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小説「イメージ2」No:33


イメージ No:33

 著名人を呼んで対談するTV番組「アルミの窓」に経営者会議の会長・海氏が
出演している。
「いろいろ経済や経営のお話を伺えて勉強になりました。有難うございました。
ちょっと他に伺いたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「何です?ひょっとすると彼れのこと?」
「流石に会長さんは感が素晴らしい。株式会社雪月花の専務さんを可愛がって
いらっしゃるとお聞きしましたが」
「そう。あいつ、いや彼ね。彼の事は多少知ってます。多少ですがね」
「多少ですか?」
「そう。多少ですよ。多くは知らない。まだ知らないところが沢山ありそう。
知らない方がず~っと多い感じがする」
「成る程。会長さんがそう仰る福賀専務さんに私は非常に興味がありまして是非
私のこの番組に出ていただきたいとお願いをしているのですが」

「本人に?」
「いいえ。秘書の方に」
「それで?」
「何回お願いしてもスケジュールが詰まっていまして申し訳ありませんと」
「断られた?」
「はい。出演していただける時がありましたら私に直接でもとケイタイの電話番
号をお伝えしてあるのですが」
「来ないか?」
「はい、全く」
「で私に云ってくれと」
「はい。失礼なお願いで大変申し訳ないのですが会長さんからなら」
「それは解りません。彼は変わっているからね」
「でも、会長さんしかお願い出来る方がおりませんので、お願いします」
「そう言われたら断れませんな。言うだけ云ってみましょう。彼に青年部長を
頼みたい用事があるから。でも、どうなるか責任は持てませんからね」
数日してアルミの携帯が鳴った。
「株式会社雪月花の福賀です」

 アルミは局で番組の企画会議中だった。
「アルミです。福賀専務さん。お待ちしていました」
「で、月の前半で1日から5日頃が良いのですが」
「有難うございます。では、来月の1日に此方にお越しいただけますか?」
「解りました。時間は午後にしていただけますか?」
「はい。午後何時頃がよろしいでしょうか?」
「午後2時でどうでしょう?」
「はい。結構です。来月の1日午後2時。お待ちいています」

 やった~!福賀専務の「アルミの窓」出演が決まったと大はしゃぎですよ。
「会長に頼んだのが効きましたね」
「お礼の電話を先ず会長にしなければ」
「ほんと。思い切ったのよ。出演者に頼むなんて失礼な事だと解っていたけど
どうしても出てほしかったから頼んじゃった」
「さ~ぁ来月1日までにプランを立てなければ」
「出来るだけ福賀さんの資料を集めます」
「お願い!」
「福賀さんの事だから、どんな展開になるか解らないって感じがしますが」
「そうね。余り内容を決めない方がよさそうね」
「そう思います」
プロヂューサーもディレクターも興奮気味。
「何かワクワクして来て震えちゃってます」
「私もよ」
「スクープって感じですね」
「そうよ。これは大スクープよ。だから他に漏れないように気をつけましょう」
「了解」 

「福賀さんは未だ雑誌のインタビューも受けてないのでは?」
「多分まだ受けていらっしゃらないと思います」
「メディアでは私たちの番組が初めてよ」
「そうででしょう」
「1時間枠で行けるかしら?」
とアルミ。
「いや2時間取りますか?」
「そうね。2時間枠で調整してみて」
「はい。やってみましょう」
「多分、来月1日に打ち合わせして2日から5日までに収録ね」
「あくまで此れは此方の考えで福賀さんはどう思っているか解らない」
 
「専務に女性月刊誌の方からお電話です」
「つないでください」

「女性月刊誌「スピリッツ」編集部の水辺です。お忙しいところ申し訳ありま
せん。福賀専務さんにインタビューをお願いしたいのですが如何でしょうか?」
「いつ発行になるものですか?」
「来月の末になります」
「そうですか。それなら受けさせていただきましょう。いつが良いですか?」
「本当ですか?有難うございます」
受けてくれるかどうか解らなかったのだろう。
「来週の中頃いかがでしょうか?」
「では、水曜日の昼に此方に来てください。如何ですか?」
「はい。結構です。有難うございます。よろしくお願いいたします」
「はい、楽しみにしています」

 福賀はそろそろマスコミと関わっても良いかなって感じになっていた。
メディアを媒体として宣伝の仕事の関わって来た福賀だから、これらの世界を
知らないわけではない。
しかし、自分自身がその中で素材として扱われることはなかった。
「どうなるかは関わってみなければ解らない事だから考えても仕方がない」

 常に自然体でありたいと思う福賀だから、その場になれば感覚が自然に動き
出すし感覚が福賀に働いて、今までにない展開があって新たな世界が開けて
くるかもしれない。

「会長ですか?「アルミの窓」に出ることにしました」
「そうだってね。アルミさんから電話があった」
「これからマスコミで暴れますからよろしくお願いします」
「いいとも。思い切ってやってくれ。それから青年部会だけど部長を頼むよ」
「解りました。出来るかどうか解りませんが、やらせていただきます」
「そうかい。有難う。ごちゃごちゃ云わないところが良いな。よろしく」

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 今までは広告の仕事で隠れていた人間が表に出ると表現の世界で知られて
いた人間が実像として感受される。
作品と実像が並べられる。
それはメリットでもあったりデメリットでもあったりする。
何故か?
それは想像の部分を塞いてしまうからだ。
それぞれの想像があって楽しめたがそれがなくなる。
福賀にその覚悟は出来ているのか?
「出来ています」

 もっとも入社前の予告新聞広告で既に自分の経歴と写真を載せている。
虚構と現実をいまさら気にする必要がない。
どんな事があるか解らないで居るのが自然体であり、依頼を受けて出る訳で
云わばまな板にのった鯉だと思えば良いのだろう。

 アルミの方は経営者会議の会長の顔を立てる感じで出る事を承知したが一方
ナミカの方はどうなって居るのか気になるところだが心配はないようだ。
二人で同じ志をもって個々に活動している。
ナミカは自分のアパートに個人事務所をつくりNPOの活動をしている。
その事業は障害、いや障がいと書こう、何故なら害について辛い思いが感じられ
て抵抗があるからだ。

 色々な障がいを持つ人がいて其の具合も夫々違っていて視覚障がいとか聴覚
障がいなどとまとめられないところがある。
近年は知的障がいや他の障がいと重複障がいが増えて来ている。
そうした基本的な受け止め方や認識をグループで考えあう組織をまとめている。
そこに大学生の点字の先生と手話の先生に来てもらって教わっている状態だ。

 片や福賀はまた別のルートで点字と手話を研修社員と一緒に会社の一室を
研修用として使っていて其処にはナミカとは別だがやはり大学の点字サークル
と手話研究会のメンバーに来てもらって学習していて其処には海辺も来ている。
週2回1時間づつ定時の5時から7時までとしている。

今、福賀が企画した日仏現代美術交流展の作品は、視覚障がいのある人たちも
楽しめるようにと意識した作品の制作を提案している。
勿論、福賀もその条件で作品の制作をアパートで進行中だ。

 あぁまた伊豆の海に会いたくなって、高原の空気もほしくなって来た。
「そうだ。これから美味しい寿司を食べに行きませんか?」
「お寿司ですか?大好きです」
「私もお寿司大好きです。忘れるくらい食べてないです」
「今日は金曜日で明日はお休み」
「行けますか?」
行けますと二人の先生が答える。
「では、行きましょう」
「海辺さん、よろしく」
「はい。専務」
「どうでした?」
「勿論、OKです」

 つづく



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