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小説「イメージ」No:12

イメージNo:12

 翌日、雪月花石鹸株式会社の役員室では役員達がそれぞれ福賀の記事を見たらしく
「社長、日曜日の新聞記事見ましたか?」
「社長、宣伝部から電話がありました」
などと可なりの注目と関心が役員の間で渦巻いていた。
「其の事で緊急に取締役会を開きます」
月下は先ずはその場の異常な反応を沈めようと思った。
「実は昨日、私も皆さんが見た記事で此の人材は絶対に他社にに取られたくないと思って或る人を介して彼と接触をしました」
「お~~~流石に社長素早かったですね」
「それで彼と会えましたか?」
「会えました」
「それで?」
「彼は先輩を通して23社からオファーが来ていると云っていました」
「23社も?」
「そうです。23社以外でも此れからオファーして来る会社もあるでしょう」
「宣伝部に聞いたらやはり到底無理なのでオファーは控えていると云っていました」
「やっぱり」たの役員が溜息をつく。
「それは解ります。あれだけの人材は他に居ないでしょう」
「それでどうでした?社長?」
「彼の条件は全て受け入れるので我が社に来てくれないかと頼みました」
「それは当然です社長」
「そして彼が出した条件はどんなものですか?」
「その条件は此のプリントにあります」
月下は役員全員に用意して来たプリントを渡した。
しばらく沈黙の空間が広がった。
あ然とした表情でお互いを見合って声がでない。

「凄い!」
「本当に凄い!」
「前代未聞です」
「これほどの条件は今まで見たことも聞いたこともありません」
月下が盛んに頷いている。
「大袈裟ではなく現実的に彼を取るか取らないかは社運を掛けた極めて重要ん案件だと思いますが」
「確かに彼の稀な能力を持った存在は将来的にも大きな財産になると思います」
「彼が他社に行ったら我が社としては非常に大きなマイナスになるでしょう」
月下は云い切った。
「私は社長として課せられた責任として彼が示した条件を全て受け入れて彼に来てもらいます」
「で、彼は来てくれますか?」
「彼は我が社に来てくれます」
「お~~~やったぁ!やりましたね社長」
思わず感動の拍手が沸き起こった。
「と云うことでよろしいですね」
「勿論ですよ。我が社に今までに無い春が」
「社長、本当によくやってくれました」
月下が両手を上に開いて浮かれる役員たちを抑えた。
「これは特が付く社内外共に極秘案件です。漏らす事など決して無いようにお願いします」

No:13 

「ナミカさんのお父様の会社に入ってお世話になります」
福賀はナミカに電話で伝えた。
「そうですか。父は大変喜んでいます」
「でも、それは来年の事ですが僕個人としても内外ともに極秘になっています」
ナミカは固唾をのんで次の言葉を待った。
「其の事をナミカさんに伝えて置きたくて電話しました」
「有難うございます」
既に福賀の動向はマスメディアでは取材対象になっている。
毎日のように留守電に取材の問い合わせが記録される様になって来た。
「お会いするのが難しくなったのですね」
「そうです。それでケイタイを持つことにしました」
スマホは便利だが色々活動する福賀には煩わしかった。
しかし今度は極秘の状況下では必要になってくる。
「持たれたら電話かメールをしてほしいです」
「勿論、真っ先にしますよ」
福賀からナミカにその日のうちに電話が来た。

 福賀は次の日からオファーをしてくれた先輩に電話で断りを入れ始めた。
「先輩に有難いお誘いをいただきました。色々考えて生意気ですが独立してやってみようと決めました、よろしくお願いいたします」
「残念だけど其の方が良いと思う。私の手に負えない仕事があったら頼む」
23社の先輩たちは優しく福賀の決めた独立を尊重してくれた。

 福賀はナミカを誘って銀座でチキンライスを食べた後の話をしよう。

「ちょっと離れた所に落ち着いたお店があるからお茶しましょう」
次から次と福賀が決めていくのが爽やかな感じがして・・・
「はい」と答えてしまう。
「此処は先輩に連れて来てもらったお店です」
店内は白と黒の色調で統一されていた。
「お店の名前はイースト。先輩は良い人って云っていたけど」
と云って福賀は笑った。
良い人だなんてどう受け答えていいかナミカは困ってしまった。
話をかえようナミカはそう思った。
「あの~、今度の土曜日私の誕生日でパーティをします」
「どこで?」
「私の部屋で」
「そう」
「それで福賀さんに来ていただきたいと思っているのですが」
「いいですよ」
「本当ですか?」
「土曜日何時から?」
「夕方から」
「伺わせていただきます」
「海で一緒だった友達を呼んでいます。後は母です」
福賀は何か考えていた。
「其の前に僕のところに来ませんか?」
ナミカは黙って頷いた。

 福賀の部屋が見れるんだ。説明はいらない部屋が福賀を見せてくれる。
歩いていても電車に乗っていても未知への楽しみでナミカの気持ちは一杯だった。
「ここです。どうぞ・・・」
そこは福賀のアトリエだった。
部屋に入ると右側にトイレとバスルームそして並びにキッチンのシンクがある。
予想出来なかったのは其の奥、フローリングの床が広がっている。
ナミカの部屋にあるリビングより遥かに広い。
突き当りがガラス張りの引き戸になっていてこの高さ2メートルはある。
レースのカーテンと綿の明るいグレーのカーテンが掛けられていた。
左の壁に油絵の作品が三点飾られていて、右の壁にも作品が飾られていてこ其の前にデザイン用のデスクがあってディスクトップのパソコンが置かれていた。
入り口側の壁にも作品が飾られていて、其の前に大きめのソファーベット。
其の前に大きな画架が置かれていて描き掛けのキャンバスが掛かっていた。
まるで其処は魔法の国に来たかのようにナミカに感じさせた。
それは彼が描いた作品たちに囲まれた其の時から。
高校の美術室で嗅いだあの油絵の具の匂い。
「あぁ新鮮!」

この部屋の下は建築会社の作業場になっている。

 image-8.jpg

そこに生まれたままの姿で福賀が現れた。

 つづく


 




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