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小説「イメージ2」No:8

小説「イメージ」No:8

 入り口の扉が開いて一人の男が入って来た。
「えらっしゃい」
威勢のいい声が迎える。
客はボックス席には目もくれずカウンターに目を
走らせて入り口近くの一番隅に向かった。
「お客さんこっち空いてますよ」
「隅が落ち着く質だからここに決めます」
そうですか。其処が良いなら良いんだけど変わった人だな。
大将は折角勧めたのにって残念そうだ。
「大将!」
初めて来ていきなり大将呼ばわりかよこの客は・・・
「大将、ダリが描いた溶けた時計が机にへばりついた絵あるでしょう」
「ありますね。私だってその絵ぐらい知ってますよ。でその絵が何です?」
「あの時計のモデルになった時計どこに行ったか知りませんか?」
「其処までは知りません。それがどうしました?」
「大将なら知ってると思ったんだがな」
変な人が入って来ちゃったよ。
「ま良いか、大将、此れからお店の温泉一泊旅行に行きませんか」
温泉?いいね。これから・・・。
「良いですよ。行きましょう」
「流石だ・大将気が合いますね」
気が合ってると言われてしまったよ。
「ちょっと待ってね」
福賀が電話を掛けに外に出る。
そこにニコニコしながら女将が暖簾を店の中に仕舞いに来る。
「大将。行き先は伊東温泉泊まりは山海ホテルです」
「バスは?」
「東西観光30分くらいで来ます」
「了解。福寿司一行だね。え?店のものだけじゃなくて行ける客も?」
「そうですよ。費用は全部私もちです」
何なんだ此の人は?
「お客さんは何屋さん?」
「何屋さんってデザイン屋さんかな?」
「自分に聞かないでよ。デザインって色々あるでしょう」
「広告のデザインって解る?」
「テレビに載せるCMとか新聞とか雑誌とかチラシとか?」
「よく知ってますね」
大将は褒められて苦笑いだ。
「バス来るまで何か握ります」
「任せます。日本酒がいいな。久保田ありますか?」
女将が・・・
「有りますよ。冷にします?熱燗が良いですか?」
「冷やでお願いします」
大将が客に行くか行かないか聞いて、行く人は家に電話させている。
出掛ける準備が出来た頃バスが着いた知らせが入る。

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No:9

「ちょっとお母さん此の記事みてごらん」
ナミカの母が呼ばれて見に行くと広げられた新聞の記事に
福賀の写真が載っていて学生で初めて日本広告美術連盟の会員になって
国際アート・フェスティバルでグランプリを受賞した記事があった。
「あ!この人ナミカのお友達とお誕生日パーティーした時に会ったんだわ」
「え!ナミカの?」
「お友達みたい」
「ナミカのお友達?ナミカは居るのか?」
「昨日来て泊まって居ますよ」
「ナミカを直ぐ呼んでくれないか?」
いつもと様子が違う緊張感を感じている。
「はい」
急ぎ足で階段を登りドアを叩きナミカを呼んだ。
「ナミカお父様が呼んで居ますよ」
「はい、直ぐ降りて行きます」
どうしたんだろう何があったのだろうと思いながら降りて来た。
「お父様おはようございます」
「おはよう。この人ナミカのお友達だそうだね」
指さされた新聞の記事をみてびっくりした。
「はい、お友達です」
「直ぐこの人と会いたいんだ。会えるようにしてもらえないか?」
「・・・・・・・」
「凄く大事なことなんだ。頼む。お願いします。今直ぐにでも会わなければ
ならないんだ。仕事のことを家には持ち込みたくないんだが仕方ないんだ」
「お仕事の関係なんですか?」
「そうだ。会社にとっても私にとっても非常に重要な事なんだ」
「解りました。電話してみます」
まだ福賀は家にいるかもしれない。
「もしもしナミカです。おはようございます」
「あぁ~ナミカさん。おはようございます」
「ちょっと良いですか?私の父が福賀さんに用事があるそうなので」
「そう。良いですよ」
「父と変わります」
何の事か福賀は解っている。
「勝手で申し訳ありませんが今日出来るだけ早くお会いしたいのですが」
「はい、空いて居ます。時間と場所を決めていただければ伺います」
「では、11時半頃に新橋の近くにあるパーラー・ラ・メールで如何でしょう」
「はい、其処でしたら大丈夫です」 
「よろしくお願いいたします」
ナミカの父親は電話を切って緊張の糸が切れたように大きなため息をして・・・
「ナミカ有難う。ナミカの知り合いにこんな凄い人が居たとは・・・」
「そんなに大変な事なの福賀さんに会う事が」
「そうなんだ。凄く大変な事なんだよ」
「じゃあ良かったのね」
「良かった凄く良かった」
「私にはよく解らないけど」
「ナミカには解らないだろうな」
「全然」でもナミカは嬉しくて笑っている。
「仕事に行かなければ。それも生涯最大の大仕事に」
「そう?」
「社長としてね」

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 つづく



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