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小説「イメージ2」No:20

イメージ No:20

 まず福賀が取り掛かったのは山海ホテルのシンボルだった。
イメージしたのは吹き抜けのロビーの壁に掛けるタペストリーだ。
国際アートフェスティバルでグランプリを取った作品を西陣織にする。
直ぐに手配して作ってもらった。
同時に部屋付き露天風呂の客室や館内・客室トイレの改造を進めた。
自然の音や香りが感じられる環境を大事にしてゆったりと寛げる心の休み場所。
それが全体のテーマだ。

 館内に入った時の気持ちが解放される明るい感動、部屋に入ってほっと
落ち着ける広がりと過ごし良さが形になった。
「福賀専務さん有難うございます。やっと胸のつかえが取れてスッキリです」
「此処が伊東のいや伊豆さらに全国のサンプルになる様に心掛けました」
「なんてお礼したら良いか解りません。何でも云ってください」
「そうですね。私に露天風呂付きの部屋をくれませんか?」
「それでは足りません」
「いや、それで充分です」
「私の部屋はホテルなみに扱ってください。掃除・洗濯・料理付きでですよ」
「はい、私が責任を持って管理させていただきます」
二人で納得しあって心から笑いあった。

 またまた株主総会がやって来た。
前期と後期だから可なり忙しい感じがしてきた福賀だった。
開催の日、午前中、受付から秘書室に電話が掛かって来た。
「総務部担当常務にお会いしたいとお客様がいらっしゃいました」
来たな、秘書課に緊張感が広がった。
担当常務は総会屋対策の責任者だ。
毎回胃の痛む思いをしている。
「常務私が会いに行きましょう」
「え!福賀専務が会ってくださるのですか?」
「はい、私が会います」
良いのかな~と役員室の面々を見回しているが皆は黙っているだけ。
「・・・・・・」
「私は今日調子が悪いんで・・・」
「・・・・・・・・」
「大丈夫、これも経験ですから」
福賀は緊張した様子もなく平然としている。
「ではよろしくお願いいます」
福賀は受付に電話をして客を応接間に案内する様に指示した。
「お茶はどうしますか?」
「直ぐお帰りになるので要りません」
「お待たせしました。担当の常務が所用で出かけておりますので専務が参ります」
応接間に入ると横に長めのテーブルが置かれている。
「専務の福賀です。御用は機関紙への広告のご依頼と思いますがお断りします」
と云って福賀は上着の内ポケットに手を入れて和紙を折り畳んだ書き物を取り出した。
それを総会屋の前に広げた。
「私、此処に記されている六代目彫辰です」
「貴方が此の者に手出し無用の事と此処に記されている六代目名人彫辰さんですか?
しかし、この書面だけでは確かとは解らない」
「そうですか。では証拠をお見せしましょう。ただし他言無用ですよ。見たことが
解ったとなれば”関わった”こと”になります。良いですね」
その書面を上着の内ポケットにしまい、上着を脱いでネクタイを取りワイシャツを
脱いでグレイのTシャツとパンツを脱いだ。
「此処に六代目へと彫られていますね。此処には五代目彫辰と入っている」
福賀は右肩と左下に入っている証拠を示した。
「解った、会わなことにしてくれ。2度と来ない。見たことは口外しない」
総会屋は福賀が身支度が済むのを待って出て行った。
「総会屋さんはもう来ません」
「本当ですか」
「本当です」
何故だか総務部担当の常務は聞くのも怖いらしく黙ったままだ。
そして此の件は誰も聞かないで雪月花のミステリーとして残された。

 全国経営者会議のパーティがあって月下社長に連れて来られた。
始めてだったから大人しく様子を伺っていた。
すると会長が社長の所に寄って来た。
「月下さん、その若いのは誰かな?」
「紹介します。うちの福賀専務です」
「若いね。幾つ?」
「はい、27ですはい、仕事の方は良くやってくれてます」
「何かこちこちの堅物な感じがするな~」
会長はあちらこちらで飲んで来たから少々酔っていらっしゃるようだ。
「はぁ~何しろ未だ27ですから」
「どうだ、今日、私に彼を貸してくれないか。少し柔らかくしてみたいから」
「はぁ、よろしくお願いいたします。会長にご指南していただけるんですか」
「そうだよ。この硬さは見ていられないから」
「有難うございます」
「そう云う訳だから失礼のないように会長にご指導いただきなさい」
え~~~そんな頼みもしないのに勝手に決めちゃう。何てことだ。
 それから一軒目は銀座のクラブ、会長だから見栄張っちゃって。
そこではまあまあ大人しく借りて来た猫になっていた。
しかし、この店は福賀を勝手に兄貴って呼ぶ或るところの幹部がマスターを
している店だった。
帰りがけにママと一緒に送りに出て来て危なく兄貴って云われそうだった。
ここでは口に指して止めた。
次の店に移った。
又また此の店は福賀がインテリアデザインをしたお洒落なレストランだった。
会長は福賀の行きつけの店とは知らず自分が常連の店としての案内だった。
「いらっしゃいませ・・・」
福賀は急いで又もや口に指で私は連れだからと合図した。
ウエートレスがグラスにレモンの入ったミメラルウオーターを注ぎに来た。
何か沈んだ感じが店に入った時したのは此の子だったか。
福賀にあるイメージが浮かんだ。
次の瞬間福賀はそのウエートレスの左手を取って手の甲に唇を・・・。
「あ!」
パッとその左手の甲を右の手のひらで抑えて胸に当てて厨房へ走って消えた。
店には何組もの客が壁際をうめていた。
雪月花の専務として福賀とは顔なじみ、此のくらいのハプニングには少しも
驚かないでホッとしたように微笑んでいる。
会長はそんな福賀を知らないから何て事をこの男はするんだってゴッツイ顔を
怒らせて睨んで来る。
店の支配人が会長の席にやって来た。
「只今はうちのウエイトレスが素晴らしい贈り物をいただき有難うございます」
柔らかくて暖かい拍手が静かに起こって店の雰囲気が春霞みのような明るさに
なった。
会長は渋い顔をしてだまったままだ。
ウエイターがオーダーを取りに来る。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
と会長に聞く。
「そうだね・・・福賀くんどうする?」
「おまかせでは?」
会長の好きにまかせてって事だったのに・・・。
「おまかせで」
ってなんか変でしょう。
「畏まりました」
「あの~次に行くところがあるので量は少なめにしてください」
また云っちゃった。
注文つける福賀も変でしょう。
会長は自分が思っていた感じと違っていたと少し気づいたらしい。
逆に何となく福賀に興味を持って来たようだ。
洒落た軽めの料理に気持ちもゆったりして会長の顔も和らいでいる。
「君が此の店を知っていたとはうかつだったな~ハハハ」
「私も会長が此処に連れて来てくださるとは思いもしませんでした」
「いや~好みが合って良かった」
会話も少しほどけて二人は三日月が登り始める外に出た。

「会長、今度は私がご案内したい店があるんですが、如何ですか?」
「いいね、君の行きつけの店に行ってみよう」
恐れを知らない会長になってしまった。
タクシーを止めて銀座7丁目へ・・・
福寿司の暖簾をくぐる。

「えらっしゃい」
その大将の声で女将が外に出て暖簾を取り込む。
2箇所に電話、それも「あれだから」「あれなので」で話が通る。
「今日は突然ですが恒例の伊東温泉一泊旅行になりました。お客様で
一緒に行きたい方は自己責任でどうぞ、決して誘いませんよ」
「え~~~何で今日なの~ついてないな」
いつも此の期を待ってたのに都合が付かない常連客が残念がる。
「はい、これに名前・住所・連絡先の電話番号を書いてください。無料
ですから、経費のことは心配いりません」
女将が用意した用紙を配るのを会長は唖然として生まれて初めて見る風景を
眺めている。
「会長、こう云うことなのでお宅に早く連絡してください」
福賀に急かされて会長も云われた通りに従っている。
会長さん大丈夫ですか?何か魔法に掛かったみたいですが・・・
会長も福賀に興味を持ち始めたようだし、さあ此れからどうなる会長さん。
そして福賀さん。

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つづく


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