福賀専務、待ってました」
の掛け声に会場がどっと湧いて、満面の笑顔が福賀の専務就任を祝っている。
「皆様のご期待に添えるように努力して参ります。どうぞ宜しくお願い・・・」
皆まで云わせてもらえない・
「解ってます。よろしくお願いいたします」
又どっと拍手の嵐と笑顔だ。
「お願いいたします」
福賀は云い切った。

 福賀は海と温泉が大好き人間なのだ。
どこか良いところはないだろうかと常々考えている。
イメージとしては東京からそう遠くなくて比較的温暖な地域が良いかと。
そうだ伊豆の伊東あたりに行ってみようかと思い立った。
専務になって間もない頃だった。
「伊東温泉・山海ホテルか海岸から少し登った山の中腹だから海を見渡せる」
福賀は何かを直感して入って行った。
「いらっしゃいませ」
「良い所ですね」
「有難うございます」
「一泊したいのですが・・・」
「ご予約は?どちら様で」
「それが・・・してないんです。ぶらっと伊東に呼ばれたように此処に来て、
此処が良い所だと感じて入って来てしまったのです」
「ご予約ではない?」
「はい。予約なしではダメですか?」
「いえ、ダメって訳でも・・・」
そこに女将が来て・・・どうしたの?と聞いている。
「いらっしゃいませ。失礼しました。わたくし此処の女将でございます。
よろしくお願いいたします」
「良い感じのホテルだと感じて、予約なしで来てしまいました」
女将はちらっと福賀を見上げて聞いて来た。
「どのようなお部屋がご希望でしょうか?」
「いや、予約なしですから泊まれたら良いので・・・」
「承知しました。ではご案内しますので、どうぞ此方へ」
今日のところは泊まれるだけで良いと福賀は思ってついて行く。
フロントも女将の感じも悪くないが何かが足りないと福賀は思った。
「なかなか感じの良いホテルですね」
「有難うございます。でも~何かが不足している様に毎日案じているのですが
それが何か思い当たらないでいます」
女将も福賀に何かを感じたのか自分の気持ちを明かして来た。
「初めて来て云って良いものなのかどうかですが?」
多少の遠慮を覗かせて女将の様子を伺った。
「お客様のセンスを私が申し上げるのは失礼ですが、とても洗練されてる
と感じていましたので何か教えていただけるかと思って話しました」
 やっぱり感じた通りこの女将は鋭い直感力の持ち主のようだ。
後々この女将の直感が山海ホテルと福賀を強く結びつける事になる。
「何か欲しいですね。此処にしか無い物が、それと綺麗でない訳でないトイレ
ですが、もっと心地よい感じにすると良いのではないかと思いました」
女将は我が意を得た感じがしたのだろう晴れ間に陽が出たように微笑んだ。
「あ~ぁ、それだったのですね。それがず~~っと気になっていた事でした」
やっと探していたものが見つかった様に強く頷いている。
「仰る通りです。山海ホテルを象徴する様なシンボリックなものがありません。
それからトイレ。これからはトイレですね。シンボルとトイレでしたか」
「その事で私に出来る事が一つあります。任せてもらえますか?」
福賀には直感的に思いついたものがあった。
自分の出来立てほやほやの名刺を出して女将に渡した。
「やはり、そうでしたか」
これが福賀と山海ホテルの女将の運命の出会いになった。
福賀のイメージはどう働くのだろう。
そして山海ホテルのシンボルになるものは何か?

 イメージ18.jpg

 つづく


nice!(39)  コメント(10) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。