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小説「イメージ2」No:17

イメージ No:17

 新年の仕事始めに部課長会が開かれた。
元旦の新聞広告で既に公表されている福賀の入社で新しい展開があると
予告され、新しい部門に新しい編成が必要になるので社内全体の協力体制が
求められた。
室内の空気に緊張感が張り詰めた。
今年は今までにない大変な事が動き出す。
大卒で部長。
年功序列感覚が変わった。
それは今迄にどの企業にも無かった人材のスカウトでの獲得からだ。
取り敢えず現在の中から新しい部門のスタッフを選出しなければならない。
化粧品開発部門・化粧品宣伝部スタッフ・化粧品販売スタッフ。
其々の部課長にスタッフ選出の課題が与えられた。
福賀の化粧品開発プロジェクト・トータルマネージャ以下課長の選出だ。
福賀のイメージを月下は聞いている。
化粧品開発と製造と宣伝と販売の課長を女性から選出してほしいと。
此れが新年最初の部課長会の最重要課題だった。
社長からの助言として無理を押してでも素質を尊重して選出してほしい。

 密かに月下と福賀の間で人選が進められていたのは言うまでもない。
色々な資料を含め人心を把握出来る資質を選考基準に置いていた。
最終的には福賀も同席して直接本人の意思確認を行った。
隠れた人材って居るもので流石老舗らしく品格のある女性が並んでいた。

 こうして研究所・工場・宣伝デザイン・容器デザイン・営業の課長が決まった。
そして4月1日に前期の株式会社雪月花の仕事が始まった。
福賀が化粧品宣伝部室に入りスタッフと一緒になり初めてのミーティングが其々の
仕事場にオンラインで行われた。
 色々な基本的な事の確認が行われた。
其々の部門において不特定多数の人たちとのコミュニケーション、この中には様々な
違いを持ち合って居る事。
視覚に障害を持って居る人への対応。
解り易いこと、親しみ易いこと、好かれるまでは行かなくても嫌われないこと。
そうしたコミュニケーション、そして大胆で繊細な表現や心遣い。
常に冒険的で新しさが感じられ品位を高く求めること。
心の込もった取り組みと対応。
そして他の真似をせず全てオリジナルである事。
これらの基本的な事が開発・製造・デザイン・販売の各部門で確認しあった。
製品は化粧水・乳液・クリームから始め次にメークアップ製品へと繋いで行く。
各課長からティーフディレクター、ディレクターが決められてスタートした。

 総合ミーティングの中で次の事が福賀から告げられた。
目の不自由な人も居たり手の不自由な人もいる容器は出来る限りの配慮が行われその上で美的であること。
そして雪月花としての品格を持たせることに心を注いでほしい。
デザインは様々な制約に基づいて行われるもの。
制約が多ければ多いほどデザインの価値ありと受け止めてほしい。
そうした性格からデザインは全く自由なタブロー(絵画)に対して不自由芸術と言われています。
容器のデザインは安全で使い易くシンプルで装飾性のあるもの。
イメージのヒントとしてアール・デコを新しくした感じ。
また、雰囲気のイメージとしてはボッティチェリのヴィーナスの誕生。
容器には単的な点字を付けて既製の容器ではなく全て雪月花オリジナルにする。
容器とデザインは全て意匠登録をする。
点字の説明書を別に作成する。
姿勢としては当たり前のことを当たり前の事として行っていく。
売るだけではなく使用後の容器を回収する。
回収と容器のアフタケアーを負担する。
今年の秋に新製品を発表・販売する。
最初のミーティングは以上のようなものだった。
福賀の示した内容のどれもが他社が手がけていないものばかりだった。
しかし、その内容は全て当たり前の事だった。
スタッフの間に緊張感が走った。
それは誰も今まで味わった事の無い新しい挑戦だったから。
動き出すと其々のスタッフは思っていた以上に優れていた。
8月の下旬に新しい製品が出来上がり発表された。
反響は予想を遥かに超える大きさだった。
そして9月1日に製品が発売された。

 スタッフとはスマホとPCで繋がっている。
「凄い勢いで売れています」
「間違いなく?」
「間違いありません」
「そうですか。有難う」
後期の株主総会に間に合った。
「福賀さん月下です。好調な滑り出しのようですね」
「はい、社長のお陰です」
「いや、私は福賀さんのイメージ通りにしただけです」
「その結果こうなりました」
「良かったです」
福賀が入社して初めての真価が問われる。
福賀のイメージ通りに行われて化粧品制作製造には膨大の費用が掛かった。
社長はそれを飲み込んで直球勝負してくれた。
そのお陰で結果良好だ。

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 つづく


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