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小説「イメージ2」No:21

イメージ No:21

「こんな遊び会長はされないでしょう」
「されませんね」
「遊びも色々で色々楽しまれては」
「そうだな。そうしてみたいね」

  会長が雪月花の月下社長に電話して来た。
「今何処に居ると思う?」
「何処にいらっしゃるのですか?」
「伊東の温泉ホテル」
「え~何でそんなとこに?」
「福賀くんに連れてこられた」
「え~冗談でしょう」
「月下さんあいつフニャフニャの蒟蒻だったぜ」
「そんな筈は・・・」
「私の思惑を完全にぶち壊してくれた」
「それは大変申し訳ありません」
「いや文句を云ってるんじゃない。どっちかって云うと喜んでる」
「そうですか。よく解りませんが」
「私が感じた堅物ではなかった」
「はぁ?私には非常に堅い感じがしますが」
「どこが?何で?」
「彼は合気道と少林拳と気功で鍛えている武道家ですから」
「何?彼が武道家だって。でも其れは堅さ違いですよ」
「そうでしたか。違う意味の堅さでしたか。失礼しました」
「人間が堅い柔らかいって云ったら其方の方でしょう」
「其方の方でしたら充分柔らかいです。出が出ですから」
「出が出って彼は何処から出て来たのかね」
「ほら文化の日に芸術祭だと近くの公園で裸踊りをする国立アート大学出」
「え~あそこ出だったか。其れは迂闊だった。何で云ってくれなかった」
「申し訳ありません。ご存知かと思っていまして」
「知っておくべきだったな~ぁ私の勉強不足だった」
「いえ、そんな~。とんでもないです」
「まだ何かありそうだね」
「在ると思います」

 想像力はその機能を持ち合わせていれば働かせることが出来る。
福賀の場合はデザインと絵画の領域で使いながら養われて来た。
想像力はデザインや絵画の世界だけのものではない。
どの分野にいても想像力は意識をもって使おうと心掛ければ働くのだ。
何か目的をもって何かを形にしようとイメージする。
そのためにはどうしたら良いのか。
そこに想像という働きが作動する。
貴重な想像力は使い養い豊かにしていかなければならない。
事を考えて進めるに当たっては此れをしたらどうなるか?
その後の進め方で結果はどうなるか?
想像力は先・先と展開いて行く。
其処には良い結果を求めるイメージがなくてはならない。

「ははは、彼はデジタルで私はアナログだって認識を忘れて自分の
思い込みで何時もの調子でやってしまった」
「いや、此方こそ紹介の仕方がいけませでした」
「結果的には彼と付き合えて目からウロコで良かった」
「有難うがざいます。未だ未だ色々在ると思いますがご指導してください」
「解った。驚かせて悪かった。此方こそよろしく」
「では失礼います。お休みなさい」
 会長は未だ未だと云われた雪月花の社長の言葉が気になっていた。
 そう言えば彼は温泉露天風呂に入りましょうって云わなかった。
 先輩の背中を流すくらいの気持ちがあって良いと思っている。
「あの~経営者会議の会長さまでしょうか?」
ホテルの女将から会長の部屋に電話が掛かって来た。
「そうだが?」
「私はここの女将です。これから30分男の大浴場は貸し切りです。
どうぞお越しくださいませ。福賀専務さんがお待ちしてるそうです」
「そうか。それは有難い。5分ほどしたら2階へ降りて行きます」
そうか。そうでなければ福賀は只の変わり者で終わるところだ。
やっと思惑通りになって会長は喜んでいる。
2階の大浴場に降りて行くと女将が待っていた。
「どうぞお入りください。福賀専務さんも入っておられます」
入って行くと中は静かで話し声も聞こえて来ない。
「入りますよ」
一応断って会長は中に入る。
「どうぞ」
確かに福賀の声だ。
ガラス戸を開けて中に入ると福賀が湯船に浸かっていた。
どうも福賀だけらしい。

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 つづく

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小説「イメージ2」No:20

イメージ No:20

 まず福賀が取り掛かったのは山海ホテルのシンボルだった。
イメージしたのは吹き抜けのロビーの壁に掛けるタペストリーだ。
国際アートフェスティバルでグランプリを取った作品を西陣織にする。
直ぐに手配して作ってもらった。
同時に部屋付き露天風呂の客室や館内・客室トイレの改造を進めた。
自然の音や香りが感じられる環境を大事にしてゆったりと寛げる心の休み場所。
それが全体のテーマだ。

 館内に入った時の気持ちが解放される明るい感動、部屋に入ってほっと
落ち着ける広がりと過ごし良さが形になった。
「福賀専務さん有難うございます。やっと胸のつかえが取れてスッキリです」
「此処が伊東のいや伊豆さらに全国のサンプルになる様に心掛けました」
「なんてお礼したら良いか解りません。何でも云ってください」
「そうですね。私に露天風呂付きの部屋をくれませんか?」
「それでは足りません」
「いや、それで充分です」
「私の部屋はホテルなみに扱ってください。掃除・洗濯・料理付きでですよ」
「はい、私が責任を持って管理させていただきます」
二人で納得しあって心から笑いあった。

 またまた株主総会がやって来た。
前期と後期だから可なり忙しい感じがしてきた福賀だった。
開催の日、午前中、受付から秘書室に電話が掛かって来た。
「総務部担当常務にお会いしたいとお客様がいらっしゃいました」
来たな、秘書課に緊張感が広がった。
担当常務は総会屋対策の責任者だ。
毎回胃の痛む思いをしている。
「常務私が会いに行きましょう」
「え!福賀専務が会ってくださるのですか?」
「はい、私が会います」
良いのかな~と役員室の面々を見回しているが皆は黙っているだけ。
「・・・・・・」
「私は今日調子が悪いんで・・・」
「・・・・・・・・」
「大丈夫、これも経験ですから」
福賀は緊張した様子もなく平然としている。
「ではよろしくお願いいます」
福賀は受付に電話をして客を応接間に案内する様に指示した。
「お茶はどうしますか?」
「直ぐお帰りになるので要りません」
「お待たせしました。担当の常務が所用で出かけておりますので専務が参ります」
応接間に入ると横に長めのテーブルが置かれている。
「専務の福賀です。御用は機関紙への広告のご依頼と思いますがお断りします」
と云って福賀は上着の内ポケットに手を入れて和紙を折り畳んだ書き物を取り出した。
それを総会屋の前に広げた。
「私、此処に記されている六代目彫辰です」
「貴方が此の者に手出し無用の事と此処に記されている六代目名人彫辰さんですか?
しかし、この書面だけでは確かとは解らない」
「そうですか。では証拠をお見せしましょう。ただし他言無用ですよ。見たことが
解ったとなれば”関わった”こと”になります。良いですね」
その書面を上着の内ポケットにしまい、上着を脱いでネクタイを取りワイシャツを
脱いでグレイのTシャツとパンツを脱いだ。
「此処に六代目へと彫られていますね。此処には五代目彫辰と入っている」
福賀は右肩と左下に入っている証拠を示した。
「解った、会わなことにしてくれ。2度と来ない。見たことは口外しない」
総会屋は福賀が身支度が済むのを待って出て行った。
「総会屋さんはもう来ません」
「本当ですか」
「本当です」
何故だか総務部担当の常務は聞くのも怖いらしく黙ったままだ。
そして此の件は誰も聞かないで雪月花のミステリーとして残された。

 全国経営者会議のパーティがあって月下社長に連れて来られた。
始めてだったから大人しく様子を伺っていた。
すると会長が社長の所に寄って来た。
「月下さん、その若いのは誰かな?」
「紹介します。うちの福賀専務です」
「若いね。幾つ?」
「はい、27ですはい、仕事の方は良くやってくれてます」
「何かこちこちの堅物な感じがするな~」
会長はあちらこちらで飲んで来たから少々酔っていらっしゃるようだ。
「はぁ~何しろ未だ27ですから」
「どうだ、今日、私に彼を貸してくれないか。少し柔らかくしてみたいから」
「はぁ、よろしくお願いいたします。会長にご指南していただけるんですか」
「そうだよ。この硬さは見ていられないから」
「有難うございます」
「そう云う訳だから失礼のないように会長にご指導いただきなさい」
え~~~そんな頼みもしないのに勝手に決めちゃう。何てことだ。
 それから一軒目は銀座のクラブ、会長だから見栄張っちゃって。
そこではまあまあ大人しく借りて来た猫になっていた。
しかし、この店は福賀を勝手に兄貴って呼ぶ或るところの幹部がマスターを
している店だった。
帰りがけにママと一緒に送りに出て来て危なく兄貴って云われそうだった。
ここでは口に指して止めた。
次の店に移った。
又また此の店は福賀がインテリアデザインをしたお洒落なレストランだった。
会長は福賀の行きつけの店とは知らず自分が常連の店としての案内だった。
「いらっしゃいませ・・・」
福賀は急いで又もや口に指で私は連れだからと合図した。
ウエートレスがグラスにレモンの入ったミメラルウオーターを注ぎに来た。
何か沈んだ感じが店に入った時したのは此の子だったか。
福賀にあるイメージが浮かんだ。
次の瞬間福賀はそのウエートレスの左手を取って手の甲に唇を・・・。
「あ!」
パッとその左手の甲を右の手のひらで抑えて胸に当てて厨房へ走って消えた。
店には何組もの客が壁際をうめていた。
雪月花の専務として福賀とは顔なじみ、此のくらいのハプニングには少しも
驚かないでホッとしたように微笑んでいる。
会長はそんな福賀を知らないから何て事をこの男はするんだってゴッツイ顔を
怒らせて睨んで来る。
店の支配人が会長の席にやって来た。
「只今はうちのウエイトレスが素晴らしい贈り物をいただき有難うございます」
柔らかくて暖かい拍手が静かに起こって店の雰囲気が春霞みのような明るさに
なった。
会長は渋い顔をしてだまったままだ。
ウエイターがオーダーを取りに来る。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
と会長に聞く。
「そうだね・・・福賀くんどうする?」
「おまかせでは?」
会長の好きにまかせてって事だったのに・・・。
「おまかせで」
ってなんか変でしょう。
「畏まりました」
「あの~次に行くところがあるので量は少なめにしてください」
また云っちゃった。
注文つける福賀も変でしょう。
会長は自分が思っていた感じと違っていたと少し気づいたらしい。
逆に何となく福賀に興味を持って来たようだ。
洒落た軽めの料理に気持ちもゆったりして会長の顔も和らいでいる。
「君が此の店を知っていたとはうかつだったな~ハハハ」
「私も会長が此処に連れて来てくださるとは思いもしませんでした」
「いや~好みが合って良かった」
会話も少しほどけて二人は三日月が登り始める外に出た。

「会長、今度は私がご案内したい店があるんですが、如何ですか?」
「いいね、君の行きつけの店に行ってみよう」
恐れを知らない会長になってしまった。
タクシーを止めて銀座7丁目へ・・・
福寿司の暖簾をくぐる。

「えらっしゃい」
その大将の声で女将が外に出て暖簾を取り込む。
2箇所に電話、それも「あれだから」「あれなので」で話が通る。
「今日は突然ですが恒例の伊東温泉一泊旅行になりました。お客様で
一緒に行きたい方は自己責任でどうぞ、決して誘いませんよ」
「え~~~何で今日なの~ついてないな」
いつも此の期を待ってたのに都合が付かない常連客が残念がる。
「はい、これに名前・住所・連絡先の電話番号を書いてください。無料
ですから、経費のことは心配いりません」
女将が用意した用紙を配るのを会長は唖然として生まれて初めて見る風景を
眺めている。
「会長、こう云うことなのでお宅に早く連絡してください」
福賀に急かされて会長も云われた通りに従っている。
会長さん大丈夫ですか?何か魔法に掛かったみたいですが・・・
会長も福賀に興味を持ち始めたようだし、さあ此れからどうなる会長さん。
そして福賀さん。

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つづく


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小説「イメージ2」No:19


イメージ
No:19
 
 福賀は販売部のスタッフと全国の販売店を廻り続けている。
主として温泉がある地点を重点的にそして温泉に入りながら。
温泉と海、温泉と山も良い、しかし福賀には海は欠かせない。
海で私(雲)と話す。
それが福賀の「気」になっているから大事にしている。
浜辺に出て充分に「気」を身体に蓄えて山にも行く。
朝6時に起きて合気道と少林拳と気功の基本をトレーニングする。
福賀にはクリスマスも正月もない。
2月に全国の販売店を廻り終えて福賀は東京に帰って来た。

 会社では福賀のための取締役会が開かれていた。
「福賀部長、社長が取締役会に来てほしいとおっしゃっています」
と秘書室から電話が入った。
「失礼します」
「おぉご苦労様、どうでした?全国を廻った感じは?」
「良い温泉がいっぱい在りました」
「ハハハ それは良かったですね」
「うちの製品を置いていただくようにお願いして来ました」
「福賀さんの事は良く知られていたでしょう」
「まあまあ有難いことに業界として知られていて良かったです」
「何しろ業界として初めてのスカウトですから・・・」

 全国を廻ってきた福賀の感想を役員夫々から質問があって社長から
「実は先般の株主総会で株主の皆さんからと私たち役員からも福賀さんに
役員として経営に参加を求められています」
 福賀としても化粧品部門だけでは活動に限界を感じ始めていた。
「有難うございます。しかし、そのお話は生活用品部の先田部長が先では?」
「それは考えています」
「では、その後で考えさせていただきます」
「解りました。では皆さん、それでよろしいですか?」
福賀は一旦役員室を出て自分の部屋に戻った。
「福賀部長また社長がお呼びです」
30分もしないで再度の呼び出しに秘書も何か楽しげだ。
「先田部長は生活用品部担当の常務取締役として経営に参加していただく事に
決まりました。そして今度は貴方の番だが如何かな?」
福賀の意向を聞き入れての要望だから承知するだろうと構えている。
「有難うございます。でもまだ部長としてしたいことがありますし、あと2年。
待っていただきたいです」
福賀の申し出に部屋の空気が凍りついたように静まり返った。
社長の月下はテーブルの上に手を置いて役員達の様子をじっと伺っている。
そこに居る誰もが予想もしていなかった福賀の申し出に強い衝撃を受けた。
それはそうでしょう。
常務取締役を要望されてそれを蹴るなんて誰もが思ってもいなかったのだから。
株主に言われたから社長は承知してしまったが福賀に断られてしまった。
だが時間が色々と役員達を考えさせてくれた。
自分たちは何をして来たのだろうか?会社の繁栄と継続をひたすら願って来た。
だからこそ今がある、しかし、維持するだけでは発展はない。
この一年を見ると福賀が入って来てから著しい発展があると認めざるを得ない。
だから株主たちも経営側の役員も社長も福賀を役員押して当然だと思った。
「どうでしょう。皆さん、私はけして早いとは思いません。がしかし本人が未だ
待って欲しいといっている。次回の株主総会では私が彼の気持ちを説明します」
30余の会社から是非欲しいと熱望されていながら我が社に来てくれた福賀だ。
彼が入って来てからの活性化は目を見張るものがあるのは誰もが認めている。
だが本人が役員に押されて断るのもまた前代未聞ではないか。

そして3年が過ぎて4年目の株主総会がやって来た。
「新しい役員の紹介をさせていただきます」
株主席がざわついた。
「ご承認を是非お願いいたします」
待たせるな、早く云ってほしといらいらしている様子が伺える。
「福賀化粧品部門担当部長が専務取締役として経営に参加する事になりました」
ぎゃ~って感じに聞こえる程の叫び声が株主席から上がった。
それは本当に待ちに待った発表だったに違いない。
それも常務じゃなくて専務ですか。
「皆さん如何でしょうか?」
「異議無し」「異議無し」「賛成です」の大合唱になった。
社長が隣に座っている福賀をつつくと、やおら立ち上がった本日の主役。
「初めまして福賀です」
あんなに盛り上がっていた会場がしーんと静まり返った。
若いぞ、そして可なりのイケメンだぞ。
「これから専務取締役として経営に参加させていただく事になりました」
「よ!福賀専務、待ってました」
の掛け声に会場がどっと湧いて、満面の笑顔が福賀の専務就任を祝っている。
「皆様のご期待に添えるように努力して参ります。どうぞ宜しくお願い・・・」
皆まで云わせてもらえない・
「解ってます。よろしくお願いいたします」
又どっと拍手の嵐と笑顔だ。
「お願いいたします」
福賀は云い切った。

 福賀は海と温泉が大好き人間なのだ。
どこか良いところはないだろうかと常々考えている。
イメージとしては東京からそう遠くなくて比較的温暖な地域が良いかと。
そうだ伊豆の伊東あたりに行ってみようかと思い立った。
専務になって間もない頃だった。
「伊東温泉・山海ホテルか海岸から少し登った山の中腹だから海を見渡せる」
福賀は何かを直感して入って行った。
「いらっしゃいませ」
「良い所ですね」
「有難うございます」
「一泊したいのですが・・・」
「ご予約は?どちら様で」
「それが・・・してないんです。ぶらっと伊東に呼ばれたように此処に来て、
此処が良い所だと感じて入って来てしまったのです」
「ご予約ではない?」
「はい。予約なしではダメですか?」
「いえ、ダメって訳でも・・・」
そこに女将が来て・・・どうしたの?と聞いている。
「いらっしゃいませ。失礼しました。わたくし此処の女将でございます。
よろしくお願いいたします」
「良い感じのホテルだと感じて、予約なしで来てしまいました」
女将はちらっと福賀を見上げて聞いて来た。
「どのようなお部屋がご希望でしょうか?」
「いや、予約なしですから泊まれたら良いので・・・」
「承知しました。ではご案内しますので、どうぞ此方へ」
今日のところは泊まれるだけで良いと福賀は思ってついて行く。
フロントも女将の感じも悪くないが何かが足りないと福賀は思った。
「なかなか感じの良いホテルですね」
「有難うございます。でも~何かが不足している様に毎日案じているのですが
それが何か思い当たらないでいます」
女将も福賀に何かを感じたのか自分の気持ちを明かして来た。
「初めて来て云って良いものなのかどうかですが?」
多少の遠慮を覗かせて女将の様子を伺った。
「お客様のセンスを私が申し上げるのは失礼ですが、とても洗練されてる
と感じていましたので何か教えていただけるかと思って話しました」
 やっぱり感じた通りこの女将は鋭い直感力の持ち主のようだ。
後々この女将の直感が山海ホテルと福賀を強く結びつける事になる。
「何か欲しいですね。此処にしか無い物が、それと綺麗でない訳でないトイレ
ですが、もっと心地よい感じにすると良いのではないかと思いました」
女将は我が意を得た感じがしたのだろう晴れ間に陽が出たように微笑んだ。
「あ~ぁ、それだったのですね。それがず~~っと気になっていた事でした」
やっと探していたものが見つかった様に強く頷いている。
「仰る通りです。山海ホテルを象徴する様なシンボリックなものがありません。
それからトイレ。これからはトイレですね。シンボルとトイレでしたか」
「その事で私に出来る事が一つあります。任せてもらえますか?」
福賀には直感的に思いついたものがあった。
自分の出来立てほやほやの名刺を出して女将に渡した。
「やはり、そうでしたか」
これが福賀と山海ホテルの女将の運命の出会いになった。
福賀のイメージはどう働くのだろう。
そして山海ホテルのシンボルになるものは何か?

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 つづく


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小説「イメージ2」No:18

小説「イメージ2」

No:18

 化粧品部門のスタッフは次の製品制作に没頭していた。
最初の製品が想像以上の高い評価をもらえた事が 自身につながっている。
他方、福賀は販売部のスタッフと全国の販売店を廻っている。

 福賀が入社して初めての株主総会が10月に行われた。
総務部長が開会の宣言をしたあと株主総代が発言を求めて立ち上がった。
「月下社長に前回の総会で福賀氏獲得について決まっていながら我々に
その経緯と彼の存在の大きさについて説明がなかった。我々は知りたくて
社長に迫り責めましたが我慢されました。本当に申訳ありませんでした。
そして今回の著しい業績に至った彼の存在感を知っていたら他に知られない
資料を得ての株式操作に繋がったやもしれません」
そうですよ。
「これまでの経緯はもう既に説明されています。我々を欺いての前期だった。
それはインサイダーに触れて罪人を生まないためだった。解っています」
みんな黙って頷いて居る。
「ところで凄い勢いですね。新製品が好印象で受け入れられて好成績でしょう」
「彼の入社は何処の企業からも羨ましく思われていると聞きましたよ」
「そんな彼がなぜ株式会社雪月花に来たのか?知りたいです」
聞かれて月下はうちには化粧品部門が無かった事と彼が化粧品のデザインを望んでた
事を上げて答えた。
「そうでしたか。それで解りました。ラッキーでしたね社長お手柄です」
会場から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
「早くも事業実績が前期の2倍になってるじゃないですか」
「言う事無しですね」
「彼のイメージに掛けた経費は可なりのものがありますが、それを跳ね除けて売り
上げを伸ばしています。生産が間に合わないのは驚きです」
いつもは総会を掻き回す連中も今回は静かだ。
「閉会の動議を提出します」
「賛成」「賛成」「異議無し」の声が大勢を占めて気持ちよく後期総会は終わった。

 全体的なミーティング後、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などメディア対応が
進められ、広告予約と取材など、福賀は上から開発・制作・販売の全権を委任
され、よりよい環境づくりを進めている。
会社のバックアップは万全。
福賀のイメージは明確に描かれて居る。
そのイメージはストレートにスタッフに伝えられて行く。
後は福賀の考えとイメージを形にして行くだけ。
スタッフは夫々それなりに能力を持って入って来て居る。
その能力を良い感じで活かせばいい。
思い切って自由な気持ちでとスタッフに伝えている。
そして化粧品の中で福賀のイメージが株式会社雪月花のイメージとして作られて
行くのではないだろうか。

 容器・パッケージ・テレビCM・新聞広告・雑誌広告などをデザインした
ディレクターとデザイナーが年間の日本広告美術協会グランプリを獲得した。

 福賀が入って一年目の前期株主総会では膨大の経費が問題として問われた。
「しかし、大学卒直部長で入社って前例はありましたか?」
とんでもなく掛け離れた発言でかわす株主が居て又それに答える株主が居る。
「それは仰る通りです」
「思い切ったスカウトででしたな。彼には30社位のオファーがあったとか」
「確かに」
「でしょう。その彼のイメージにはそれ相応の費用が当初掛かるのは当然です」
此処に来て発言の辻褄が合って来た。
不満分子は静かで声も出ず静まり切っている。
「それにしても収益は昨年の後期を上回って伸びているのでしょう」
「次回に期待して今回は良しとしませんか?」
「はい。更に2倍の伸びが見込まれているようです」
「彼はしっかりと未来を見詰めて仕事をしていると思います」
会社側から月下社長が立ち上がって一礼をした。
「ご理解をいただき有難うございます。福賀も喜びます」
深々と頭を下げた。
「ところで如何なものでしょう。これは私個人の希望なのだが」
「何でしょう」
事務方は社長が頭を下げて締めに向かったと思ったのに未だ何かあるのか。
「そろそろ彼を向こうの席で見たい」
え~~~何を言い出すのかこの人は?
ところが会場の方から拍手が沸き起こったじゃないか。
「ほら、皆さんも福賀氏を役員席で見たい。そう思って居るじゃないですか」
また今度は「そうだ」「そうだ」の合唱になるし拍手になる。
「前例に縛られない社長如何ですか?次回お願いしますよ」
また立ち上がったぞ月下社長どう答えるんだろう。
「では、私共も考えていますし、次回、ご期待に添えるようにしたいと思います」
あ~ぁ云ってしまいましたよ。
「よし決まった。楽しみにしていますよ。では閉会の動議を提出します」
又また拍手で笑顔が会場に溢れた。
「閉会異議無し」「異議無し」席を立つ皆んなの勢いの良いこと。

さ~ぁいよいよ福賀氏が役員になる。

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つづく



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小説「イメージ2」No:17

イメージ No:17

 新年の仕事始めに部課長会が開かれた。
元旦の新聞広告で既に公表されている福賀の入社で新しい展開があると
予告され、新しい部門に新しい編成が必要になるので社内全体の協力体制が
求められた。
室内の空気に緊張感が張り詰めた。
今年は今までにない大変な事が動き出す。
大卒で部長。
年功序列感覚が変わった。
それは今迄にどの企業にも無かった人材のスカウトでの獲得からだ。
取り敢えず現在の中から新しい部門のスタッフを選出しなければならない。
化粧品開発部門・化粧品宣伝部スタッフ・化粧品販売スタッフ。
其々の部課長にスタッフ選出の課題が与えられた。
福賀の化粧品開発プロジェクト・トータルマネージャ以下課長の選出だ。
福賀のイメージを月下は聞いている。
化粧品開発と製造と宣伝と販売の課長を女性から選出してほしいと。
此れが新年最初の部課長会の最重要課題だった。
社長からの助言として無理を押してでも素質を尊重して選出してほしい。

 密かに月下と福賀の間で人選が進められていたのは言うまでもない。
色々な資料を含め人心を把握出来る資質を選考基準に置いていた。
最終的には福賀も同席して直接本人の意思確認を行った。
隠れた人材って居るもので流石老舗らしく品格のある女性が並んでいた。

 こうして研究所・工場・宣伝デザイン・容器デザイン・営業の課長が決まった。
そして4月1日に前期の株式会社雪月花の仕事が始まった。
福賀が化粧品宣伝部室に入りスタッフと一緒になり初めてのミーティングが其々の
仕事場にオンラインで行われた。
 色々な基本的な事の確認が行われた。
其々の部門において不特定多数の人たちとのコミュニケーション、この中には様々な
違いを持ち合って居る事。
視覚に障害を持って居る人への対応。
解り易いこと、親しみ易いこと、好かれるまでは行かなくても嫌われないこと。
そうしたコミュニケーション、そして大胆で繊細な表現や心遣い。
常に冒険的で新しさが感じられ品位を高く求めること。
心の込もった取り組みと対応。
そして他の真似をせず全てオリジナルである事。
これらの基本的な事が開発・製造・デザイン・販売の各部門で確認しあった。
製品は化粧水・乳液・クリームから始め次にメークアップ製品へと繋いで行く。
各課長からティーフディレクター、ディレクターが決められてスタートした。

 総合ミーティングの中で次の事が福賀から告げられた。
目の不自由な人も居たり手の不自由な人もいる容器は出来る限りの配慮が行われその上で美的であること。
そして雪月花としての品格を持たせることに心を注いでほしい。
デザインは様々な制約に基づいて行われるもの。
制約が多ければ多いほどデザインの価値ありと受け止めてほしい。
そうした性格からデザインは全く自由なタブロー(絵画)に対して不自由芸術と言われています。
容器のデザインは安全で使い易くシンプルで装飾性のあるもの。
イメージのヒントとしてアール・デコを新しくした感じ。
また、雰囲気のイメージとしてはボッティチェリのヴィーナスの誕生。
容器には単的な点字を付けて既製の容器ではなく全て雪月花オリジナルにする。
容器とデザインは全て意匠登録をする。
点字の説明書を別に作成する。
姿勢としては当たり前のことを当たり前の事として行っていく。
売るだけではなく使用後の容器を回収する。
回収と容器のアフタケアーを負担する。
今年の秋に新製品を発表・販売する。
最初のミーティングは以上のようなものだった。
福賀の示した内容のどれもが他社が手がけていないものばかりだった。
しかし、その内容は全て当たり前の事だった。
スタッフの間に緊張感が走った。
それは誰も今まで味わった事の無い新しい挑戦だったから。
動き出すと其々のスタッフは思っていた以上に優れていた。
8月の下旬に新しい製品が出来上がり発表された。
反響は予想を遥かに超える大きさだった。
そして9月1日に製品が発売された。

 スタッフとはスマホとPCで繋がっている。
「凄い勢いで売れています」
「間違いなく?」
「間違いありません」
「そうですか。有難う」
後期の株主総会に間に合った。
「福賀さん月下です。好調な滑り出しのようですね」
「はい、社長のお陰です」
「いや、私は福賀さんのイメージ通りにしただけです」
「その結果こうなりました」
「良かったです」
福賀が入社して初めての真価が問われる。
福賀のイメージ通りに行われて化粧品制作製造には膨大の費用が掛かった。
社長はそれを飲み込んで直球勝負してくれた。
そのお陰で結果良好だ。

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 つづく


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小説「イメージ2」No:16


No:16

元旦に社名変更と新部門の増設と福賀の経歴紹介と入社が載った新聞広告が出て
正月明けに家庭用品宣伝部の先輩に福賀は電話した。
「もしもし先田さんをお願いします」
「どちら様ですか?」
「後輩の福賀です」
きっと今度部長で入ってくる福賀さんよ。
交換手たちのささやきあいが聞こえる。
「少々お待ちください」
「先田です。福賀くん?」
「4月からお世話になります。先輩よろしくお願いします」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
「有難うございます。ご都合の良い時にお会いしたいのですが・・・」
「いいよ、今日でも良いけど」
「そうですか。それでは今日そちらに伺いますが何時頃がよろしいでしょうか?」
「夕方位にどう?」
「はい、では6時に電話します」
「解りました。待ってます」

 先田は国立アート大学の6年先輩になる。
今は宣伝部の部長。
福賀は6時に雪月花に電話して宣伝部がある4階に上がった。
正月明けだから早々に社員たちは帰って誰もいない。
「良いタイミングだね」
「恐れ入ります」
「じゃあ出ようか」
連れ立って会社を出て先田の案内で料理を食べながら呑める店に入った。
銀座にもこんな店が残っているんだと意外に思うくらい古風な店だった。
「君を是非誘いたいと思ったがうちでは来てもらうのは無理だと思ってね
誘えなかったら、社長が動いて君を取ってくれて助かったよ」
先田は気持ちのまま率直に此れ迄の事情を話してくれた。
「僕は化粧品のデザインをしたかったのです」
「そうか。うちには無かったからなそれで」
「既にある所では新しい事は薦めにくいでしょう」
「そうだね。それぞれ形が出来上がっているからね」
「そうだと思います」
「それらと比べたらうちには新しい事が出来る可能性があったか」
「そうです。新しい展開の可能性があって僕を望んでくれたから決めました」
「それにしても実に良いタイミングだったんだね」
「はい。本当に良いタイミングでした」
「思い切ってやると良い。応援するよ」
「有難うございます」
「これからはお互い連絡を密にしていこう」
「はい。よろしくお願いします」
お互いに協力関係を確認し合って後は大学の話をしながら楽しんで呑んだ。
「先輩、此の酒旨いですね」
「やっぱり解るか、これ久保田の万寿だよ」
「久保田覚えておきます」

 銀座に近い京橋の裏手に福賀の個人事務者が発足したのは今から遡って
去年の6月の事だった。
デザインオフィスFGは極秘のうちに準備を薦めていた。
正月明けに福賀の事務所開設の案内はメールとハガキで行なった。
有るかも知れない取材に備えて既に福賀とその仲間たちは事務所に待機している。
「福賀くんおめでとう。お願いする仕事があったらよろしく。頑張ってください」
先輩たちから福賀独立の確認と祝福の電話が掛かってくる。
これで先輩たちへの挨拶が出来たと福賀はほっとした。

 五代目彫辰に会ったのが大学3年の6月、月下にスカウトされたのが4年の3月。
福賀が仲間とデザインオフィスFGを設立したのは4年の6月。
それから月下の方は10月の株主総会で社名変更と新たに化粧品部門の増設の案件を
承認してもらい議決書類をまとめ、法務省に届けなければならなかった。

「福賀です。事務所を開設してメールとハガキで知らせました。此方の準備はこれで出来たので7・8月は休ませていただきます」
「私は社名変更と化粧品部門新設の件だけ準備を進めます。10月の株主総会の承認と議決書が必要ですから」
4年間続けて来た2ヶ月有る大学の夏休み献上で中国河南省嵩山にある少林寺に少林拳習得の締めに行く予定でいる。

 9月に入って福賀と月下は10月の株主総会への準備で忙しくなった。
社名は株式会社雪月花(せつげっか)通称はセツゲッカあるいはSETUGEKKAで決定。
「化粧品部門の方ですが研究所と工場のヘッドに訳を話しスタッフの相談と販売部と宣伝部のヘッドにスタッフの相談をしなければなりません」
「新部門が加わるので可成の人員補充が必要で新規募集も必要になるでしょう」
「そですね。其の積りでいます」
「出来れば化粧品向きのスタッフを現在の中から少しで良いから選んでほしいです。宣伝部の先田先輩はその辺は解ってくれていると思いますが他の部門は社長からよろしくお願いします」

 10月の株主総会で社名変更の件と化粧品部門新設の件は承認され議事録も作成し
法務省への申請も済まされた。
そして4月入社式が行われて福賀に辞令が渡された。
化粧品宣伝部長兼化粧品開発プロジェクト・トータルマネージャとして新しい部屋と
新しいスタッフが与えられた。
いよいよ福賀のイメージが此処から発進される。

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つづく




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小説「いめーじ2」No:15

No:15

イメージ No:15

「皆さん 本当に申し訳ない」
月下社長は深々と全取締役に頭を下げた。
「先日の話は無くなりました」
「あの記事のフクガキヨシが我が社に来る話」
「じゃないですよね」
「いや、其の話です。本当に申し訳ない」
「え~社長それはないですよ」
「どうしたんですか?」
「実は昨日だった。家に電話があって23社のオファーを断るには
独立して自分の事務所を持つ事にしなければ先輩に申し訳ないので」
「え~~あ~~~」
「申し訳ない。彼が独立したらメインのクライアント契約をしたいと」
「クライアントですか~あ」
「まあ、そうですね。考えてみたら縁もゆかりも無い我が社と先輩の顔を潰して」
「やっぱり無理でしたか。非常に、残念です」
「いや~社長は真っ先に彼と会って我が社に来てくれるように働いてくれた」
「仕方ないです。社長は良くやってくれました」
「申し訳ない。本当に申し訳ない」
「メインのクライアント素晴らしい」
もうこうなるとヤケになってしまわなければ引っ込みがつかなくなった。

 福賀はオファーをいただいた23社に先輩を訪ね自分の事務所を持つ事に
決めたと報告に回り終えた。
気がついたら既に10月国立アート大学の芸術祭がやって来た。
「ようこそ・・・」
ナミカが友達をつれてやって来た。
「一通り中を案内しましょう」
自分たちの大学とは余りにも違い過ぎて見るところ見るところ驚きの連続。
「わ~凄く大きな石膏像ばかり」
「ここは石膏室だから」
「こんなに大きな石膏像は初めてみました」
次に行きましょう。
「このは油絵科の教室です」
「みんな大きいですね」
「そうです。50号から100号が多いですね」
「ここは日本画科の教室です」
「ここも大きいですね」
彫刻科や建築科など色々な科を廻ってデザイン科へ。
「先輩、山下教授が用事があるそうです」
福賀は後輩たちにナミカ達の案内を頼んで出て行った。
「じゃあ僕たちがご案内します」
「福賀先輩は超忙しい人なんです」
「また来てくださるのかしら?」
「来るかもしれないし来ないかもしれません」
「そんな~~~」
「冗談です冗談。福賀先輩は必ず来ますよ」
ナミカ達は福賀の後輩達に案内されてデザイン科の部屋を見て廻った。
先ずは一年生の部屋、そして・・・
「ここが僕達二年生の部屋です」
自分たちの作品を其々教えながら案内する。
「新しい感覚で素晴らしいですね」
「色が素敵・・・」
「形も面白いわ」
「それぞれの感性と云うかセンスと云うか違いがはっきり伝わって来て・・・」
「本当に初めてデザイナーの感覚って違うんだな~ってびっくり」
「僕達はまだまだのまだまだですから・・・」
「謙虚なんですね」
「いえ、本当にそうなんです」
「さぁ此れから先輩達の作品を見に行きましょう」
「いよいよねナミカ」
「ナミカ大丈夫?」
「大丈夫」
「ナミカさんは・・・そうなんだ」
「で、ナミカさん以外の皆さんは?」
「私たちはフリーです」
「そうなんだ。じゃあ~よろしくで良いですか?」
「まぁ~良いかな」
「そうね。いいかも」
「みなさん大学でしょう?」
「ええ大学です」
「文化祭いつですか?」
「11月に入って直ぐにあります」
「伺っても良いですか?」
「福賀さんと一緒にいらっしゃったら」
「一緒じゃなくちゃダメですか?福賀先輩忙しい人だから・・・」
「そのようですが、みなさんご一緒に来てください」
「良かった良かった。良かったな」
「こちらです。福賀先輩の作品です」
「ナミカどう?」
「聞かないで・・・」
「感動しちゃったみたい」
「僕達だって。なあ」
「うん。そうだよな」
「そうでしょう。そうだと思う」
「来て良かったです」
「私たちの大学と違いが凄くあって驚きました」
「来ていただき有難うございます」
「あちらに喫茶コーナーが出来ていますからどうぞ」
「疲れたでしょう」
「はい、おどろき疲れしました」
「ちょと休んで行かれると良いです」
「福賀先輩も来ると思いますから」
ナミカ達は案内されて喫茶コーナーへ行った。

 月下は悪役になって役員達の熱をさました。
事は慎重に、そして密に行わなければ成らない。
福賀を取る事は容易では無い彼の承諾を得ても油断は出来ない。
確かに何事もなく4月に我が社に来てもらわなければならない。
この幸運を逃しては成らないのだ。
社内極秘案件だと役員達に云ってしまったけれどもしも誰かが誰かに
このラッキーな話をしてしまったら、また誰かが我が社の株を買ったりしたら。
それはインサイダーになって罪人を出してしまうし、他のインサイダーを生む
かも知れないだろう。
 月下はどんなに役員から非難されても良い自分以外に福賀獲得の条件を満たす
手伝いをさせてはならない。
福賀に言われた社名変更・社名のロゴ(これは福賀がデザイン)化粧品部門増設の
手続きなど内密に準備しなければならない。
 月下は福賀の新聞記事を見た時に直感で此れはスカウトだと思った。
そしてどんな条件でもいくら費用が掛かっても良い我が社で取りたいと決めていた。
社長として此れほどやりがいのある仕事があるだろうか鬼になってもやり遂げる。
役員達には申し訳ないが此れも我が社が進化する為に必要なんだ。
許してほしい、

 一方で福賀は芸術祭が終わった時点で極秘に事務所の準備に掛かっていた。
同期の友人にスタッヅとして一緒にどうか打診して既に数人の同意を得ている。
福賀は表には立たない。
クリスマスも忘れたように過ぎて正月が近づいて来た。
月下の会社もそれぞれが一年の労を労いつつ仕事納めの挨拶を交わしていた。
あの件で希望を失った役員達も今日は納会で集まっている。
「皆さん聞いてください。今日はまた改めて極秘事項を発表しなければなりません」
「又ですか。今度はどんな極秘事項なんですか?」
「元旦に我が社の社名変更と化粧品部増設そして我が社に入社する福賀貴義の紹介記事を
2ページ見開きで載せた新聞広告が出るのでそれまでは極秘にして絶対に他に漏れること
の内容に改めてお願いします」
「え〜〜〜本当ですか?」
「また、実はなんて事はないですよね」
「申し訳ない」
「え?また謝った。社長なんで謝るんですか?」
「彼は来年の4月に来ます。それまでは来ません」
「あ〜〜〜何を云ってるんですか。そんなの当たり前でしょう」
「それから彼の条件通り化粧品部・部長で来ます。宣伝部の部長兼務です」
「解っていますよ」
「万一インサイダーなんて無いとは思っても有ったら全て無くなるだけでは済まず。
会社の此れまでの信用を失ってしまう。そうしたら100年以上続けてきた先逹に
申し訳が立たない。そればっかり考えてしまって怖かった。頼みます。あと数日です」
「解ります。我々も社長が思っている事は同じように思っています」
「そうですよ。勿論ですよ。身内を含め誰にも話しません」
「有難う、有難う、有難うございます」
「社長大変でしたね」
「よくやってくれました」
「辛かったでしょう」
「我々こそ有難うございます」
「これで来年への素晴らしい夢を見る事が出来ます」
「こんな事って本当に事始めですね」
もう訳が分からなくなってしまった感じがする。
みんな気持ちが悪いほで笑顔になってしまっている。
さ〜来るぞ福賀がくるぞ〜〜〜。

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つづく


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小説「イメージ2」No:14 

イメージ No:14

「僕は此処に居る時は自然のままでいます」
はっとしてナミカは福賀を見詰めた。
研ぎ澄まされた身体はあのギリシャ彫刻の・・・
あれは・・・と思い出そうとしたが出てこないう~ん
そうだダビデだった。
え~~~でも背中に何かある。
ナミカが生まれて初めて見る本物の入れ墨が・・・
なんで何でどうして?。
そうだ福賀さんと同じ姿になろう。
ナミカはそう決めて立ち上がった。
其の時だ、どこからかジャスミンの香りが漂って来たのは。
 
 いつの間にかソファーにはブルーのバスタオルが敷かれていた。
前に置かれた低めのテーブルに形の違う茶飲み茶わんが二つと
常滑の急須が・・・そしてポットが置かれていた。
ナミカは自然のままの姿になって福賀の脇に座った。
「壁に飾ってある絵は全部僕の作品だから気に入ったのを選んで
くれませんか?」
と聞かれてナミカは・・・
「全部です」
「全部は困るな~」
「何故ですか?」
「「ナミカさんに・・・」
「ナミカと呼んでください」
福賀は少し黙っていた。
「それじゃ・・・ナミカへのお誕生日プレゼントにしたいから」
そうだったんだ。
「本当に?福賀さんの作品をいただけるのですか?」
「そんなことしか出来ないので」
照れてるぞ福賀(雲)
こうして居るだけで私には最高のプレゼントなのにとナミカは感動していた。

 管理人の居るマンションはオートロックになっている。
入り口のプレートにキィを触れるとドアが開くようになっていた。
8階建ての5階にナミカの部屋はあった。
玄関を入ると右にトイレ、其の隣がバスルーム。
左側に長めのシンクと食器棚・冷蔵庫が置かれている。
ウオーター・サーバーがあってエスプレッソ用の機器がある。
其の奥にフローリングのリビングが白と黒を基調としたインテリアがメーキング
されている。
グレーのカーペットが中央に敷かれた上に円形の大きなテーブルが置かれて居る。
右の壁には腰くらいの高さに揃えられた木製の家具が並べられて居る。
其の中のやはり木製の机の上にノートパソコンが置かれている。
右側の奥に寝室のドアーがあった。
「私はこんな部屋は贅沢過ぎるからいらないって云ったのです。でも、父が
お友達が集まれた方が良いし安全でないと心配だからと」
ナミカは恥ずかしそうに云い訳をした。

「高3の時に?」
「高校は横浜だったから・・・同じホームで」
「同じホーム?え~見られてた?」
「ホームには男子の大学生が沢山いましたが福賀さんだけ気になっていました」
「変だったから?」
「変じゃなくて、福賀さんだけが自由な感じだったからです」

 予感はしていたが部屋の感じでセンスの良さも解るし、直感力も十分ある。
福賀はナミカの事を何も聞かないし、ナミカも福賀の事を何も聞かない。
外の風景を眺めながら静かな風が二人に流れていた。

 ナミカは母と一緒に自分の誕生日パーティの準備をしていた。
壁には前日までに届けられた福賀の作品が飾られていた。
「この絵素晴らしいわね」
「でしょう」
「どうしたの?」
「あっ誰か来たみたい」
ナミカの大学の友達が連れ立ってやって来たようだ。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
「ようこそナミカのお誕生日に来てくださいました」
「ナミカお誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「ナミカあの絵どうしたの?」
「いただいたの」
「誰に?」
それぞれから用意して来たプレゼントが渡される。
「まあまあナミカの母です。よろしくお願いいたします」
「こちらこそナミカさんにはお世話になっています」
「手伝いに行こうかって話あったのですが其れも可笑しいかなって」
「大変でしたがなんとか出来ました」
「あ、いらっしゃったみたい」
「誰が?」
「あの絵素敵ですね」
「でしょう。私もびっくりしてましたの」
「どなたの絵ですか・」
「私も聞いたのですが、まだ教えてもらえないんです」
ナミカに迎えられて福賀が入って来た。
「お招きをいただき有難うございます」
「此方こそ忙しいのに来ていただいて有難うございます」
「あの絵をプレゼントしてくださった方です」
「福賀です。ナミカさんとお付き合いをさせていただいています」
「あ、海の家であった人だ」
ナミカの大学の友達は知らされていなかったのでびっくりした。
「ナミカの母です。あの素敵な絵をプレゼントしていただいて有難うございます」
これで全員そろった訳だ。
「みんな来てくれて有難う」
「ナミカ?知らなかったわよ」
「云わなかったもん」
「ナミカとお付き合いいただいて有難うございます」
母も福賀を気にいったらしい。
「いいえ、私たちの方が付き合っていただきお礼を云いたいです」
大学の友達は自分たちに云われたと思って居るらしい。
ま良いかとナミカは可笑しくて嬉しかった。
ナミカが気になる位に母は福賀にべったりだ。
これもまあ良いかとナミカは思った。

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つづく

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小説「イメージ」No:12

イメージNo:12

 翌日、雪月花石鹸株式会社の役員室では役員達がそれぞれ福賀の記事を見たらしく
「社長、日曜日の新聞記事見ましたか?」
「社長、宣伝部から電話がありました」
などと可なりの注目と関心が役員の間で渦巻いていた。
「其の事で緊急に取締役会を開きます」
月下は先ずはその場の異常な反応を沈めようと思った。
「実は昨日、私も皆さんが見た記事で此の人材は絶対に他社にに取られたくないと思って或る人を介して彼と接触をしました」
「お~~~流石に社長素早かったですね」
「それで彼と会えましたか?」
「会えました」
「それで?」
「彼は先輩を通して23社からオファーが来ていると云っていました」
「23社も?」
「そうです。23社以外でも此れからオファーして来る会社もあるでしょう」
「宣伝部に聞いたらやはり到底無理なのでオファーは控えていると云っていました」
「やっぱり」たの役員が溜息をつく。
「それは解ります。あれだけの人材は他に居ないでしょう」
「それでどうでした?社長?」
「彼の条件は全て受け入れるので我が社に来てくれないかと頼みました」
「それは当然です社長」
「そして彼が出した条件はどんなものですか?」
「その条件は此のプリントにあります」
月下は役員全員に用意して来たプリントを渡した。
しばらく沈黙の空間が広がった。
あ然とした表情でお互いを見合って声がでない。

「凄い!」
「本当に凄い!」
「前代未聞です」
「これほどの条件は今まで見たことも聞いたこともありません」
月下が盛んに頷いている。
「大袈裟ではなく現実的に彼を取るか取らないかは社運を掛けた極めて重要ん案件だと思いますが」
「確かに彼の稀な能力を持った存在は将来的にも大きな財産になると思います」
「彼が他社に行ったら我が社としては非常に大きなマイナスになるでしょう」
月下は云い切った。
「私は社長として課せられた責任として彼が示した条件を全て受け入れて彼に来てもらいます」
「で、彼は来てくれますか?」
「彼は我が社に来てくれます」
「お~~~やったぁ!やりましたね社長」
思わず感動の拍手が沸き起こった。
「と云うことでよろしいですね」
「勿論ですよ。我が社に今までに無い春が」
「社長、本当によくやってくれました」
月下が両手を上に開いて浮かれる役員たちを抑えた。
「これは特が付く社内外共に極秘案件です。漏らす事など決して無いようにお願いします」

No:13 

「ナミカさんのお父様の会社に入ってお世話になります」
福賀はナミカに電話で伝えた。
「そうですか。父は大変喜んでいます」
「でも、それは来年の事ですが僕個人としても内外ともに極秘になっています」
ナミカは固唾をのんで次の言葉を待った。
「其の事をナミカさんに伝えて置きたくて電話しました」
「有難うございます」
既に福賀の動向はマスメディアでは取材対象になっている。
毎日のように留守電に取材の問い合わせが記録される様になって来た。
「お会いするのが難しくなったのですね」
「そうです。それでケイタイを持つことにしました」
スマホは便利だが色々活動する福賀には煩わしかった。
しかし今度は極秘の状況下では必要になってくる。
「持たれたら電話かメールをしてほしいです」
「勿論、真っ先にしますよ」
福賀からナミカにその日のうちに電話が来た。

 福賀は次の日からオファーをしてくれた先輩に電話で断りを入れ始めた。
「先輩に有難いお誘いをいただきました。色々考えて生意気ですが独立してやってみようと決めました、よろしくお願いいたします」
「残念だけど其の方が良いと思う。私の手に負えない仕事があったら頼む」
23社の先輩たちは優しく福賀の決めた独立を尊重してくれた。

 福賀はナミカを誘って銀座でチキンライスを食べた後の話をしよう。

「ちょっと離れた所に落ち着いたお店があるからお茶しましょう」
次から次と福賀が決めていくのが爽やかな感じがして・・・
「はい」と答えてしまう。
「此処は先輩に連れて来てもらったお店です」
店内は白と黒の色調で統一されていた。
「お店の名前はイースト。先輩は良い人って云っていたけど」
と云って福賀は笑った。
良い人だなんてどう受け答えていいかナミカは困ってしまった。
話をかえようナミカはそう思った。
「あの~、今度の土曜日私の誕生日でパーティをします」
「どこで?」
「私の部屋で」
「そう」
「それで福賀さんに来ていただきたいと思っているのですが」
「いいですよ」
「本当ですか?」
「土曜日何時から?」
「夕方から」
「伺わせていただきます」
「海で一緒だった友達を呼んでいます。後は母です」
福賀は何か考えていた。
「其の前に僕のところに来ませんか?」
ナミカは黙って頷いた。

 福賀の部屋が見れるんだ。説明はいらない部屋が福賀を見せてくれる。
歩いていても電車に乗っていても未知への楽しみでナミカの気持ちは一杯だった。
「ここです。どうぞ・・・」
そこは福賀のアトリエだった。
部屋に入ると右側にトイレとバスルームそして並びにキッチンのシンクがある。
予想出来なかったのは其の奥、フローリングの床が広がっている。
ナミカの部屋にあるリビングより遥かに広い。
突き当りがガラス張りの引き戸になっていてこの高さ2メートルはある。
レースのカーテンと綿の明るいグレーのカーテンが掛けられていた。
左の壁に油絵の作品が三点飾られていて、右の壁にも作品が飾られていてこ其の前にデザイン用のデスクがあってディスクトップのパソコンが置かれていた。
入り口側の壁にも作品が飾られていて、其の前に大きめのソファーベット。
其の前に大きな画架が置かれていて描き掛けのキャンバスが掛かっていた。
まるで其処は魔法の国に来たかのようにナミカに感じさせた。
それは彼が描いた作品たちに囲まれた其の時から。
高校の美術室で嗅いだあの油絵の具の匂い。
「あぁ新鮮!」

この部屋の下は建築会社の作業場になっている。

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そこに生まれたままの姿で福賀が現れた。

 つづく


 




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