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小説「イメージ」No;24

イメージ No:24

 福賀は青森の温泉ホテルにいた。
「今日、従業員の面接があるのですが、福賀さんの直感でお願い出来ませんか?」
どんな人かも説明なしで頼まれてしまった。
外国からの旅行客に備えてどうしても欲しいらしいが本人が決断出来ないらしい。
「色々本人から聞いて見ましょう」
女将が連れて来て自分は帰ってしまった。
「砂浜(スナハマ)すあし(スアシ)です。よろしくお願いいたします」
「福賀です。株式会社雪月花の専務をしています。このホテルでは貴女に来て
欲しいと女将から聞いていますが、貴女が決断をしてくれないそうですが」
「はい。私は出来たら此方で自分を活かしたいと思っています。でも、どうして
いいか解らないで困っています」
「英語は何処で覚えたのですか?」
「父が仕事でロンドンに住んで居て10歳から高校3年まで居て覚えました」
「そうですか。それは私にも無い貴重な経験と財産だと思いますが。なぜ?」
「それは、私の身体に或るモノがあって、消さないと此処に来れないから」
「消して消せるモノなら困ることはないですね。簡単に消せないのですね」
「そうです」
「解りました」
福賀は女将に此方から電話するまで部屋に来ないようにと告げた。
「多分、砂浜さんが困っているのは此れだと思います」
失礼と声を掛けて福賀は服を脱いで背中のものを出して見せた。
砂浜は息を飲んで目を見開き福賀の背中を見つめて頷いた。
「あるモノは消さなくていい。消すと汚れるだけです。此の事は私と女将さん
だけの胸にしまっておいて貴方を守る。それで良いですね」
「はい。有難うございます。初めて気持ちがスッキリしました」
女将を呼んで決められなかった理由を説明して砂浜さんの消したいものの事は
二人だけの秘密にする事で決着が着いた。
「福賀さんお世話になりました。私が欲しかった優秀なフタッフが出来ました
有難うございます」
福賀は女将のほっとした安堵の笑顔を見て東京に戻って行った。

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 福賀の秘書が付きあれやこれや色々と雑多な用事をこなしてくれている。
近いうちに一度伊東の山海ホテルに案内しようと決めているのだが。 
今夜は公園の入り口にある鳥料理屋で省庁にいる福賀のブレーンと会う事に
なっている。
同志と云える官僚の卵が各省庁に2・3人づつ居るのだ。
此れからの省庁の在り方、政府の在り方、現在の様子などを密かに話し合う
会合を時々している。
これは個人的な付き合いなので秘書の仕事圏外だが海辺秘書の伊東行きは
明日にしようと福賀は決めた。

 この機会につながったのは福賀がインテリアをデザインした馴染みの食事
処から帰る途中だった。
赤坂の裏通り、ビルの裏にある空き地に不穏な気配を感じた福賀が様子を伺う
と男4人の黒い影認められた。
3人と1人が静かにうごめいて居る。
声はしないが何かトラブルのようだ。
静かに近づいて行くと中の一人が光るものを持っている。
3人が1人の男に刃物を突きつけられているのが解った。
福賀はその光の横に立った。
「邪魔するな!」男は低い声で云った、と同時にその男は福賀放った気で
固まり動けなくなってしまった。
「事情は解りませんが後は私が引き受けますから・・・」
「有難うございます。お名刺をいただきたいです」
3人は夫々礼を云ってその場を離れて云った。

 あの時、そう赤坂の暗闇で脅されていた3人の1人から電話が掛かって来た。
「その折は危ないところ助けていただき有難うございました。お礼をしたいと
3人で思いながら遅くなり申し訳ございません。ご都合の良い日にお会いしたい
と思って居るのですが・・・」
「来月の前半にご都合の良い時に如何でしょうか?」
「解りました。その頃なた電話させていただきます」

それはそうとして私的な活動は別として専務になってから社内外の仕事が可なり
増えていて秘書が付いて色々さばいてくれている。
福賀は東京の会社以外に伊東の山海ホテルの中にある仕事場でも仕事をいている。
頻繁に出かける福賀は秘書から温泉に行って楽しんでいると思われているらしい。
一度伊東の仕事場を見せておこうと考えていた。

「取り敢えず残りの県を廻っておきましょう。その前に伊東にへ・・・」
「また温泉ですか?」
「海辺さんも行きたいですか?」
「行きたいです」
「じゃあ行きましょう」
「ほんとうに?」
「ほんとうです」
「取り敢えず今日の7時頃、銀座の福寿司に行っていてください。私は8時
にお店に行きますから、其れまでゆっくり好きにしていてください」
「はい。解りました」
うまく乗ってくれたと福賀は一安心だった。

 8時少し前に福賀がのれんを開けて入って来た。
すると店の中が急に動き出した。
女将が暖簾を取りに店を出ると店内では大将が皆んなに話はじめた。
「今日は此れから店の伊東温泉一泊旅行になるんでおしまい」
常連でこんな日に出会うのを楽しみにしていた客はしめしめとにんまりだ。
「一緒に行きたい人は自己責任で付いて来て良いよ。行けない人はまた来てね」
「え~専務、何でこうなるんですか?」
「海辺さん温泉に行きたいって云つたでしょう」
「いいましたけど~今日だとは思っていませんでした、何も用意してません」
「大丈夫。あっちに行けば何でもあるから」
「海辺さんもお家に電話しなくては・・・」
もう仕方がない福賀専務と二人っきりで温泉なんて其れは無理でした。
「もしもしお母さん、今お寿司屋さんに来ているの。これからお店の温泉旅行
に付いて行く事になったから・・・」
「何ですって。温泉にって?」
「福賀専務にお寿司ご馳走になったの」
「それが何で温泉なの?」
私が出ましょう。
「もしもし私、株式会社雪月花の福賀です。海辺さんには私付きの秘書で大変に
お世話になっております」
「これはこれは初めまして南の母でございます。突然でしたので失礼しました」
「こちらこそ突然で申し訳ありません。私が度々伊東に行くものですから温泉に
私も行きたいと言われまして、団体の方が良いと思ってこうなりました」
「それはそれはお気遣いいただき有難うございます。よろしくお願いいたします」

いつもの事で店も客も解っているから滑るように夫々の連携で用意は整って行く。
バスが来たようで、客から表に出て女将がしっかり戸締りを確認して出発だ。
バスの中でも皆んな元気で和気藹々でおしゃべりしたりカラオケで楽しんでいる。
流石に福賀専務に歌えとは言い難いようで海辺にご指名が入ったりしていた。

「お久し振りでございます。いつも山海ホテルをお利用くださいまして感謝です。
ささどうぞ大広間にお入りください。簡単ですがご膳を用意しています」
皆んな夫々適当に席について和んでいる。
東西観光バスの添乗員とドライバーも一緒だ。
海辺もその中に加わった。
みんなが落ち着いたところを見計らって女将が改めて挨拶に出て来た。
「本日は福寿司さま御一行の皆さん伊東温泉・山海ホテルにお越しいただき
誠に有難うございます。余り変わり映えいたしない料理で申し訳ありません。
福寿司さんに無いものを料理長が一生懸命に考えましたものです。どうぞ
お楽しみください」
「いや~、申し訳ないです。料理長さんに宜しくお伝えください」
大将が皆んなに変わって礼を云う。
「お酒も色々用意してあります。お風呂を上がってからゆっくりお楽しみを」
それから海辺には解らない事を女将が言い出した。
「30分ですが何時もの福寿司通例の大浴場露天風呂貸切にいたします」
「そうなんです。この通例が楽しみなんです。よろしくお願いいたします」
「畏まりました」
初めて参加した福寿司の常連客は何の事か解らないから怪訝な顔をいている。
「30分の大浴場貸切ってなんすか?」
「ま、この旅行は成り行きに任せて楽しむので乗ってみれば解ります」
「そうですか・・・」
「そうです」
 女性客のところに女将がやって来た。
「ご希望があれば女湯のほうも30分貸切で福賀専務さんと一緒になれます」
「え~本当ですか?」
「此方のご旅行では通例になっています。大袈裟でなく男女機会均等の試み」
「どうしよう?どうします?」
「私、入るわ」
「うちではTV番組のようにタオルを巻いてお入りになるのは無しですよ」
「私も参加します」
海辺も思わず云ってしまった。

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 つづく


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lamer75

こんにちは
いっぷくさん じーパトさん トレンダー櫻井さん あるいるさん
YUTAじいさん 青山実花さん jun-arさん hagemaizoさん
ryo1216さん たくやさん 扶侶夢さん ソレイユさん ゆきちさん
okina-03さん kohtyanさん ぼんぼちぼちぼちさん carotteさん
nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-19 14:06) 

yoko-minato

恒例の展開になりましたね。
でもいきなり温泉へと言われても
皆さん同行されるのは・・・
たぶん福賀さんの持っている何か
でしょうね。
by yoko-minato (2023-07-19 16:25) 

lamer75

Yoko-minatoさん こんにちは
ご明察でございます。
福賀に何かがなければあってでしょうね。
nice!とコメント有難うございます。

by lamer75 (2023-07-19 17:31) 

lamer75

こんにちは
ma2ma2さん kiyoさん 優紀乃さん 爛漫亭さん トックリヤシさん
kameさん suz-UMAさん kousakuさん ritton2さん ハリネズミさん
nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-19 17:40) 

lamer75

こんにちは ゆうのすけさん nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-19 17:47) 

八犬伝

入れ墨
最近こう呼ばないか
タトゥーだったのですね。
by 八犬伝 (2023-07-19 21:19) 

lamer75

こんばんは たそがれじーじkajisanさん ともちんさん グリーンさん
ヨッシーパパさん 猫毬さん センニンさん (。・_・。)2kさん
ハマコウさん なかせさん コーヒーカップさん てんてんさん
stitchさん ぷちさん みずきさん 水円 岳さん 
nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-20 00:16) 

lamer75

八犬伝さん こんばんは
刺青も色々でタトゥーも色々あると思います。
刺青は精神的なものタトゥーは装飾的なものと私は認識して書いています。
なので福賀が入れているモノも砂浜すあしが入れているモノも刺青と認識して書いています。
誰々命なるものも精神的なもので刺青の領域に属すると思います。
そうした類のものは見えるところには入れないのが普通です。
見せる目的でいれるものは見える所に入れるでしょう。
何々のために描いたものがイラストで何々のためでない自己表現がタブローであるよな違いでしょうか。
違うものでもカタカナにしたら格好いいは如何なものかと思っています。
nice!といつも貴重なコメント有難うございます。

by lamer75 (2023-07-20 00:37) 

lamer75

こんばんは suzuranさん nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-20 00:40) 

lamer75

こんにちは
haruさん さる1号さん enosanさん 絵瑠さん
nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-20 11:58) 

lamer75

こんばんは newtonさん SORIさん ミィさん
nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-21 18:18) 

lamer75

こんにちは つむじかぜさん ふるたによしひささん 茶苑呑さん
nice!を有難うございます。
by lamer75 (2023-07-22 16:26) 

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